第9話 お求めのものはカウンターの中に
――ピピッ
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「お待たせしてしまってすみません、以上がご注文の品になります」
注文までとは打って変わって、提供にはやや時間がかかった。もしかしたら、ワンオペを任されたばかりの新人スタッフだったりするのかもしれない。……なんて探偵のように頭の中で推理を繰り広げるが、自信はない。
「いえいえ、この後に用事があったりとかはしないので気にしないでください」
僕がそう返事をすれば、
「そんなそんな。お詫びと言っては何ですが、サービスとしてこちらのクッキーをどうぞ」
と、香ばしい香りが漂うお洒落なクッキーを渡されてしまった。もう、匂いだけで分かる。絶対美味しいやつだって。
クッキーは後にして、僕たちは注文したデザートや飲み物から楽しむことにした。
さっそくチーズケーキにフォークを刺せば、フォークは案外スッと入っていく。チーズは比較的柔らかいものを使っているようだ。一口食べれば口に広がる酸味と香ばしさ。二口目は、トッピングとして添えられていたベリーソースを少しかけてから。うん、ベリーソースの甘酸っぱさがやっぱり合う。美味しい。
「お口に合ったようで何よりです。パティシエの方にもそう伝えておきますね」
成程、彼はあくまでスタッフであり、パティシエは別にいるということか。直接美味しさを伝えられれば良かったんだけど。
「ありがとうございます、是非そう伝えてください」
リアスとヴェルスも、口に含みながら首を縦に振った。口にものを含みながらしゃべらないのは大変お行儀が良いので花丸をあげたい。彼らのことは褒めて伸ばしてあげたいので。
――チリンチリン
ドアが聞き心地の良い鈴の音を鳴らしながら開く。後ろを振り返れば、若干息を切らせたエクエがいた。質屋で宝石を売れたからか、彼のポシェットの中から若干小銭同士がぶつかり合う音が聞こえてきた。
「お連れ様ですか?」
僕に問うスタッフ。
「はい、そうで」
「お、お前何でこんなところにいるんだよ!」
僕に被せるように急にそう叫ぶエクエ。ただし、彼が指し示す指先は、もちろん僕たちではなくスタッフの方向を向いていた。目の前のスタッフとエクエは……というより、エクエが一方的に面識があるようだけれど、彼の正体は何なのだろう。
「えっと、どちら様ですか?」
スタッフは苦笑いをしながらそう聞く。今、彼にはエクエが不審者にしか見えないだろう。
「ご、ごめんな。まさか有名人とここで出会えるなんて思ってなくてついうっかり」
急にしおらしくなるエクエ。エクエが敵意を見せず、かつフレンドリーに接しているとなると、もしかして彼こそが。
「そんな有名人だなんて」
「いやいや、ルーモアさんは有名人ですって」
やはりそうらしい。二人は会話を続けているが、僕はエクエの言葉を頭の中で反芻する。このスタッフはルーモアで、ルーモアは確か依頼者が恋愛をしたい情報屋で。僕たちは運よく協力相手に出会えたわけだ。
なんだか、ユーとの出会いを思い出してしまう。ユーともこんな風に、運命でたまたま出会ったんだっけ。
――ピピッ
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