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第33話 無茶苦茶強いやつ

『うおおおおおおおおお!』


 信彦達はレイラ達と二手に分かれる前に傘の入ったリュックを貰っていた。そして攻撃性の強い傘を構えた一行は信彦を先頭に研究所の中を走り回っていた。


「どけえぇぇぇ!」

「子供達が走って来るぞ!」

「建物の中で走り回るな!」


 信彦達は立ち塞がる敵を次々と打ち倒していった。開かない扉や怪しい壁があれば殴り壊して部屋に突入した。英雄の雨靴が見つかるまで、彼らは永遠に走り続けるつもりだった。


「ねえ信彦!」

「どうしたナナ?」

「もう隠し部屋含めてこの研究所全体を見たはずだよ。それなのに雨靴がないのはおかしいよ」

「それもそうかも!だけどどうしようか…」

「ダッタラ、コノ研究所ヲバラバラニシタラドウカナ?」

「いいぞパグ!ナイスアイディアだ!もしかしたら壁の中に隠してあるかもしれないからな!そうとなればまずは最上階からだ!上がれ~!」


 そうして倒した兵士達を踏み付けながら、最上階の所長室へと駆け上がる。するとそこに、最初来た時にはいなかった怪しい男がいた。


「よく来たな。寝坊して準備に手間取ってしまったが、オレは──」

「潰せえぇぇぇ!」

「えぇ!?挨拶してるんだけど!?」


 怪しい男は話も聞かずに突撃してくる信彦達を見ると、慌てて壁を蹴破って外に飛び出した。


「危うし危うし…オレは魔人ヒロー。雨天皇の…部下だ」


 そう名乗ったヒローは翼もないのに浮いていた。


「ソッポムク様からの命令は撤退命令が出るまでこの靴を死守する事!そして体力だけが取り柄のオレは!お前達に捕まらない!このガロッシュ・ディ・アルバライズは奪われないってわけだ!」


 どうやらヒローが浮いているのは、彼が今履いている雨靴、英雄の武具ガロッシュ・ディ・アルバライズのおかげのようだ。


「あっ!セコいぞお前!そうやって逃げ切るつもりだな!」

「セコくて悪いかオレは下っ端!命令のためならどんな汚名だって被ってやる!」

「あいつを撃ち落とせそうな傘はないか…」


 信彦はレイラから借り受けたリュックを漁り、有効な傘を探す。

 そうして引き抜いたのは…


「ん?何か用か?」

「おぉ!?久しぶり!」


 リュックの中に住んでいるからかさ小僧のジョネスだった。


「ってなんだお前かよ。レイラじゃなきゃ信介でもねえのか」

「悪かったね信彦ですよ!ところであいつ飛んでるんだけど何か使えそうな傘ない?」

「ん…俺が闘ってやる」

「あぁ!…は?お前が?」

「俺は無茶苦茶強いんだぞ。それに久しぶりに登場して機嫌もいいんだ。絶好調だぞ」

「それはいいけど…でも相手飛んでるぞ。傘ごときに勝てる相手ごふぇ!」


 ジョネスは信彦の顔面に石突きを喰らわすと床に立った。


「か細い女が増えたな。レイラに手を出すつもりならまずお前から殺すからな」

「出さないよ!それによりも早くあいつやっつけてくれよ!」


 そうして信彦が指を向けた先には英雄の武具を履いた男が浮いていた。


「オレを倒すだって?やれるもんならやってみろよ」

「やってやるか」


 そう言うとジョネスは床を蹴り、宙に浮いたヒローに一直線で向かっていった。



「体力だけが取り柄と言ったがぁ、別にそれ以外が備わってないわけじゃない。それに捕まらないぐらい、脚力にも自信があるってわけだ!」

「ジョネス!?」


 ヒローは向かってきた敵を蹴り返した。

 ジョネスは崩れかけの研究所に、塵が立つ程の勢いで身体をぶつける。それを見た信彦は慌てて駆け寄った。


「傘じゃ無理だって!」


 そう声を掛ける。だが妙なことに、ジョネスは反応しなかった。様子がおかしかった。


「ま、まさか…死んだのか?」


「わざと喰らっただけだ。あんな蹴りじゃお前達すら倒せねえよ、あいつ」


 傘の陰から立ち上がるように、着物の男が現れた。信彦達の世界で言うところの、侍のような風貌の男だった。


「誰だあんた!?」

「レイラが関係ないところでこの姿には戻りたくねえんだ。さっさと終わらせるぞ」


 男は傘を畳むと、再びヒローに向かって飛び出した。先程のジョネスと比べて動きは素早く、それでも静かだった。


「なんなんだお前は?!」

「殺しはしない。お前みたいな下っ端、殺す価値がねえ」


 ヒローが右足で繰り出した蹴りを唐笠で受け止め、雨靴を奪い取ると信彦達の方へ投げた。


「もう片方も!」

「だってよ。降参してもう片方も寄越すか、ここで俺に負けて病院送りにされたいか、好きな方を選べ」

「く…にゃっ!」


 ヒローは隠し持っていた武器を構える。それは魔法の力を備えた折り畳み傘だった。

 恐ろしい傘だ。生地で弾いた物に毒の属性を付与するという物だった。


「しねぇ!」

「あぁそうかい」


 男は敵の腕が動くよりも先に、自身の持っていた傘の石突きを顔面に打ち込んだ。


「その前に、こいつは貰っとくぞ」


 男は狙っていた片方の雨靴を奪うと、先程と同じように信彦へ投げ渡した。


「それじゃあ…いくぜ」


 傘を構えてそう告げると、男は連続突きを繰り出した。


「ぶぎゃあぁぁぁあ!?」


 ヒローはすぐに遠方へ飛び出す事はなかった。

 男は傘を引き戻す際に僅かに捻り、彼が離れないように工夫していたのだ。



 納得いくまで殴り続け、最後の一撃を打つ。ヒローは見えないくらい遠くの方まで飛んでいった。




 人の姿になったジョネスのおかげで敵を倒し、目的の雨靴を手に入れる事が出来た。しかしそんな彼よりも、信彦達の方が疲れている様子だった。


「はぁ…はぁ…どうなってんだ…」

「俺がこの姿に戻るには味方と認識してるやつからエネルギーを分けてもらう必要があるんだ」


 ジョネスは傘に戻ると、先程まで入っていたリュックの中に戻ろうとした。


「戻るって…それがお前の本当の姿なのか?」

「…レイラに聞け」


 そう言うとジョネスはリュックの中に入っていった。

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