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第13話 私を追い出した屋敷に、監査通知が届きました

エルフォード公爵邸の門前に、宰相府の馬車が停まった。


 黒塗りの馬車だった。

 華やかな王宮儀礼用ではない。紋章も控えめで、車体には余計な装飾がない。ただ、扉に刻まれた宰相府の印だけが、見る者の背筋を伸ばさせる。


 門番は、その印を見た瞬間に顔色を変えた。


「宰相府……」


 つぶやきは小さかったが、門の内側にいた使用人たちには十分聞こえた。


 屋敷の空気は、朝から落ち着かなかった。


 前夜に届いた特別監査開始通知。

 王妃基金。

 ラドクリフ商会。

 セレスティアの署名。

 亡き王妃の手紙。


 どれも、使用人たちが声に出して語るには重すぎる言葉だった。


 それでも噂は止まらない。


 旦那様は、お嬢様宛ての王妃様の手紙を隠していたらしい。

 お嬢様の署名で、商会の取引が通っていたらしい。

 今度はお嬢様が、監査官としてこの屋敷を調べるらしい。


 誰もはっきりとは言わない。


 だが、皆が知っていた。


 この屋敷から追い出されたように見えた長女が、今度は宰相府の正式な文書を携えて戻ってきたのだ。


 ただし、本人は馬車に乗っていなかった。


 降りてきたのは、法務官オルドと、記録官ミリア。そして二人の監査官である。


 オルドは門番に一礼した。


「宰相府より、エルフォード公爵家に対する証拠保全および初動監査の通知に参りました。公爵閣下にお取り次ぎ願います」


 門番は喉を鳴らした。


「しょ、少々お待ちください」


 声が裏返っていた。


 無理もない。


 この屋敷に来る客は、これまでエルフォード家に頭を下げる者が多かった。商会主、地方貴族、慈善団体の代表、社交界の夫人たち。


 だが今日は違う。


 宰相府の者が、頭を下げに来たのではない。

 記録を取りに来た。


 門が開く。


 オルドたちは、整えられた庭を進んだ。


 薔薇は咲き始めていた。玄関前の白い石段は磨かれ、噴水の水音は穏やかだ。


 何も知らない者が見れば、由緒ある公爵家の朝にしか見えない。


 だが、屋敷の窓という窓の向こうから、使用人たちの視線がこちらを追っていた。


 玄関広間では、執事長が待っていた。


 顔色は悪いが、礼は崩さない。


「法務官殿。旦那様がお待ちです」


「ありがとうございます」


 オルドは礼を返した。


 通されたのは、公爵家の応接室ではなく、当主執務室だった。


 それだけで、グレアム・エルフォード公爵の苛立ちが伝わった。


 客としてもてなすつもりはない。

 当主の領域で圧をかけるつもりなのだ。


 扉が開くと、グレアムは机の向こうに座っていた。


 立たない。


 それは、相手を下に見ているという意思表示だった。


「朝から大げさなことだな」


 グレアムは低く言った。


 オルドは表情を変えない。


「正式監査開始通知に基づく初動手続きです」


「セレスティアは来ていないのか」


「セレスティア様は、宰相府にて監査資料の確認中です」


 グレアムの眉が動いた。


「実家を調べるのに、本人は顔も出さんのか」


「監査対象との直接接触は、初動段階では避けるべきと判断されました」


「父親を監査対象扱いか」


「本件では、エルフォード公爵家が監査対象です」


 淡々とした返答だった。


 グレアムの顔が赤くなる。


「言葉遊びをするな」


「記録します」


 オルドがそう言うと、記録官ミリアが筆を動かした。


 その音に、グレアムの怒気が一瞬詰まった。


 記録される。


 怒鳴れば、それも残る。

 言い逃れをすれば、それも残る。


 この数日で、彼はその厄介さを嫌というほど思い知っていた。


「用件を言え」


「第一に、ラドクリフ商会関連文書の保全。第二に、セレスティア様の署名が記された過去の推薦状、紹介状、承認控えの提出。第三に、亡き王妃陛下よりセレスティア様宛てに送られた私信の受領経緯に関する追加確認です」


「すでに回答したはずだ」


「回答内容に確認すべき点が残っております」


「何が不足だ」


 オルドは書面を開いた。


「公爵閣下は、王妃陛下の私信を『当主判断により一時保管した』と回答されました。しかし、保管期間は約十年に及びます。これを一時保管と判断した理由、本人へ渡す予定時期、その予定が実行されなかった理由をご説明ください」


 グレアムは口を閉ざした。


 一時保管。


 自分で使った言葉だ。

 だが、こうして問われると、その薄さが際立つ。


「当時は混乱していた」


「どの混乱でしょうか」


「王妃陛下のご病状、王太子殿下の婚約、王宮内の派閥……いろいろだ」


「その後、王妃陛下が崩御され、数年が経過しても渡さなかった理由は」


 グレアムはオルドを睨んだ。


「セレスティアには王太子妃になる務めがあった」


「王妃陛下の私信には、その務めから解く準備が記されていました」


「だからこそ渡せなかったのだ」


 言ってから、グレアムはわずかに表情を変えた。


 言い過ぎた、と気づいたのだろう。


 だが、遅い。


 ミリアの筆はすでに動いている。


 オルドは静かに繰り返した。


「だからこそ、渡せなかった」


 その声は責めていない。


 ただ、記録するために確認しているだけだ。


 それがかえって、グレアムには苛立たしかった。


「父として判断した」


「承知しました。父として、王妃陛下から本人宛てに届いた進路変更に関する文書を、本人へ渡さないと判断した。そう記録します」


「言い方に悪意がある」


「事実確認です」


 グレアムは拳を握った。


 そのとき、扉の外で小さな物音がした。


「誰だ」


 グレアムが鋭く言う。


 扉がゆっくり開き、エヴァンジェリン夫人が姿を見せた。


「……私です」


「入るなと言ったはずだ」


「ですが、これはセレスティアのことです」


 エヴァンジェリンの顔色は悪かった。昨夜からほとんど眠っていないのだろう。だが、目だけは奇妙にはっきりしていた。


 オルドは礼をする。


「公爵夫人。必要であれば、後ほど夫人にも聞き取りを行います」


「今、聞いてください」


 グレアムが立ち上がった。


「余計なことを言うな」


 エヴァンジェリンは夫を見た。


 以前なら、それだけで黙っていた。

 だが今日は違った。


「余計なことではありません」


 声は震えていた。


 それでも、確かに言った。


「私は、セレスティアへの手紙のことを知りませんでした。王妃陛下があの子を王太子妃候補から外そうとしていたことも、監査官にしようとしていたことも、何も」


「だから何だ」


「知っていたら……」


 エヴァンジェリンは唇を噛んだ。


「知っていたら、私はあの子にどう言ったか分からない。でも、少なくとも、あの子が自分で読む機会は奪いたくなかった」


 グレアムの顔が険しくなる。


「綺麗事を言うな。お前もリリアナを優先していたではないか」


 その一言に、エヴァンジェリンの顔が歪んだ。


「そうです。私はリリアナを優先しました。何度も、何度も。セレスティアは強いから大丈夫だと言って、あの子に譲らせました」


 部屋の空気が重くなる。


 ミリアの筆が静かに走る。


 エヴァンジェリンは、涙をこぼしそうになりながら続けた。


「でも、それと手紙を隠すことは違います。あの子の未来を、あの子に知らせなかったことは違います」


 グレアムは口を開きかけたが、言葉が出なかった。


 妻がここまで言うとは思っていなかったのだろう。


 オルドは、事務的に尋ねた。


「公爵夫人。セレスティア様宛ての王妃陛下私信が、公爵邸内に保管されていたことをいつ知りましたか」


「宰相府からの照会が届いた後です」


「開封された手紙を読まれましたか」


「いいえ。内容は夫から少し聞きました。王妃陛下がセレスティアに別の道を用意していた、と」


「手紙をセレスティア様へ渡すべきだったとお考えですか」


 エヴァンジェリンは目を伏せた。


 少しだけ沈黙があった。


 そして、頷いた。


「はい」


 グレアムが低く唸る。


「お前は、自分の夫を宰相府に売るつもりか」


 エヴァンジェリンは、今度こそ涙をこぼした。


「あなた」


 声はかすれていた。


「私たちは、先に娘を売っていたのではないですか」


 その言葉に、部屋の空気が凍った。


 誰もすぐには動けなかった。


 グレアムの顔から、血の気が引いていく。


 オルドでさえ、一瞬だけ筆を止めた。


 だが、すぐに記録した。


 エヴァンジェリンは泣いていた。


 けれど、その言葉を取り消さなかった。


 宰相府の新しい部屋で、セレスティアは報告書の第一報を受け取った。


 机の上には、今日扱う分だけの資料が置かれている。


 カインが決めた通り、それ以上はない。


 それでも、紙の束は重かった。


 オルドから届いた初動聞き取り記録。


 父の発言。

 母の発言。

 提出を求めた資料一覧。

 保全対象となった書棚、机、金庫、商会関連書類。


 セレスティアは、まず父の発言を読んだ。


『だからこそ渡せなかった』


 その一文で、胸の奥が少し痛んだ。


 やはり、父は知っていた。


 王妃がセレスティアを別の道へ移そうとしていたことを。

 その手紙を渡せば、セレスティアが変わるかもしれなかったことを。


 だから渡さなかった。


 セレスティアは、ゆっくりと息を吐いた。


 期待していなかったはずなのに。


 それでも、痛いものは痛い。


 次に母の発言を読んだ。


『知っていたら、あの子が自分で読む機会は奪いたくなかった』


 そして。


『私たちは、先に娘を売っていたのではないですか』


 セレスティアの指が止まった。


 母の言葉とは思えなかった。


 いつも困ったように笑い、リリアナを庇い、セレスティアに「あなたは強いのだから」と言っていた母。


 その母が、父にそう言った。


 セレスティアは、報告書を閉じかけて、やめた。


 ちゃんと読まなければならない。


 都合のよいところだけでも、都合の悪いところだけでもなく。


 全部。


 カインは、向かいの席で別の文書を読んでいたが、セレスティアの手が止まったことに気づいたようだった。


「休むか」


「いいえ」


「無理をするな」


「無理ではありません。ただ……母が、思っていたよりも踏み込んだことを言っていました」


「読んだ」


「どう思われましたか」


 カインは少し考えた。


「罪悪感が遅れて来たのだろう」


「遅れて」


「そうだ。遅すぎるかもしれないが、来ないよりはましだ」


 セレスティアは小さく頷いた。


 母をすぐに許せるわけではない。


 リリアナを優先し続けたこと。

 セレスティアの部屋を衣装部屋にしようとしたこと。

 婚約破棄の夜に、娘を庇わなかったこと。


 どれも消えない。


 それでも、母が初めて父に抗ったという事実もまた、消してはいけない。


「記録とは、厄介ですね」


 セレスティアは呟いた。


「嫌なことも、少し救われることも、両方残ってしまいます」


「だから価値がある」


 カインは言った。


 セレスティアは、報告書を丁寧に机へ戻した。


「はい」


 そのとき、記録官ミリアが新たな資料箱を運んできた。


「セレスティア様。エルフォード公爵邸より、署名済み推薦状の控えが一部提出されました」


「一部?」


 セレスティアが問い返すと、ミリアは頷いた。


「公爵家側は『現時点で確認できたもの』としています。宰相府側では、追加提出を求めています」


 箱の中には、封筒が十数通入っていた。


 それぞれに年号と取引名が書かれている。


 セレスティアは、手袋をはめて一通目を取り出した。


 王妃基金関連の推薦状。


 署名欄に、自分の名。


 まただ。


 しかし、今度は文面に見覚えがあった。


「これは、私が書いたものです」


 ミリアが記録する。


「当時、北方の毛織物組合を支援するため、王宮茶会で使用する布地の一部を推薦しました」


 セレスティアは次の封筒を開ける。


 こちらは覚えがない。


 署名は自分のものに見えるが、文面が違う。


「これは、不自然です」


 カインが顔を上げる。


「どこが」


「私が推薦状に『間違いない商会である』という表現を使うことはありません。商会に問題がないと断定する立場ではないからです。通常は『納入実績を確認している』または『現時点で支障なし』と書きます」


 ミリアが小さく感嘆するように息を呑んだ。


 セレスティアは、さらに文面を見る。


「しかも、この推薦状には支援対象が記されていません。商会の信用だけを押しています。王妃基金関連文書としては不自然です」


 カインが短く言う。


「保全。改竄または文面差替疑い」


「はい」


 三通目。


 四通目。


 五通目。


 確認を進めるほど、奇妙な傾向が見えてきた。


 セレスティア本人が書いた推薦状は、支援対象、目的、確認範囲が明確だった。

 一方で、不自然な文書は、商会の信用や公爵家との関係を強調している。


 そして、不自然なものほど、ラドクリフ商会やその周辺業者に関わっていた。


 セレスティアは、資料を並べ直した。


「二系統あります」


 カインが立ち上がる。


「説明しろ」


「こちらは、私が実際に作成した推薦状です。支援対象が先に来ます。王妃基金からの支出理由も明記されています」


 彼女は左側の束を示した。


「こちらは、私の署名はありますが、文面に違和感があります。商会の信用、公爵家との関係、王太子府との調整を強調していて、支援対象が曖昧です」


 右側の束を示す。


「つまり、君の署名だけを利用して、商会信用の裏付けにした文書群がある」


「可能性が高いです」


 セレスティアは、右側の束の一枚を見た。


「しかも、署名欄の紙質だけ違うものがあります。私が別件で署名した紙を切り貼りしたのかもしれません」


 ミリアが顔を青くする。


「切り貼り……」


「写しの段階であれば、目立ちにくいです。原本を確認する必要があります」


 カインの声が冷える。


「悪質だな」


 その言葉に、セレスティアは胸の奥が静かに冷たくなるのを感じた。


 悪質。


 その通りだった。


 これは、家族の行き違いではない。


 誰かが彼女の署名を道具として扱い、文書の意味を変えた。


 彼女が積み重ねてきた信用を、別の目的へ流した。


「父が直接したかは、まだ分かりません」


 セレスティアは言った。


「けれど、公爵家の管理下で行われた文書が含まれています。少なくとも、家の文書管理責任は問われます」


 カインは頷いた。


「監査範囲を広げる理由が増えた」


 セレスティアは、右側の束を見た。


 自分の名前が並んでいる。


 けれど、自分の言葉ではない。


 それを見るのは苦しかった。


 だが、もう目を逸らさない。


「一覧表を作ります」


「今日中にか?」


 カインの目が細くなる。


 セレスティアは少しだけ口をつぐんだ。


 そして、言い直す。


「今日の勤務時間内に、できる範囲まで作ります」


 カインは満足そうに頷いた。


「よし」


 ミリアが小さく笑った。


 セレスティアも、ほんの少しだけ笑った。


 その小さなやり取りのあと、彼女は新しい紙を取り出した。


 表題を書く。


『エルフォード公爵家提出推薦状控え分類表』


 左に、本人作成確認済。

 右に、文面不一致・改竄疑い。

 備考欄に、商会名、支援対象、署名欄の状態、原本確認要否。


 表を作る。


 線を引く。


 文字を置く。


 怒りが、形になっていく。


 悲しみが、記録になっていく。


 セレスティアは、少しずつ自分の呼吸が整っていくのを感じた。


 こうして書くことで、自分は崩れずにいられる。


 それは冷たいからではない。


 冷静であろうとしているからだ。


 亡き王妃の言葉が、また胸の奥に浮かんだ。


 あなたは、冷たい子ではありません。冷静であろうと努めてきただけです。


 セレスティアは、ペンを進めた。


 その日の夕暮れ、エルフォード公爵邸には再び宰相府からの照会が届いた。


 今度は、推薦状控えの追加提出命令だった。


 グレアム公爵は文面を読み、顔を強張らせた。


『現時点で提出された推薦状控えに、本人作成文書と文面不一致文書が混在している。未提出分を含め、過去十年分のセレスティア・エルフォード署名入り文書を全件提出されたい』


 過去十年分。


 グレアムは、椅子の背にもたれた。


 そこまで遡られると、困る。


 いや、困るどころではない。


 公爵家の倉庫には、まだ古い文書がある。

 商会との控え。

 推薦状の写し。

 セレスティアの署名欄だけを添えた書類。

 処分していないものもあるはずだ。


 なぜ処分しなかったのか。


 簡単だ。


 当時は、それが価値だったからだ。


 セレスティアの署名は、後々使える信用の証だった。


 まさか、それが今、刃になって返ってくるとは思わなかった。


 扉の外で、リリアナの声がした。


「お父様」


「今は駄目だ」


「でも、宰相府からまた文書が」


「分かっている!」


 怒鳴ったあと、グレアムは額に手を当てた。


 屋敷全体が、すでに揺れている。


 使用人たちは目を合わせなくなった。

 妻は自分に疑いの目を向けている。

 リリアナでさえ、以前のように無邪気に父を信じていない。


 セレスティア。


 あの娘が、ここまで家を揺らすとは。


 グレアムは、奥歯を噛みしめた。


 だが、その怒りの底には、初めて別の感情が混じっていた。


 恐れ。


 自分が軽んじていた娘の署名が、今、エルフォード公爵家の扉を内側から叩いている。


 宰相府の新しい部屋で、セレスティアは分類表の最後の行を書き終えた。


 勤務終了時刻の少し前だった。


 カインが時計を見る。


「時間内だな」


「はい」


「徹夜しなかった」


「しておりません」


「昼食も取った」


「七割以上いただきました」


「よろしい」


 その言い方があまりにも真面目で、セレスティアは少しだけ笑った。


 笑ったあと、分類表を見下ろす。


 本人作成確認済、六通。

 文面不一致・改竄疑い、九通。

 原本確認待ち、多数。


 数字になった。


 これで、ただの感覚ではなくなった。


 彼女の署名は、少なくとも九通の不自然な文書に使われていた。


 セレスティアは、ペンを置いた。


「宰相閣下」


「何だ」


「父は、これを見て何と言うでしょう」


「分からない」


「家のためだ、と言うかもしれません」


「言うだろうな」


「私は、その言葉を聞いても崩れないでしょうか」


 カインは少しだけ考えた。


 そして、以前と同じように答えた。


「崩れるかもしれない」


 セレスティアは苦笑した。


「やはり、そこは大丈夫とは言わないのですね」


「言わない」


「では、崩れたら」


「戻ってこい」


 セレスティアは、静かに頷いた。


「はい」


 窓の外では、夕陽が沈み始めていた。


 新しい机の上には、分類表と、封印された推薦状の束がある。


 実家の門は、まだ遠い。


 けれど、監査はもう公爵邸の中へ入っていた。


 セレスティア本人は戻っていない。


 それでも、彼女の名前が戻った。


 今度は、家のために使われる署名としてではない。


 家を調べる監査官の署名として。

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