第3話 遠き遥かなる地、アマテラス
春人が戸惑っていると医者が説明する。
「君は奇振都の辰巳地区第一高等学校の校庭で課外授業をしていて、突然倒れた。
授業を受けていた妹さんが呼ばれて、その連絡を受けてここに運ばれたんだ」
その言葉に春人は目を瞬かせる。
自分の記憶と説明がまるで違う。自分が最後に見たのは、なにかで破壊されて降ってくるビルの破片の下敷きになる直前の光景だったはずなのに…
何をどう尋ねればよいかも分からなくなり、唖然とする春人。だが、
「まだ熱射病になるような季節でもないし、奇妙な話だ」
その医者の言葉に春人は何か引っ掛かるのを感じた。
熱射病って確か、昔熱中症の事をそう呼んでいたような。
それに、
「今って……何月なんだ?」
季節という言葉に引っ掛かるものを感じ、春人は結衣に尋ねる。
「2月だよ。もうすぐ3月で真夏、夏休みも近いんだから」
「2月が夏?」
「そうだけどなにかおかしい?」
当たり前の事を聞かれたかのように首をかしげる結衣、春人はどう返せばよいか戸惑う。
…先生、これって…
…ああ…例の症例かもしれないな…
ふと、春人の耳に先生と看護師が囁き合う声が聞こえる。
…共和国政府に報告するべきだろうな…
…分かりました…
かすかに聞こえてきたそのやり取りに春人は不安を覚える。
一体何の事だろうか?
だが、春人が疑問を口にするより前に先生が口を開く。
「すまない。彼にはもう少し検査が必要なようだ」
その言葉に結衣の表情が驚きに変わり、やがて曇る。
「兄はすぐに退院できないんですか?」
心配そうに訴える妹。
「ああ」
「そんな」
検査がすめば春人とすぐに帰れると思っていたのか、肩を落とす結衣。
その後、結衣はその場で春人の入院の手続きを行い、それを済ませた先生と看護士は病室から去っていった。
先生たちがいなくなってしばらくすると傍らのテーブルに置かれていた携帯電話が震える。
「お母さんだ。心配していると思うから立体映像にするね」
スマホの画面を見た結衣の顔がほころぶ。しかし、
立体映像?
春人が疑問を口にするかどうかためらっているうちに結衣は、スマホを春人の前に置かれているベッドを横切って取り付けてあったサイドテーブルに置くと、そのスマホの上の空間に立体映像が映し出される。
それは思わず目を見張る美しい女性。その立体映像の女性はこちらを見ると、
「連絡を聞いたときは心配したのよ。熱はない?」
そう言うと立体映像の母親はこちらに手を伸ばそうとする。だが…
「あら、触れないわ。ねえ結衣、携帯を動かして」
立体映像の女性は振り返ること無く後ろの結衣にそう言うと、
「うん」
うなずいた妹がテーブルごとおかれた携帯を動かす。
それと同時に出力された映像のなかの春人の母だという女性の映像が近づき、その映像の手が額に触れる。
それは立体映像のはずなのに人肌のような暖かい感触が額に当たり、春人は驚く。
触れる、だけじゃない。触感も伝わる立体映像と言うことだろうか?
「熱は…ないわね」
立体映像の女性はそう言って微笑む。
「うん」
間近に迫る女性の顔、息づかいすら感じるなか、内心の動悸を自覚しながら春人はうなずく。
「じゃあ結衣、春人の事はお願いね」
振り返ることなく女性がそう言うと結衣は、
「うん。わたし、これから家に戻ってお兄ちゃんの着替え取ってくる」
「そう、ありがとう」
そう言うと母の立体映像は消え、サイドテーブルの上には立体映像が消えたスマホの端末が残される。
「わたしは一旦帰るね、また戻ってくるから」
「ああ」
鞄を手にした結衣が病室を去り、しばらく春人はしばらく窓から外を眺めていた。




