悪意
5分、10分が経ち
何も不穏な物音や雰囲気もないので
私は少し肩の力が抜けたように、ゆっくりと
食卓テーブルの椅子に腰かけた。
( はぁ~~~~~、びっくりした。 )
何事かと思っちゃった。
でも、
ここは、拝み屋さん。
祈祷、霊媒の類を行う場所。
ヤバい、アブない場所なのは
わかっているはずなのに・・・。
あの巴菜さんの気取らない子供っぽい感触に
ちょっと、うっかりしていたなぁ・・・。
なんと、呑気なことか
もう30も過ぎている大人なのに・・・
場の空気感に流され過ぎだなぁ。
こんなんじゃ、いけない。
もっと、しっかり自分を保たないと・・・。
それはそうと・・・
彼らは大丈夫なのかしら・・・。
先程から続く静寂は少し怖いくらいだ。
深夜のちょっとした宴のはずが、
招かれざる客のおかげで、すべて御預け。
宙ぶらりんな時間を過ごしている。
このまま、何事も無く
屈託のない笑顔で戻ってきて欲しいものだが・・・
( ん? )
いま、少し暗幕が揺れた気がしたが・・・気のせいだろうか?
いや、気のせいでは無かった。
『 おばさん、だれ? 』
姿の見えない突然の声に、私は
悲鳴を上げてしまった。
『 ひぃっ!!!! 』
( だれ? そっちこそ、だれよ!?
姿が見えないんだけど・・・少年の声よね!? )
『 あ、おばさんには僕が見えないんだね・・。 』
『 ど、何処の誰だか知らないけど・・・その、
おばさんって言うの 止めなさい!! 』
私は姿の見えない相手に少し怒り、虚勢を張りながら声を上げる。
『 ふっ、どうでもいいプライドなんか捨てちゃいなよ。 』
( どうでもいいプライド? 冗談じゃない。
人間はプライド、尊厳をなくしたら終わりなんだよ。)
まぁ、私の場合は、
おばさんって言われたことに
暗に怒っただけなんだけど・・・
ちょっと、情けない・・・・わね。
『 ねぇ、さっきから姿が見えないんだけど・・・
まさか、引っ込み思案の透明人間なの? 』
私は少しバカにした口調で問いかける。
『 へぇ~。 そうやって誘導する気? 』
『 言っておくけど、私は一般人よ。
幽霊か物の怪の類なら 巴菜さんの方へ、どうぞ。 』
( 我ながら 何食わぬ顔で、すごいセリフだなぁ。 )
まぁ、姿が見えないから さっきと比べると
あまり怖く無いのもあるけど・・・ね。
私の提案に対し考えでもあるのか?
しばし、返事が無く 会話が滞っている。
すると、突然暗幕が大袈裟に揺れ、
爺や さんが顔を出し、驚いたように私に呼びかける。
『 お客様!! 』
『 あ、爺や さん。
いま、変な・・少年の声だけが・・・ 』
私が説明をしようとしたところ、
巴菜さんが物凄い形相で私を、いや私の右隣を睨み付けている。
『 あんた、わたしを本気にさせたようね。 』
巴菜さんの怒号に、全く動じないふざけた少年の声が
私の右隣りから聞こえてきた。
『 まぁ、あの子にも飽きたから、この人でもいいか。 』
( え!? どういう意味? )
あれ・・・?
右手が・・・おかしい・・・
右耳も・・・
あれ・・・?
私は、自身の感覚が無くなっていくのを恐ろしく感じながらも、
それよりも恐ろしい巴菜さんの決意に、心の底から ゾッとした。
『 地獄なんて、生易しい。 存在自体を消してやる。 』
~つづく~




