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妹に婚約者も屋敷も奪われましたが、亡き王妃の帳簿には私の名前しかありませんでした 〜追放された公爵令嬢が王宮の裏金を暴いたら、冷徹宰相閣下に「国ごと君を守る」と言われています〜  作者: 終焉を綴る堕天筆聖セラフィム・夜叉王院常闇寛龍


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第70話 声が出る場を、私は守る

 王妃基金改革助言会の初回は、朝から妙な緊張をまとっていた。


 大きな式典ではない。


 拍手を受ける場でもない。


 けれど、セレスティアにとっては、公開意見交換会とは別の意味で怖い日だった。


 今日は、自分が全部話してはいけない。


 誰かが言葉に詰まっても、すぐに助け舟を出しすぎてはいけない。

 誰かの説明が少し拙くても、代わりに綺麗な文章へ直してしまってはいけない。

 誰かの沈黙を、自分の言葉で埋めてはいけない。


 場を整える。


 声が出る場を作る。


 昨夜、カインに言われた言葉が、朝から頭の中に残っていた。


 中会議室には、すでに資料が並んでいる。


 第一回四半期不足状況表。

 冬季輸送支援共同寄付の進捗報告。

 支援先報告書簡素化案。

 寄付者向け概要報告書制度の運用予定。

 助言会の発言記録様式。


 セレスティアは、席次を一つずつ確認した。


 上座にカイン。

 その右に王宮会計室のローレン副監。

 左に法務官オルド。

 向かい側に、古参支援者代表のグランヴィル侯爵夫人。

 寄付者代表のバルツァー夫人。

 若い寄付者代表のエミリア・クラウゼン。

 支援先連絡役のマリアナ修道女。

 調整役としてローゼン侯爵夫人。

 記録官としてミリア。

 そして、王妃基金監査補佐官としてセレスティア。


 以前なら、セレスティアは自分の席から全員を管理するように見ていただろう。


 今日は違う。


 管理ではない。


 誰の声が出にくいか。

 誰の声が大きくなりすぎていないか。

 議題が目的からずれていないか。


 それを見る。


 それが今日の役割だった。


 ミリアが、記録机の前で小さく深呼吸していた。


「ミリア」


「はい」


「大丈夫ですか」


「大丈夫ではありません」


 即答だった。


 セレスティアは、少し笑った。


「正直でよろしい」


「最近、それをよく言われます」


「私もよく言われます」


 ミリアは、緊張した顔のまま小さく笑った。


「私が説明に詰まったら、少し待ってください」


「はい」


「すぐ助けないでください」


「……はい」


 少し間が空いた。


 ミリアはじっとセレスティアを見る。


「その『はい』は、怪しいです」


「努力します」


「そこは、はい、です」


 逆に言われた。


 セレスティアは観念して頷いた。


「はい。待ちます」


「ありがとうございます」


 その時、扉が開き、出席者たちが順に入ってきた。


 エミリアは青ざめていた。


 マリアナ修道女は穏やかだが、手元の紙を強く握っている。


 グランヴィル侯爵夫人は静かで、バルツァー夫人はすでに何か言いたげな目をしている。


 ローゼン侯爵夫人は、全員を見渡して涼しい顔で席に着いた。


「初回から、よい緊張ですわね」


 バルツァー夫人が言う。


「それは褒めているのですか」


「かなり」


 緊張していたエミリアが、思わず少し笑った。


 場がわずかにほぐれた。


 セレスティアは、心の中でローゼン侯爵夫人に感謝した。


 助言会は、カインの短い挨拶で始まった。


「本日より、王妃基金改革助言会を開く。ここは決定機関ではない。だが、聞き流す場でもない。発言は記録され、採用、不採用、保留のいずれかに分類される」


 相変わらず容赦がない。


 だが、分かりやすい。


「目的は、王妃基金が一方的な制度にならないよう、関係者の視点を定期的に入れることだ。以上」


 短い。


 しかし、必要十分だった。


 セレスティアが続いて立ち上がる。


「本日の議題は四つです。第一回四半期不足状況表の共有、冬季輸送支援共同寄付の進捗報告、支援先報告書簡素化案の検討、そして次回までの担当確認です」


 ここで、いつもなら自分がそのまま説明へ入る。


 だが今日は違う。


「不足状況表については、王宮会計室のローレン副監と、記録官ミリアより説明します」


 ミリアの肩が一瞬だけ動いた。


 セレスティアは座った。


 座る。


 それだけのことが、思ったより難しかった。


 ミリアが立ち上がる。


 手元の紙を一度見て、それから前を向いた。


「記録官ミリアです。第一回四半期不足状況表のうち、記録整備費についてご説明します」


 声は少し硬い。


 でも、聞こえる。


「記録整備費とは、支援先からの報告を集め、次に何が必要か分かるようにするための費用です。これが不足すると、支援先の状況把握が遅れ、次回配分も遅れます」


 バルツァー夫人が小さく頷く。


 ミリアは、少し息を吸った。


「たとえば、孤児院から『保存食の棚が雨漏りで使えない』という報告が遅れた場合、王妃基金が保存食を送っても、現場では保管できない可能性があります」


 会議室の空気が変わった。


 ただの記録整備費が、急に具体的になったからだ。


「つまり、記録は紙を増やすためのものではありません。次の支援を間違えないためのものです」


 言い切った。


 セレスティアは、思わず「よくできました」と言いそうになった。


 だが、言わない。


 助言会の場だ。


 ミリア自身の発言として受け止められるべきだ。


 ローレン副監が穏やかに続けた。


「会計室として補足します。記録整備費は寄付者人気が低い分野ですが、配分の正確性を支える基盤です。今後は、記録様式の簡素化と合わせて、支援先の負担にならない範囲で整備します」


 グランヴィル侯爵夫人が手を上げた。


「質問をよろしいでしょうか」


「どうぞ」


 セレスティアではなく、ミリアが答えた。


 それも、事前に決めた通りだ。


 グランヴィル夫人はミリアを見る。


「記録整備が必要なことは理解しました。ですが、記録が増えることで支援先の負担が増える危険もあります。その点はどう防ぐのですか」


 ミリアが一瞬、言葉に詰まった。


 セレスティアは反射的に口を開きかける。


 その瞬間、ミリアがこちらを見ずに言った。


「発言者本人として、最後までお答えします」


 合図だった。


 黙って待て。


 セレスティアは口を閉じた。


 ミリアは、少し顔を赤くしながらも続けた。


「記録整備費は、単に書類を増やすための費用ではありません。むしろ、同じ内容を何度も書かなくて済むよう、様式を整理するためにも使います。支援先報告書の簡素化案と一緒に進める必要があります」


 グランヴィル夫人は、しばらくミリアを見つめた。


 やがて、静かに頷く。


「よろしい。記録官殿の言葉として、記録しておいてください」


 ミリアは、少しだけほっとしたように礼をした。


 セレスティアは胸の奥が熱くなった。


 ミリアが、自分の言葉で答えた。


 次は、エミリアの番だった。


 彼女は立ち上がる前から、明らかに緊張していた。


 手元の紙が少し震えている。


 セレスティアは、目で小さく頷いた。


 大丈夫。


 エミリアも、小さく頷き返す。


「若い寄付者代表のエミリア・クラウゼンです。冬季輸送支援共同寄付についてご報告します」


 声は震えていた。


 だが、言葉は出ている。


「私たちは、第一回四半期不足状況表を読み、輸送費が不足していることを知りました。薬草や灯油を必要な時期に届けるため、共同寄付を申し出ました」


 グランヴィル侯爵夫人が、静かに聞いている。


 バルツァー夫人も、口を挟まない。


「現在、参加者は十二名です。寄付者表示は『エミリア・クラウゼン代表、若手令嬢有志』とし、個別寄付額は内部記録のみとします。寄付額の競争にしないためです」


 ローゼン侯爵夫人が、わずかに目を細めた。


 よい判断、と言っているようだった。


 エミリアは、最後の頁を見た。


「私たちは、報告書を受け取り、寄付が何を運んだのかを確認します。そして、次の支援分野を選ぶ時にも、不足状況表を読んで考えます」


 声の震えが、少しだけ収まっていた。


「分からないことがあれば、代表者を通して質問します。流行や競争ではなく、必要な支援を考える共同寄付にしたいと思っています」


 言い終えた瞬間、会議室に小さな沈黙が落ちた。


 それから、グランヴィル侯爵夫人が口を開いた。


「エミリア様」


「はい」


「あなた方は、なぜ個別名を公表しない選択をしたのですか」


 エミリアは、少しだけ背筋を伸ばした。


「個別名を出すと、誰がいくら出したかの話になりやすいと思ったからです」


「それは、あなたご自身の判断ですか」


「はい。皆で話し合いました。最初は名前を出したいという意見もありました。でも、共同寄付の目的が支援ではなく、誰が目立つかになってしまうのは違うと思いました」


 グランヴィル夫人は、目を伏せた。


「若い方々が、そこまで考えたのですね」


「まだ足りないところは多いです」


「足りないと分かっているなら、よろしい」


 厳しいが、認める言葉だった。


 エミリアの顔に、少しだけ明るさが戻った。


 バルツァー夫人が続けて質問した。


「寄付者表示を代表者と有志一同にするのは賢明です。ただ、代表者であるあなたには問い合わせが集中するかもしれません。その対応はできますか」


 エミリアは、一瞬迷った。


 セレスティアは、見守る。


 助けない。


「一人では難しいと思います」


 エミリアは正直に言った。


「ですので、問い合わせを受けた場合は、王妃基金の共同寄付窓口へ確認し、私だけで答えないようにします」


 バルツァー夫人が満足そうに頷いた。


「よろしい。自分だけで答えない判断は大切です」


 それは、セレスティアにも刺さる言葉だった。


 自分だけで答えない。


 本当に、今日の会議全体のテーマのようだった。


 三つ目の議題は、支援先報告書の簡素化案だった。


 マリアナ修道女は、静かに立ち上がった。


 その姿には、エミリアとは違う緊張があった。


 王宮の場で、支援先の負担を言葉にする。


 支援を受ける側にとって、それは簡単なことではない。


「支援先連絡役として、現場からの意見をお伝えします」


 マリアナ修道女の声は落ち着いていた。


「王妃基金からの支援には、深く感謝しております。ただ、報告書について、現場からいくつか困りごとが出ています」


 感謝から始める。


 だが、感謝だけで終わらない。


「一つ目は、同じ内容を別の様式で何度も書く負担です。二つ目は、冬季や流行病の時期など、現場が忙しい時期に細かな報告を求められることです。三つ目は、感謝文を書く欄が広く、困りごとを書く欄が小さいことです」


 その三つ目で、会議室の空気が変わった。


 グランヴィル夫人が眉を寄せる。


「感謝文の欄が広すぎると、困るのですか」


「はい」


 マリアナ修道女は、静かに答えた。


「感謝は本心です。ですが、毎回美しい礼文を書かなければならないように感じる者もいます。その分、実際に困っていることを遠慮して小さく書いてしまう」


 ローゼン侯爵夫人が、扇を閉じた。


「それは、見落としていましたわね」


 バルツァー夫人も頷く。


「寄付者側も、感謝文を期待しすぎていたかもしれません」


 マリアナ修道女は、少し驚いたように二人を見た。


 そして、続けた。


「支援先としては、感謝を伝えたい気持ちはあります。ただ、王妃基金に本当に知っていただきたいのは、次に何が必要か、どの時期が厳しいか、どの支援が現場に合っているかです」


 セレスティアは、その言葉を胸に刻んだ。


 感謝より、次に必要なもの。


 それを言える場にする。


 これこそ、支援先が助言会に入った意味だった。


 マリアナ修道女は、最後に提案した。


「報告書の感謝欄は短くてよいと明記し、困りごと、次に必要なもの、支援時期の希望を書く欄を広げていただきたいです。また、繁忙期には簡易報告で済ませ、詳しい報告は後日にできるようにしていただければ、現場は助かります」


 言い終えると、少し沈黙があった。


 その沈黙を破ったのは、グランヴィル侯爵夫人だった。


「これは、必ず採用すべきです」


 強い声だった。


「支援先が感謝文を書くために疲れるなど、本末転倒です」


 バルツァー夫人も言った。


「寄付者向け概要報告でも、支援先からの礼文を過度に載せるのは控えるべきですわね。支援内容と変化を中心にした方がよい」


 ローレン副監がすぐにメモを取る。


「会計室としても、様式統一と繁忙期簡易報告を検討します」


 オルドが法務面を補足する。


「報告義務の免除ではなく、時期調整と様式簡素化として規程に入れれば問題ありません」


 セレスティアは、ここでようやく口を開いた。


「では、この議題は『採用方向』として記録します。詳細は王宮会計室、支援先連絡役、監査補佐官で草案を作り、次回助言会に提出します」


 ミリアが記録する。


 セレスティアは、少しだけ不思議な気持ちだった。


 自分が答えなくても、議題は進んでいる。


 それどころか、自分が全部話すより、ずっと豊かに進んでいる。


 会議の終盤、グランヴィル侯爵夫人が静かに言った。


「今日の助言会で、少し分かりました」


 全員の視線が向く。


「制度の中に人の声を入れるとは、こういうことなのですね」


 セレスティアは、息を止めた。


 グランヴィル夫人は続ける。


「私は、手続きが心を覆い隠すことを心配していました。今も心配はしています。けれど、今日のように記録官、若い寄付者、支援先がそれぞれの言葉で話すなら、手続きは心を消すものではなく、心を残す器にもなり得るのでしょう」


 心を残す器。


 セレスティアは、その言葉を心の中で繰り返した。


 ミリアの手が、少し震えながらその言葉を記録している。


 バルツァー夫人が微笑んだ。


「グランヴィル夫人からその言葉が出るとは、今日はよい日ですわね」


「調子に乗らないでください、バルツァー夫人」


「まあ、怖い」


 年長の夫人たちのやり取りに、エミリアが少し笑い、マリアナ修道女も目元を和らげた。


 場が、確かにひとつの会議になっていた。


 ただの対立ではない。


 ただの報告でもない。


 声が出る場。


 セレスティアは、その中心で全てを話しているわけではなかった。


 それでも、自分の役割はあった。


 議題を戻す。

 採用方向を確認する。

 保留にすべきものを整理する。

 発言が消えないよう、記録へつなぐ。


 これが、場を整えるということなのだろう。


 最後に、セレスティアは立ち上がった。


「本日の助言会では、三つの点を確認しました」


 今度は、まとめるための発言だ。


「一つ目、記録整備費は次の支援を間違えないために必要であること。ただし、支援先の負担を増やさないよう様式簡素化と合わせて進めること」


 ミリアが記録する。


「二つ目、冬季輸送支援共同寄付は、寄付額競争にしない形で進めること。代表者へ問い合わせが集中しないよう、共同寄付窓口を整えること」


 エミリアが真剣に頷く。


「三つ目、支援先報告書は、感謝文を求めすぎず、困りごとと次に必要な支援を伝えやすい形へ改めること」


 マリアナ修道女が、小さく礼をした。


「以上三点を、次回までの作業項目とします」


 カインが短く頷く。


「承認」


 その一言で、助言会初回は終わった。


 会議後、ミリアは机に突っ伏しそうな顔をしていた。


「終わりました……」


「お疲れさまでした」


「声が震えました」


「聞こえていました」


「そこは否定してください」


「でも、最後まで話しました」


 セレスティアが言うと、ミリアは少しだけ顔を上げた。


「はい」


「とてもよかったです」


 ミリアは、今度こそ泣きそうになった。


「ありがとうございます」


 少し離れたところでは、エミリアがマリアナ修道女と話していた。


「報告書を読む時、感謝文だけではなく、困りごとの欄もちゃんと見ます」


「ありがとうございます。そうしていただけると、現場も書きやすくなります」


 その会話を聞いて、セレスティアの胸が温かくなった。


 若い寄付者と支援先連絡役が、直接話している。


 それは、小さなことのようで、大きな変化だった。


 グランヴィル侯爵夫人が近づいてきた。


「監査補佐官殿」


「はい」


「今日は、よく黙っていましたね」


 褒められているのか、試されているのか分からない。


 セレスティアは少し迷って答えた。


「かなり努力しました」


 グランヴィル夫人は、ふっと笑った。


「見えました」


「見えていましたか」


「ええ。何度か口を出したそうでした」


「……はい」


「でも、出さなかった。よろしい」


 短い評価だった。


 だが、セレスティアには十分だった。


「ありがとうございます」


 グランヴィル夫人は、少しだけ表情を和らげた。


「手続きは、心を残す器にもなり得る。今日、その可能性は見えました」


「はい」


「ただし、器だけ美しくして中身が空にならないように」


「見届けてください」


「もちろんです」


 そう言って、夫人は去っていった。


 夕方、カインの執務室で助言会初回の報告を終えた。


 カインは議事録に目を通し、短く言った。


「よく場を作った」


 セレスティアは、少しだけ胸を押さえたくなった。


「ありがとうございます」


「全部答えなかったな」


「かなり我慢しました」


「見ていた」


「やはり」


「途中で三回ほど口を開きかけた」


「数えないでください」


 カインは、ほんの少しだけ笑った。


「だが、止まった」


「はい」


「それでいい」


 セレスティアは、静かに頷いた。


「私が答えなくても、進むのですね」


「進むようにしたのは君だ」


 その言葉に、胸が熱くなる。


「そうでしょうか」


「そうだ」


 カインは議事録を閉じた。


「今日の助言会は、王妃基金改革の節目だ。個人の奮闘から、仕組みへ移った」


「少し寂しいです」


「だろうな」


「でも、嬉しいです」


「それでいい」


 その短い肯定が、今のセレスティアにはありがたかった。


 夜、覚書にはこう書いた。


『王妃基金改革助言会、初回開催』


 次に。


『ミリアが記録整備費を説明した。記録は紙を増やすためではなく、次の支援を間違えないため』


 さらに。


『エミリア様が共同寄付を報告。寄付額競争にしない。報告書を読み、次の支援分野を考える』


 次に。


『マリアナ修道女。感謝文を書く欄が広く、困りごとを書く欄が小さい。これは必ず直す』


 少し手を止める。


『グランヴィル侯爵夫人。手続きは、心を残す器にもなり得る』


 最後に。


『私は全部答えなかった。場を作った』


 ペンを置く。


 扉の外から、いつもの声。


「寝ろ」


「今日は一枚です」


「よし」


「今日は、少し誇ってもよいでしょうか」


「よい」


 即答だった。


 セレスティアは、少し驚いた。


「よいのですか」


「ああ。今日は誇っていい」


 胸が、じんわり熱くなった。


「ありがとうございます」


「ただし、誇ったら寝ろ」


「はい」


「場を作る者が倒れると、場が荒れる」


「分かっています」


「本当に?」


「……たぶん」


「明日は半日休め」


「またですか」


「まただ」


 セレスティアは笑ってしまった。


 でも、反論はしなかった。


「分かりました。半日休みます」


「よし」


 灯りを落とす。


 今日は、自分が全部答えない会議だった。


 怖かった。


 けれど、声が出た。


 ミリアが、エミリアが、マリアナ修道女が、それぞれ自分の言葉で話した。


 セレスティアは、その場を守った。


 それでよかった。


 王妃基金は、少しずつ人の声を残す器になっていく。


 その器を割らないように、明日もまた見守っていく。

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