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吉川のおじいちゃん




一つ、大きく深呼吸をしてみる。


せっかく北の大地にいるのだから、新鮮な空気を味わいたい。



でもね・・・。


はぁ。


あっ、また・・・溜息。




( この先、どうなるんだろう。 )



ここで、タバコの一本でも火を灯し

都会の疲れた女性を演じれば、少しでもカッコが付くのだろうが・・・

あいにく、

私はタバコを吸わないし、もちろん持ち合わせてもいない。



そもそも、おカネが無い。


はぁ。



落ち着け、わたし。


そうだ、冷静に

今日のことを振り返ってみよう。


いや、正確に言うと ここ数時間のことを振り返ってみよう。




今日は会社で解雇通知を受け取り、

気まぐれで・・・いや、私の意地の悪い性格で、

不幸そうな人を探そうとファストフード店に入り、

その後、コンビニに寄って帰宅。

郵便受けに おカネの入った不思議な封筒が入っていて、その直後に

10歳くらいの幼い自分が現れた。

10歳くらいって・・・、あとで正確な年齢を聞いておくかなぁ


それで、彼女がパイを食べたいというから

再度、お店に行くと停電。 そこで

不思議な少年たちが現れて、光り輝くトビラに導かれて

辿り着いたのが、北海道の帯広駅の地下駐車場。

そこで再び発見した、あのトビラに飛び込み

気が付くと、釧路行きの鈍行列車に乗っていた。


そして、無賃乗車よろしくと言わんばかりに

ここ、上厚内の無人駅に下車した。


まあ、こんな経緯か?


あ、母親からの電話を忘れていたか・・・。

まぁ、あれは関係ないかな。




でも・・・・・。



これって、何なのかしら。


あの子は、なんで私の前に現れたの?

幼い自分が、大人の私に出会ったなんて記憶も勿論ないし・・・


どういう仕組なのかしら。



でも、理由や理屈を知ったところで

この状況が何とかなるわけでもないし・・・


結局は考えること自体、無駄ということなのかしら?




( ん? )



あの光、・・・・ヘッドライト。


車が、しかも軽トラが一台、こちらにやって、くる?



来る!!



わたしは、その様子を確認すると

慌ただしく跨線橋の階段を駆け下り、

小さな私の元へと駆けつけた。



『 なに? どうしたの、お姉ちゃん? 』 

『 く、車が来るわ。 』

『 え? ほんとう? やった~~~! ラッキー♪ 』

『 バカ! 何言ってんのよ。 』

『 え? どうして? 』



( どうしてって・・・それは、この状況・・・

どう見たってアヤシイでしょ?

ほんと、どう思われるんだろ・・・・・親子心中とか? )




そうこうしているうちに、おもむろに北側の駅入り口の引き戸が開いた。



突然の来訪者は、最初は私たちの存在にすごく驚いていたが、

徐々に妙な安堵感を帯びた笑みを、その皺の多い顔に浮かべた。



『 あんたら、どこの人ね? 』

『 え?! あ・・・ぅ 』

『 東京から来ました。 』

 

( おいっ! )


ワタシの言い淀んだ言葉とは裏腹に、小さな私が はっきりと元気よく答える。


『 東京からぁ? 』 

『 はい。 』

『 こんな時間に、なに用があるのさ。 』

『 か、観光・・・とか? 』

ワタシが間に入る。


『 そんなワケないべさ! 』

『 い、いえ。 』

『 こんなクマかシカしかいないところ、こんな時間に観光だなんて

嘘こくでねぇ。 』

『 でも・・・。 』

『 なら、あんたら、何処行くね? 』

『 ええーとぉ・・・ 』

『 やっぱり、ワケありモンか・・・息子の言ったとおりだ。 』

『 息子さん? 』

『 あぁ。 さっき、駅で見るからにやばそうな客が降りたって

電話さ、あって。 ちょい見てきてくれって。 』


『 息子さんって・・・ 』

『 国鉄の運転手だぁ 』


( あの、列車の運転手さん? )


『 ここらも、朝はまだ しばれるでよ。 』

『 はぁ・・・・。 』

『 おじいちゃん、優しいね。 』

『 ほ、ほうか? 』

『 うん。 』


『 あ、あんたら、とりあえずウチに来んね? そう、しんさい。 』



私たちは、吉川と名乗るおじいちゃんに

優しく拉致されるが如く、軽トラへと押し込まれ


北海道の暗闇の中を いきおい良く走り始めた。







~つづく~

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