#11 騒がしい闖入者
アキラたちの野営地、デリバリーの注文を終えたアキラが、イザベラ、アマリリスと焚火を囲んでいた。
「まだかなー、まだかなー」
アマリリスが体を揺らしながら歌うように口ずさみ、デリバリーの到着を、いまかいまかと待ちわびている。
言われてみれば、今夜は、いつもより時間がかかっているような。
(道が混んでる、とか……?)
いやいや、とアキラは胸の内で自分にツッコミを入れる。ここはダンジョンのど真ん中。渋滞も何もあったものではない。そもそもリアルに配達してるのかどうかも定かでないし……。
一応念のため確認を、とアキラは体の前で腕を振り、ステータス画面からウルトラ・イーツを立ち上げた。
(注文状況は、と……)
画面を見ると表示は「配達中」。特に、問題はなさそうだ。
(ん?)
その時、画面のすぐ横に、見落としていたある表示があるのに気づいた。
《マップ確認》
(マジ?)
半信半疑のまま、アキラはマークをクリックする。ぱっ、と画面が切り替わり、現れたのは……スマホでよく見る、あのマップ画面だった。俯瞰で描かれた周辺地形らしき表示。その中央に、構造物のようなものが表示され、ラベルにはこう書かれていた。
『グレイブ・クリフ』
アキラは、はっとして、目の前にそびえる岩壁を見上げた。ダンジョン深層へ繋がる最後の砦、その重要ポイントがランドマークとして地図上にも落とし込まれていたのだ。
再び、視線を地図に戻す。すると、岩壁のすぐ横に、アキラの顔がアイコン化されて表示されていた。
(ちょっ……勝手に俺の顔が……!)
しかも、そのアキラのアイコンに向かって、少しずつ近づいてくる、自転車のマーク。まさにお届け中と言わんばかり。位置的には、先ほどアキラたちが登ってきた、岩場の斜面のあたりのようだ。
思わず立ち上がったアキラ、きょろきょろと、あたりを見渡す。だが、何も見えず、それらしい気配もなかった。
「どうした、アキラ?」
その挙動を、イザベラが不思議そうに尋ねてくる。
「いやその、もうそろそろ届くかなーなんて……」
アキラは、もう一度地図に目を落とした、その瞬間。自転車のマークが、ふっと消えた。
(……ん?)
《ピコン♪》
軽やかな電子音とともに、画面にメッセージが表示される。
《お届けが完了しました!》
続けて、アキラの足元がぼうっと光り出し、地面から「U」のマークが付いた、緑色のボックスが、せり上がるように姿を見せた。
「はーっ……」
その正確な表示とタイミングを目の当たりにして、息を漏らすアキラ。
(マップ機能すごっ……)
感心する一方、このデリバリーのいかれた能力に半ば呆れてもいた。
だが、その横では、
「来たのだーーっ!」
ボックスを見たアマリリスが小躍りし歓声を上げた。アキラは苦笑しつつ、ボックスから料理を素早く取り出し、二人に配っていく。
「いただきまーす、なのだ!」
陽気に手を合わせるアマリリス。その横で、イザベラも、すっかり板についた仕草で、そっと手を合わせた。
「いただきます」
待ちきれないとばかりに、アマリリスが蓋を開ける。目を輝かせて、プラスチックのナイフとフォークを手に取った。すっ、とハンバーグにナイフを入れる。その瞬間、断面から、じゅわっと肉汁があふれ出した。
「おぉ~♪」
すぐに、アマリリスの青い瞳がきらきらと輝く。ナイフを引き、ハンバーグを切り分けると……肉汁とともに、中から、とろ~り、と何かがあふれ出してきた。
「チ、チーズ! 大変だアキラ、チーズが出てきたのだ!」
歓喜の声を上げるアマリリス。
そう。グルメシェフの特製ハンバーグは、中にチーズを閉じ込めた、チーズインハンバーグなのだ。
「へへ、サプライズだ」
アキラは、得意げに笑う。
アマリリス、フォークに差した、一口大の肉片。したたる肉汁。とろりと伸びる、黄金色のチーズ。甘く香ばしいデミグラスソースを、たっぷりと絡めて……
「あ~ん♪」
アマリリスが、それを口元へと運ぼうとした、まさにその時だった。
ジャリッ……
すぐ近くで、地面が踏みしめられる音がした。
アキラたちが、はっとそちらに顔を向ける。目に入ったのは、焚火のわずかな明かりに、ぼうっと浮かび上がる三人の顔。
(昼間の冒険者! 確か名前は……)
イザベラの言葉を思い出す。ギルドの冒険者で、ハンス、メイリア、ホイヤー。
突然の三人の登場に驚きの表情を浮かべるアキラ。だが、自ら姿を見せたはずの彼らのほうが、何倍も驚いた顔をしているようにも見え……ハンスに至っては、アマリリスの前に置かれた、湯気を立てとろけるチーズが流れでるハンバーグ、その一点を目を見開き、引きつったような顔で凝視している。
「……お前ら一体」
不審を咎めるように声を発したイザベラ。だが帽子の男、ハンスがイザベラの言葉を遮り言った。
「な、なんなんだ、それはっ……」
動揺しているのか裏返ったような声で続ける。
「お前ら、一体……何を食べているんだ!?」
「ん? これは、ハンバーグなのだ」
突然の闖入者を前に臆することなく食事を続けるアマリリス。口をもぐもぐさせながら、落ち着いた声で答えた。
「ハンバーグ……」
つぶやくように復唱するハンス。その横では、ローブをまとったメイリアが恨めしそうにこちらを睨みつけ、後方の小太りの男、ホイヤーは茫然自失といった様子で立ち尽くしていた。
「どういうことだ? どうやって、そんな料理を……!?」
ハンスが、咎めるような口調で詰め寄る。
「えーと、これはミンチにした肉を固めて、焼き上げた料理で……」
律儀に説明を始めるアキラ。
「ふざけるな! 作り方を聞いてるんじゃない!」
話を遮り、ハンスが怒ったように声を上げる。
「なぜ、そんなものが、こんなダンジョンにあるんだ!」
(何かすげーキレてるな……)
戸惑うアキラ。その隣で、アマリリスが相変わらず落ち着いた声で答えた。
「これはアキラの力のおかげなのだ」
ふふん、とアキラを見ながら、得意げに胸を張る。
「力? それは……魔法ってことか?」
ハンスが、ぎろりとアキラを睨んだ。
「いやっ……」
どう説明すべきかわからず口ごもるアキラ。
「ラーメン、ハンバーグ、カレーライス……欲しいタイミングで食べたいものを届けてくれのだ」
アマリリスの説明を理解するのに時間を要したのか、一瞬の沈黙。そして……
「バカな! そんな出鱈目な魔法、聞いたことないぞ!」
絶叫するかのように言葉を吐き出した。
(出鱈目……まあ、それは俺もそう思う)
心の中で、同意するアキラ。
すると、
「うっ……ぐすっ……もう嫌だ、僕……」
後方にいた、ホイヤーの目にみるみる涙が浮かび、ついにぼろぼろとこぼれ始めた。
さらに、
「ズ、ズルいわよ……。あんたたちだけ、そんなの……」
メイリアも、恨みごとのようにつぶやく。
(なんなんだこの人たち、面倒くさ……)
突然現れたかと思えば、今度は目の前で取り乱し始める三人組。アキラたちも、困惑を隠せなかった。
「さっきから……なんなのだ、お前たち?」
口を開いたイザベラの声には、戸惑いと、苛立ちがない交ぜになっている。だが、メイリアのつぶやきは収まることなく、
「私たちが、こんなに苦労してる間に……そんな豪勢な食事をして……」
怨嗟がこもったような声でぼやき続け、やがて……
「この、卑怯者ーーっ!」
夜空に、メイリアのヒステリックな金切り声が響いた。




