第12話 古傷
――ピピッ
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結局マールスはその力についてそれ以上話すことはなく、話題は今の地上世界への話へと切り替わっていった。
現在地上世界では致死性の感染病が蔓延しており、マールスもそれが原因で命を落としたとのこと。なんでも、病気から逃げるために街から離れたのにも関わらず、感染したのに気づいていない研究仲間が彼の自宅へ押しかけ、それが要因で彼も感染し、そのまま亡くなったそうだ。なんとも不憫な経緯だ。
彼ほどの人物であれば、地上世界でかなりの成果を残せたはず。であるにもかかわらず、死んで、しかも彼の成果を地上世界に伝えることのできない異世界転生観測係へ所属する。もったいない。非常にもったいない。ミストをぶん殴ってやりたい。
そもそも、神援者は一部の人間を除き、多くが若くして亡くなっている。まるで、天才たちが地上世界で研究の成果を直接出されるよりも、「ひらめき」を通じて研究の成果を地上世界の知識のある一般人に送る方法を取り、その過程で神の検閲を入れることで、地上世界を思い通りに支配しようとしているのではないのだろうか。そう思ってしまうが、私の知る神々はそういった存在ではない。
であれば、誰だ。昔、一部の人間たちが考え出した神話のように、「創世主」という存在でもいるのだろうか。しかし、神々を束ねる存在などいないし、目的が分からない。こんなことをしたら文明の発展速度が遅くなるわけだし、メリットがない。
この世界は何のためにあるのかなんて、哲学的なことを考えてしまう。
「盛り上がってるところ悪いけど、私は彼の加入に反対よ。『相棒』の分際で言うべきことではないかもしれない。でも、言わせてもらうわ。彼は『実験所』の研究者になるべきよ」
天上世界は、「学校」、「図書館」、「実験所」、「動物園・水族館」といった、公共施設の名前を模した研究施設で主に構成されている。ちなみに、異世界転生観測係があるのは、「図書館」である。そして彼に私が勧めたい「実験所」は彼のような物理・化学の研究者向けの施設である。
「そういう所に行ったら僕、錬金術を広めざるを得なくなってしまうと思いませんか?僕にはまだ、錬金術という禁忌に近いこの力を地上世界に広めるべきなのか分からないんです。だから、悩んでいる間だけでも、この力を役に立てられる異世界転生観測係のために使わせてくれませんか?」
「うっ……」
何も言い返せない。彼が神援者になったのは、紛れもなく錬金術が要因だろう。だとすれば、彼は錬金術の拡散に力を貸すことになるに違いない。彼の言うことは尤もだ。
「あはは、アルタ君何も言い返せなくなっちゃったね。……じゃ、マールス君を尊重して彼に所属してもらうことにするよ。では早速、彼の『相棒』を決めに行こうか。おいで、マールス君。説明は道中にするからさ」
そう言ってミストとマールスは部屋から出て行ってしまった。
「アルタちゃん、錬金術なんてカッコいいよね!元素を司る神々からの一瞥を受けたら手に入るものなのかな?だとしたら、あたしたち『相棒』には無理そう……」
「そんなことはなさそうよ。彼が認識している元素の数はそこまで多くないもの」
頭の中に勝手に浮かぶ彼の個人情報。本当によくできていて、迷惑な能力だ。
それから私は、ミストが散らかしたままにしてある書類を整理したり、私が書いても良さそうな部分を書いたりして時間を潰した。これは別にミストのためではなく、未来の自分のためだ。彼は仕事をすぐに溜めてしまうし、それを急かすのもストレスだし。
――ピピッ
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