かみ, あつない駅
その駅は、昭和の懐かしさを感じさせてくれる木造建の無人駅だった。
私たちは再び動き出した列車を背中で見送った。
もちろん、この駅で降りたのは私たち二人だけ。
( 他のお客さんや運転手さんは、なんて思っただろうか・・・ )
私たちは、走り去っていく列車の音を感じ、
そして 改札付近の切符回収箱を横目で見ながら、
ゆっくりと誰もいない駅の中へと、引き戸の扉を開けた。
建物は古いが、
貼られている鉄道関連や地元の消防・警察の広報ポスター等は
比較的新しく、床も掃除が行き届いていて清潔感が保たれている。
壁に面して丸みを帯びた椅子が4席。
その一つに動物の名を付けた、あの国民的なアイドルが座っていて
「 ここ空いてるよ。 お姉ちゃん、何処から? 」
等と、声を掛けてきそうな雰囲気だ。
駅内は、やはりというか、勿論というべきか
私たち2人しかいない。
小さな私は、興味津々に駅の中のモノを注意深く見つめている。
私も少し落ち着いたのか、あるモノを探し出し、
私の付けている小さな腕時計に それを照らし合わせる。
現在、19時52分。
帯広・滝川方面と釧路方面の二つの時刻表を見合わせる。
19時50分、釧路行き。
ということは、今のが釧路行きの最終列車。
( じゃあ、今日の最終列車は・・・
帯広・滝川方面の新得行の20時51分、これが最後か・・・。 )
『 ねぇ、お姉ちゃん!! 』
『 な、なに? 』
『 これ、みて! 』
『 駅ノート? 』
『 なんか、みんなスゴイ書いてるの。 この絵、カワイイ・・・ 』
駅ノート。
立ち寄った人たちが、それぞれの想いを綴る旅ノートかぁ・・・。
『 ねぇ、これ見て。
この人なんか、寝過ごして 慌てて この駅で降りてるよ・・・
浦幌の人だって。 ふふふ、可愛い。 』
『 うらほろ? 』
私は、発車時刻表の隣りにある きっぷ運賃表に目を凝らす。
帯広、池田、浦幌、上厚内(ここだ!)、厚内、直別、音別、白糠、釧路。
帯広からここまで 大人1270円、こども630円。
ここから釧路まで 大人1270円、こども630円。
( ん? ここは帯広と釧路のちょうど中間にあるのか? )
『 ねぇ、来てよ。 一緒に見ようよ。 』
『 えー、私はいいよ。 』
『 じゃあ、私たちも何か書こうよ。 』
『 えー、それもいい・・・かな。 』
( っていうか、何を書くのよ。 無賃乗車しましたとか? )
『 つまんないの。 』
『 あなただけでも、書けばいいじゃん。 』
『 うん。 そうする。 』
『 じゃあ、私はちょっと、周りを・・・あ、跨線橋があったよね。
あそこに登ってみるわ。 』
『 えぇー、じゃあ、私も行く。 』
『 あなたは、ノートに何か書いてなさいよ。
私は・・・その、少しはじっくり考えたいし・・・ 』
その言葉に、小さな私は少し俯き気味になったが、
すぐに小さく頷いた。
再び、駅の入口の引き戸を開き
外へ出る。
近くには国道が通っているのか・・・少し、車の交通量は多い気がする。
でも、跨線橋の階段を一段一段昇っていくと、
少し身の縮む思いが、私を襲ってきた。
だって・・・
だって、そこから見える景色は
黒々とした山々に覆われた、真っ暗闇のなかに
たった一つの光。
そう、上厚内の駅があるだけだったから・・・・。
~つづく~




