第32話 迎撃者ソッポムク
英雄の雨靴がある研究所の前では、ガッツァーの隊員と皇軍の兵士が激しい戦闘を繰り広げていた。
ノアはハンドルを回すと、ガッツァーボアを研究所から何もない砂浜の方角へ向けた。
「全員!しっかり掴まってろよ!」
後部にいる信介達は何が起こるか知る由もない。ガッツァーボアは全速力で海へ向かっていくと、下部の特殊な装置を作動させて海の上を走り始めた。
「うおりゃあぁぁぁ!」
ボアは沖の方で勢いを殺さないようにと大きくカーブを描く。そしてフロントバンパーが研究所を向くと、そのまま真っ直ぐに進んだ。
「やっぱりな!海上からの侵入は対策してなかったみたいだ!」
「僕達海の上にいるのか!?」
「しっかり掴まってろよ!」
海上から陸地へ駆けあがり、そのまま研究所の壁を突き破ろうと試みる。しかしボアの前に現れた皇軍の兵士が、ノアの突撃を阻んだ。
「オーガか!」
身長およそ5メートル。岩陰に潜んでいた巨人がボアの前に立ち塞がり、巨大な盾を地面に付けた。
研究所の壁ならともかく、防御を前提に造られた盾に突撃したら自分達の身が持たない。ノアは急ブレーキを掛けると、全員に降車命令を出した。
「やいデカいの!」
「デカいのじゃない。オデはソッポムクだ」
「…そっぽだが尻尾だか知らねえが、走ってる車の前に飛び出すなって母ちゃんから教わらなかったか?」
「オデの父ちゃん、母ちゃん、昔人間に殺された。皇軍の兵士として務めを果たした」
「そりゃ立派なこった!」
ノアはジリジリと足を動かす。ソッポムクがガッツァーボアに背を向けたところで、車体の陰に隠れていた信彦達は研究所の裏口へ静かに進んだ。
「やめておけ人間。大きな武器を持たないお前じゃオデに勝てない」
「そうかぁ?俺はクロスドリアじゃ最強って自負してるんだけどな」
「地元最強の喧嘩番長ってだけじゃオデには勝てないぞ。オデは軍人だからな」
その軍人は今、ノアの挑発に気を取られて気付かぬ敵の侵入を許そうとしていた。
「なら負けても言い訳はできねえな。お前が弱かったってだけなんだからよ」
ノアは腰から傘を抜いた。それは初めて信彦達と戦った際に振るったブレイブレラそっくりの傘だった。
「それは…ゾルマ様がやられたのか?!いや違うな!オデより弱いやつがゾルマ様に勝てるはずがない!それはレプリカだ!」
「半分外れで半分合ってるぜ。俺の方が強い。そんでこいつはレプリカだ。本物のブレイブレラがなくたってお前は倒せるからな」
ノアは傘を構えた。そして信彦達が研究所に入るまで、睨み合いを長引かせるつもりだった。
「きゃっ!」
「んん!?」
だがしかし、躓き転んだツナが声を出してしまい、ソッポムクは信彦達の存在に気が付いた。
振り向きながら盾を構えるソッポムクはそのまま殴り倒すつもりだった。それに気付いたノアは股下を抜けて仲間達の前に立つと、巨大な盾を全身で受け止めた。
「が…」
「ノア!?」
「早く靴を取って来い!こんなやつ、骨が折れてたって倒せる!」
「行こう皆!」
ソッポムクが倒せずとも、英雄の雨靴を回収した時点でこちらの勝利だ。信彦は慌てふためくツナの手を引いて、研究所に突入した。
「オデを馬鹿にし過ぎだぞ。それに研究所にも強いやつは待機してる。靴は取れないぞ」
「お前こそあいつらを馬鹿にし過ぎだ…しかし効いたぜ。こりゃあちょうどいいハンデかもな」
「そのまま死ねぇ!」
口の減らない侵入者を黙らせようと、ソッポムクが盾を振り上げたその時だった。
「はぁぁぁ!」
研究所に入ったはずの信介が、レイラの兄の傘を握って飛び蹴りを打ち込んだ。
信介の足を喰らったソッポムクは倒れるどころか、先程まで身を潜めていた大岩に背中から打ち付けられたのである。
「信介!?それにレイラも!どうして戻って来た!」
「雨靴は信彦さん達に任せました!」
攻撃を終えた信介はノアの前に飛び降りると手を貸して彼を立ち上がらせた。助けられた事もあってか、ノアには以前よりも頼もしく見えた。
「ここは俺に任せてくれ」
「オデがお前と戦うのか?凄く弱そうだぞ。悪い事は言わないから帰った方がいい。手加減しても殺しちまうぞ」
「俺は…俺達は死なない!」
信介は戦意のバトンを受け継ぐと、自分の倍以上ある敵に構えを取った。




