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妹に婚約者も屋敷も奪われましたが、亡き王妃の帳簿には私の名前しかありませんでした 〜追放された公爵令嬢が王宮の裏金を暴いたら、冷徹宰相閣下に「国ごと君を守る」と言われています〜  作者: 御神常陸介寛浩(常陸之介寛浩)


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第8話 父は初めて、私の署名の価値を知りました

 エルフォード公爵家の朝は、いつも整っていた。


 門番は日の出とともに鉄門を開き、庭師は玄関前の薔薇を整え、侍女たちは廊下の花瓶を新しいものに替える。銀器は曇りひとつなく磨かれ、食堂には焼きたてのパンと果物、温かな茶が並ぶ。


 公爵家とは、そういうものだった。


 外から見れば、隙などない。


 けれどその朝、玄関広間にはいつもとは違う足音が響いていた。


「旦那様、王都第一商会より使いが参っております」


 執事の声には、かすかな緊張が混じっていた。


 グレアム・エルフォード公爵は、朝食の席で眉をひそめた。


「朝から何だ」


「先日進めていた慈善物資輸送契約について、確認が必要とのことです」


「確認?」


「セレスティアお嬢様の推薦署名が、今後も有効かどうかを……」


 食堂の空気が止まった。


 エヴァンジェリン夫人は、紅茶のカップを手にしたまま顔を上げる。


「推薦署名?」


 グレアムは不機嫌そうにナプキンを置いた。


「そんなもの、家の推薦と同じだろう」


 執事は言いにくそうに視線を伏せる。


「商会側は、王妃基金関連の推薦であったため、セレスティア様ご本人の確認が必要だと申しております」


「馬鹿馬鹿しい」


 グレアムは椅子から立ち上がった。


「セレスティアはエルフォード公爵家の娘だ。娘の署名は家の信用と同じだ」


「ですが、宰相府から各商会へ通達が回ったようでして」


 グレアムの顔が険しくなる。


「通達?」


「はい。セレスティア様の署名、推薦状、承認控えについては、本人または宰相府の確認印がない限り、新規取引や支出根拠として扱わないように、と」


 エヴァンジェリンの手元で、茶器が小さく鳴った。


「そんな通達を……」


「宰相府が、娘を囲い込む気か」


 グレアムは低く吐き捨てた。


 だが、苛立ちの奥にあるのは怒りだけではなかった。


 焦りだ。


 セレスティアの署名。


 これまでグレアムは、それを便利な道具として使ってきた。


 王妃基金関連の慈善団体へ公爵家系列商会を紹介するとき。

 地方領主へ王宮との調整を匂わせるとき。

 商会から有利な条件を引き出すとき。

 公爵家が王太子妃候補の実家であり、セレスティアが王宮実務に深く関わっていることを示すだけで、多くの扉は開いた。


 セレスティア本人に細かく説明したことはない。


 娘の名前は、家のもの。


 公爵家の長女として育てた以上、その価値を家が使うのは当然だと考えていた。


 それが突然、本人確認なしには使えないと言われている。


「ほかには」


 グレアムが問うと、執事はさらに顔色を悪くした。


「聖ミラーナ救護院より、昨年秋の修繕費推薦について問い合わせが来ております。エルフォード家系列商会を通した件で、セレスティア様の確認を受けた内容と実際の請求額に差があるのではないか、と」


「誰がそんなことを言い出した」


「王宮会計室から、過去支出の照合確認が入ったようです」


 グレアムは拳を握った。


 昨日の帳面だ。


 あの革表紙の覚書を宰相府が取り戻した。

 その中に何が書かれていたか、彼は全部は読めていない。だが、数頁だけで十分だった。


 セレスティアは気づいていた。


 はっきり告発してはいなかった。

 けれど、疑問を書き留めていた。


 王妃基金、孤児院修繕費、系列商会、添付資料の差異。


 ただの雑記だと切り捨てるには、あまりに危険な言葉が並んでいた。


「お父様……」


 食堂の扉の近くで、リリアナが立ち尽くしていた。


 王太子府から朝早く戻されたのだろう。顔色が悪い。いつもの明るいドレスではなく、薄い灰色の外出着をまとっている。


「リリアナ。どうした」


 エヴァンジェリンが立ち上がる。


 リリアナは手に一通の封書を握っていた。


「王太子府でも、似たような通達が……お姉様の署名がない資料は、会計室で止められると」


 グレアムの眉間に深い皺が刻まれる。


「殿下は何と」


「とてもお怒りでした。宰相府とお姉様が、王太子府の業務を妨げていると」


 リリアナは声を小さくした。


「でも、会計室の方は……お姉様ご本人の確認がないと、支出できないと」


 その言葉を口にするリリアナの表情には、昨日までとは違うものがあった。


 ただ怒っているわけではない。

 ただ泣きたいだけでもない。


 怖がっている。


 姉がいなくなったことで、自分の足元に何がなかったのか、少しずつ見えてしまった者の顔だった。


 グレアムは娘の不安を気に留めなかった。


「セレスティアを戻せば済む話だ」


 そう言って、彼は執事へ命じる。


「馬車を出せ。宰相府へ向かう」


 執事はためらった。


「旦那様、宰相府より、セレスティア様との面会は事前申請制との通知が」


「私は父親だ」


「ですが……」


「父が娘に会うのに、宰相府の許可が要るか!」


 怒声が食堂に響いた。


 リリアナは肩を震わせた。

 エヴァンジェリンは口元に手を当てる。

 執事は深く頭を下げるしかない。


 けれど、屋敷の誰もが感じていた。


 これまでなら、グレアムが怒鳴れば物事は動いた。


 しかし今、その怒声は屋敷の中で響くだけだった。


 門の外では、宰相府の通達と、セレスティア本人の署名が物事を止めている。


 同じ頃、宰相府の小会議室では、セレスティアが一枚の文書に目を通していた。


 それは、彼女自身の署名に関する確認通達だった。


 宰相府の法務官が文案を整え、カインが確認し、最後にセレスティアが自分の言葉で一文を加えたものだ。


『セレスティア・エルフォードの署名、推薦、承認控えについて、今後は本人の直接確認または宰相府確認印を伴わない限り、王妃基金関連の支出、推薦、取引根拠として扱わないこと』


 たったそれだけの文書だった。


 しかし、それが出された途端、王宮と王都の商会の一部がざわつき始めた。


 それだけ、彼女の名は使われていたのだ。


 セレスティアは、通達文の控えから目を上げる。


「こんなにも問い合わせが来るとは思いませんでした」


 机の端には、商会や慈善団体、地方領主から届いた確認書が積み上がっている。


 会計監査官が答えた。


「むしろ、これでも最初の分だけでしょう。公爵家がセレスティア様のお名前を信用の担保にしていたなら、まだ増えます」


「担保……」


 その言葉は重かった。


 自分の名前が、誰かの取引の担保になっていた。


 自分の知らない場所で。


 カインは、別の照会書を読んでいた。


「君の署名が添えられた推薦状の写しだ。覚えは」


 セレスティアは受け取る。


 そこには確かに、彼女の署名がある。


 しかし、文面には覚えがない。


「署名は私のものです。ただ、この推薦文は書いていません」


「署名済みの白紙を預けたことは」


「ありません」


「署名後に文面を差し替えたか、別紙を添えたか」


 セレスティアは、紙の端に目を凝らす。


 違和感があった。


「この紙、下半分だけ紙質が違います」


 法務官が顔を上げる。


「紙質?」


「はい。署名のある下部は、王宮会計室で使う厚手の公用紙です。上部の推薦文は、それより少し薄い。継ぎ合わせて写しを作った可能性があります」


 監査官がすぐに拡大鏡を取った。


「確かに、中央にごく薄い影がありますね」


 セレスティアは、指先で紙の端を示す。


「それから、私が正式推薦文を書くときは、必ず支援目的を一文目に置きます。この文面は、商会の信用ばかりを強調していて、支援対象が後回しです。私の書き方ではありません」


 部屋の空気が変わった。


 カインの目が細くなる。


「偽造または改竄の疑いあり、だな」


 法務官が記録する。


「はい」


 セレスティアは、署名部分から目が離せなかった。


 確かに自分の字だ。

 自分の名前だ。


 なのに、その上に乗っている言葉は自分のものではない。


 まるで、自分の声を誰かに奪われたようだった。


「気分が悪いか」


 カインが尋ねる。


 セレスティアは首を横に振る。


「いいえ」


「無理をしていないか」


「少しだけ、腹が立っています」


 口にした瞬間、自分でも驚いた。


 怒っている。


 これまでは、怒りを感じてもすぐに押し込めていた。

 家のためだから。

 王太子のためだから。

 自分が我慢すれば済むから。


 だが、これは違う。


 署名は、仕事の最後に置くものだ。

 責任を引き受ける証だ。

 それを、誰かが勝手に使った。


 これは、許してはいけない。


 カインは静かに頷いた。


「それでいい」


「怒っているだけでは、何も進みません」


「怒りを記録に変えれば進む。王妃陛下の言葉通りだ」


 セレスティアは、小さく息を吸った。


「では、記録します」


 彼女は羽根ペンを取った。


『当該推薦状写しについて、署名部分は本人筆跡と認める。ただし推薦文本文については記憶になく、通常の文書作成形式とも異なる。紙質および継ぎ目に不自然な点あり。改竄の疑いとして保全を求める』


 淡々と書く。


 怒りを、文字にする。


 それだけで、少しだけ胸の奥の熱が形を持った気がした。


 カインがそれを読み、短く言った。


「よし」


 セレスティアは、ふと問いかけた。


「父は、知っていたのでしょうか」


「どこまでかは分からない」


「けれど、父の系列商会が関わっています」


「だから調べる」


「はい」


 セレスティアは頷いた。


 父を信じたい気持ちは、まだ完全には消えていない。


 ひどい父だった。

 娘の傷より体面を選び、自室を妹の衣装部屋にしようとし、覚書を隠そうとした。


 それでも、幼い頃に本を買い与えてくれた記憶がある。

 王宮へ初めて上がる日に「公爵家の娘として恥じぬように」と送り出されたことを覚えている。

 その言葉は重荷だったが、当時のセレスティアは誇らしくもあった。


 だから、簡単に憎めない。


 けれど、信じたい気持ちと、事実を見ないことは別だ。


 セレスティアは、次の照会書に手を伸ばした。


 エルフォード公爵家には、その日の午後までにさらに三件の問い合わせが届いた。


 一件目は、王都第一商会から。

 セレスティアの推薦署名が無効確認対象となったため、公爵家系列商会への優遇契約を一時保留するというもの。


 二件目は、聖ミラーナ救護院から。

 昨年秋の修繕費について、実際の工事内容と請求額に差があるため、確認に協力してほしいという丁寧だが重い文書。


 三件目は、王宮会計室から。

 王妃基金支出に関連する過去の推薦状、紹介状、請求経路について、エルフォード公爵家の説明を求めるものだった。


 グレアム公爵は、自室の机にそれらを並べ、顔を険しくしていた。


「たかが署名ひとつで……」


 低い声が漏れる。


 だが、その言葉は途中で力を失った。


 たかが署名ひとつ。


 そう言い切りたかった。


 しかし現実には、その署名ひとつで商会が止まり、慈善団体が問い合わせ、王宮会計室が動いた。


 つまり、セレスティアの署名には、それだけの価値があった。


 グレアムはそれを知っていた。


 知っていたから使ってきた。


 だが、認めたことはなかった。


 娘の署名は、公爵家の信用を補強する飾りだと思っていた。

 王太子妃候補である娘の名を添えれば、相手は安心する。

 それだけのことだと。


 違った。


 相手はエルフォード公爵家を信用していたのではない。

 セレスティア・エルフォードが確認しているから信用していたのだ。


 その違いが、今になって彼の喉元を締め始めている。


 扉が叩かれた。


「入れ」


 エヴァンジェリンが入ってくる。


 顔色は優れない。


「あなた、宰相府からまた人が来ています」


「今度は何だ」


「セレスティアの部屋の目録作成を続けると。書棚の二段目と机の引き出しに未確認の私物があるそうです」


「好きにさせておけ」


 グレアムは吐き捨てるように言った。


 だが、エヴァンジェリンはその場を動かなかった。


「本当に、それでよろしいの?」


「何がだ」


「セレスティアの部屋よ。あの子のものを、他人が一つずつ記録して持ち出しているのよ」


「今さら母親らしいことを言うな」


 冷たい言葉に、エヴァンジェリンは傷ついた顔をした。


「私は……あの子を傷つけたかったわけではないわ」


「なら、どうしたかった」


「リリアナは昔から繊細で、少しのことで熱を出したり泣いたりしていたでしょう。セレスティアは何でもできたから、つい頼ってしまって」


「それが何だ。今は感傷に浸っている場合ではない」


 グレアムは机の上の文書を叩いた。


「このままでは、公爵家の取引に影響が出る」


「セレスティアに謝って、戻ってもらうことはできないの?」


 グレアムは妻を睨んだ。


「謝る?」


「ええ。だって、あの子は……」


「私は父親だ」


「でも」


「父が娘に頭を下げるのか」


 その問いに、エヴァンジェリンは黙った。


 だが、黙っただけで納得はしていなかった。


 彼女の脳裏に、セレスティアの部屋が浮かぶ。


 北側の小さな部屋。

 書類ばかりの机。

 古い羽根ペン。

 孤児院の子どもから届いた、拙い花の絵。

 小箱にしまわれていた、何の価値もない紙の飾り。


 あの子は、あんなものを大切にしていた。


 母である自分は、それを知らなかった。


 その事実が、今さら胸に沈んでくる。


「あなた」


 エヴァンジェリンは、かすれた声で言った。


「セレスティアは、本当に何も知らなかったの?」


 グレアムの目が鋭くなる。


「何の話だ」


「王妃基金のこと。商会のこと。署名のこと」


「余計なことを考えるな」


「でも、もしあの子の署名が勝手に使われていたのなら」


「黙れ」


 短い怒声だった。


 エヴァンジェリンは肩を震わせる。


 グレアムは立ち上がった。


「お前はリリアナの支度でも見ていろ。王太子殿下の婚約準備を止めるわけにはいかん」


「婚約準備どころではないのでは」


「だからこそ急ぐのだ。リリアナが正式な王太子妃候補になれば、公爵家の立場は固まる」


 エヴァンジェリンは夫を見つめた。


 固まる。


 その言葉の裏にある焦りが、彼女にも分かった。


 夫は、セレスティアを取り戻したいのではない。


 セレスティアの署名が持っていた価値を、リリアナの婚約で埋めようとしている。


 けれど、本当に埋まるのだろうか。


 リリアナは可愛い。

 社交界で愛される。

 王太子に選ばれた。


 だが、セレスティアがしていたことは、それとは違った。


 エヴァンジェリンは初めて、その違いを怖いと思った。


 セレスティアの部屋では、宰相府の法務官と記録係が目録作成を続けていた。


 部屋は、ほとんどそのままだった。


 ただし、扉には宰相府の保全印が貼られ、使用人たちは勝手に入れなくなっている。


 机の上の羽根ペン。

 書棚の法典。

 王妃基金に関する控え。

 孤児院からの礼状。

 地方領主夫人との私信。

 古い草案。


 ひとつずつ記録される。


 記録係の若い女性は、机の左奥の小箱を開けた。


 中には、古い封筒が数通入っている。


「こちらは私信でしょうか」


 法務官が確認する。


 封筒の差出人を見た瞬間、彼は表情を変えた。


「亡き王妃陛下の私印がある」


 部屋の空気が変わった。


 封筒は三通。


 二通は封が切られていない。

 一通は、封蝋が割られていた。


 宛名はいずれも、セレスティア・エルフォードへ。


「これは……」


 記録係が息を呑む。


 法務官はすぐに手袋を替えた。


「記録。王妃陛下私印付き封書三通。宛名セレスティア・エルフォード様。一通、開封済み。開封時期不明」


 開封済み。


 その言葉が、部屋に重く落ちた。


 誰かが、セレスティア宛ての王妃の手紙を読んだ。


 そして、それを彼女に渡さなかった。


「至急、宰相府へ運ぶ」


 法務官は封筒を保全袋に入れた。


「これは、セレスティア様ご本人と宰相閣下の立ち会いで確認する」


 その知らせが宰相府へ届いたのは、夕暮れ近くだった。


 セレスティアは、署名改竄疑いの文書を整理していた手を止めた。


「王妃陛下からの手紙、ですか」


 法務官は頷く。


「三通ございます。そのうち一通は開封済みでした」


 セレスティアの顔から血の気が引いた。


「開封済み……」


「封蝋の状態から、かなり前に開けられた可能性があります」


 かなり前。


 では、王妃が生前か、亡くなって間もない頃か。


 セレスティアは、手元のペンを置いた。


 王妃からの手紙。


 自分宛てに届いていたものを、誰かが隠していた。


 父か。

 母か。

 あるいは屋敷の誰かか。


 だが、そんなことができたのは、セレスティアの私室に自由に出入りできる者だけだ。


 胸の奥に、冷たいものが広がる。


 カインが言った。


「確認するか」


 セレスティアはすぐには答えられなかった。


 見たい。


 けれど、怖い。


 そこに何が書かれているのか。

 なぜ隠されたのか。

 読めば、また何かが壊れるかもしれない。


 それでも、見なければならない。


 セレスティアは、ゆっくり頷いた。


「確認します」


 法務官が封書を机に並べる。


 三通。


 王妃の私印。

 懐かしい藍色の封蝋。

 セレスティアの名。


 その中の一通だけが、乱暴ではないが確かに開けられている。


 カインは開封済みの一通を指で示した。


「これからか」


「はい」


 セレスティアは、震えそうになる手を押さえ、封筒を手に取った。


 紙は少し黄ばんでいた。


 中の便箋を取り出す。


 王妃エレオノーラの筆跡が現れる。


 最初の一文を読んだ瞬間、セレスティアの呼吸が止まった。


『セレスティア。あなたを王太子妃候補の座から解き、王宮監査官として独立させる準備を始めました』


 部屋の中が、遠くなった。


 王太子妃候補の座から解く。


 王宮監査官として独立させる。


 そんな話、聞いたことがなかった。


 セレスティアは、続きを読もうとして、文字が滲むのを感じた。


 カインの声が低く響く。


「セレスティア嬢」


「大丈夫です」


 彼女はそう答えた。


 声は震えていたが、紙を持つ手は離さなかった。


 王妃は、彼女を逃がそうとしていた。


 誰かの婚約者ではなく、誰かの影でもなく、彼女自身の名で立てる場所を用意していた。


 だが、その手紙は開封され、隠されていた。


 誰かが、その未来を奪った。


 セレスティアは、ゆっくりと顔を上げた。


 怒りが、今度こそはっきり形になっていた。


 燃え上がる炎ではない。


 冷たく澄んだ刃のような怒りだった。

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