第4話 過去と未来が共存する世界
どこか懐かしい町並みと遠くにまばらに並ぶ高層ビル、その先に見える山々。
見たことがない光景のはずだが、見たことがあるようにも思える。
そう思いながらしばらく見ているとふと、気になって眼下へと目をやる。
病院の敷地内の駐車場に妹が現れ、端にある駐輪場を歩いていくとそこに置いてあった自転車に乗る。
ヘルメットを被ってサドルにまたがると結衣はこちらに気づいたか、手を振ってくる。
窓越しに春人が手を振り返すと彼女は自転車をこいで敷地から去っていく。
結衣が乗る自転車は歩道と車道の合間にある自転車専用道を走って去っていく。そしてその近く、高く張られたガードレールで遮られた道路の上を車が飛び去っていく。
春人がそれを何気なく見ていると大型の箱形の車が道路すれすれを飛んで病院の敷地に入ってくる。
それは病院の建物近くの停留所と思われる所の上に止まるとゆっくりと着陸し、乗降口を開ける。そこで何人かの乗客を昇降させると再び浮き上がり、飛び去っていく。
春人はその光景に既視感を覚える。
どうやらあれがこの世界の路線バスのようである。
他にも敷地内の駐車場に止まり、あるいは浮かび、飛び去るいくつかの車。
合間を行き来する人々。
彼はそれをずっと眺めていた
が、あるところに目が行く。それは病院の敷地に張られた規制内に止まっている箱形の車両。
荷物輸送用のトラックだろうか?
春人がそう思っているとそのトラックの屋根が開き、中から無数の小型機械が浮き上がってくる。
「あれってドローン?」
春人の脳裏に前世の記憶が甦る。
ドローン、それは遠隔操作。あるいは自律行動をされる小型の機械の総称。
前世でも数年前から動画の撮影を初め娯楽関係、ゆくゆくは輸送などにも使われ始めるといわれていた。だが、春人の目に映るそれは無数に群れなして病院の壁に群がると、一斉に塗料を吹き付け、外装の塗り替えを行っていた。
うっすらと茶色がかかり、くすみ始めていた白い外壁が鮮やかに塗り替えられていく。
やがて塗料が切れたのかドローンの中には車両と壁を行き来するものもちらほら現れる。
春人にはそれが群れなす蜂や蟻のように見えた。
そうなるとあのトラックは巣箱だろうか?
しかもそれだけではない。トラックの中から別の人を模した存在が姿を現す。
それは、ぱっと見は樹脂か金属かは分からないが鎧のような外装に覆われ、背中から腰の辺りに何かを取り付けられているように見える。
春人は初め、それは前世で昔見たテレビアニメに出てくる人が乗って動かすロボットだと思った。
しかしそれにしては小さすぎる。
それは辺りを行き交う人々と同じくらいの大きさでとても人が乗れるようなものではない。
しばらくするとそれはふわりと浮き上がるとドローンの群れに混ざり、屋根の排水をする配管等、ドローンが入り込めない複雑な場所に近寄ると手にしたスプレーガンと思われる物体で塗料を吹き付けていく。
その様に春人は目を瞬かせる。
と、その様子に気づいたかその人型はこちらに手を振ってくる。
その仕草はとても人間臭く、とても機械には見えない。
やがて、一仕事終えたドローンの群れとその人型は次々とトラックの上に降りていき、ドローンは収容されていく。
と、そこで春人は再び目を見開く。
人型の機械だと思っていたそれの、金属か樹脂でできていたと思えた滑らかな外装が消えていき、中から全身になにやら装具をまとった人間が姿を現す。
その様はテレビで見た変身ヒーローのようで、その人物は病院のしばし壁を見上げていたが満足そうにトラックの中へと消えていく。
そしてしばらくすると、トラックから人が出てくると周りの規制が片付けられ、トラックは宙に浮くと病院の敷地から飛び去っていく。
その間、彼はそれをずっと眺めていた。
触れる立体映像が映されるスマホ、そして車が当たり前のように空を飛ぶ。
特撮ヒーローのような装備で宙を飛び、無数のドローンと共同で作業をする人間
そして何気なくつけたテレビに映し出される映像や壁に掛けられているカレンダーには当たり前のように日本語が映され、また書かれている。
しかも、
「昭和…100年か」
カレンダーに印刷された文字を春人は口に出し、記憶をたどる。
確か、令和の前の年号であった平成のさらに前の年号だったはず。
平成末期生まれの春人にとってはもはや遠い過去のはずの年号、しかしここでは今も使われている、
目が覚めたら突然数十年先の未来に来てしまったかのような非現実な世界。
だが、窓の先に見える光景は確かに未来と言うよりは過去、テレビで見たかつて昭和と呼ばれた時代を思わせる雰囲気。
過去と未来が同時に存在するかのような光景に春人は戸惑う。




