第20話 蝶と蛾の羽ばたき
――ピピッ
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「目の前で殺された、というよりは家に帰ったら家族が殺されていた……というのが正しいかな」
僕はそれを皮切りに、エクエへ僕の過去について話した。今回は血に対するトラウマについての話だから、主に話したのは家族が殺された事件についてだけれど。
話し過ぎてしまえば、僕と演劇との関係をも話さなくてはいけないことになる。その後も、エクエが僕を信頼し続けてくれるという自信はない。それが嘘ではなかったとしても、演技は決して真実にはなりえないからだ。
「で、犯人は捕まったのか?今の時代、人を殺せば犯罪になって捕まるんだろ?」
絶妙な時代のギャップを感じさせる質問に僕は答える。
「いや、少なくとも僕が死ぬまでには捕まらなかったよ。証拠が全くなくてね」
エクエはうーんと唸りながら言う。
「でもさ、そうは言ってもそれでアズマが『僕が家族を殺しちゃった』って気負う必要は無くねぇか?」
その質問に答えない僕を見て、言葉を続ける。
「だって殺したのはアズマじゃないんだろ?家出をしたのはアズマの意思かもしれねぇけど、別に家族が殺されちまえって思ってそいつに依頼した訳でもないんだろ?」
「でも……」
エクエは首を横に振って僕の言い訳を阻止する。
「アズマ、『バタフライエフェクト』って知ってるか?」
「一応」
急に出てきたその単語に、僕は驚きつつもそう返答する。いったいそれとこれとがどう繋がるというのだろう。
「折角今回の観測にはうってつけのパピリオとティネアがいるから彼らで説明することにするな」
そう言ってエクエは空中に投影した情報端末からホワイトボードのようなアプリを起動し、パピリオとティネアの名前と、この街と彼らが行った田舎などを簡潔に書いていった。
「俺からすれば、パピリオとティネアの状況とアズマの状況はよく似ている。取り敢えず、まずは居心地は悪いがこの街には平和が訪れたからと去ったパピリオとティネアがいるわけだろ?」
そう言ってエクエは街の区画に書かれていた彼らの名前を田舎の区画へと動かす。
「そして彼らは、自分たちが『本編で倒した以外の悪党たちに対する抑止力になっていた』という自覚がなかったんだ。ま、知る術なんてないだろうしな。だから今、この街の治安が悪化してるし、実際さっき俺たちを案内してくれた人が殺害された」
エクエはそこまで言うと、ホワイトボードから僕へと視線を移した。
「さて、ここでアズマに質問だ。あの人が殺されたのはパピリオとティネアのせいか?」
確かに、そう言われてしまえば僕の状況とかなり近いかもしれない。一番の違いは被害者と当事者の距離。きっとその距離が近かったからこそ、僕は責任を感じてしまったのだろう。
僕が家出をしたのは、家族が殺されるのを知らなかったから。それに、初めての家出だったのもあって、玄関の鍵が開いたままにされていることを知らなかったからだ。
それに加え、これは僕たちが今置かれている状況においても言えるだろう。あの人が死んだのは、彼をここに連れてきてしまった僕たちのせいなのか、と。
――ピピッ
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