第30話 重なる人
レインランド全域で雪が降っていた。信介と信彦のいた世界で雪は交通機関を麻痺させる悪天候として嫌われていたが、この国では冷たいだけの雨として好まれていた。
この日、特にクエストを受ける予定のなかった少年少女達はクロスドリアの外で遊んでいた。
「皆元気だなぁ」
信介は一人、クロスドリアの屋根の下からはしゃいでいる仲間達を眺めていた。
「信介~雪、嫌いか?」
「ノア…うん。寒いし滑って転ぶし、電車だって動かなくなるから」
上で除雪作業をしていたノアが、遠くにいる信彦目掛けて雪玉を投げる。玉は見事顔面に命中し、信彦は転んだ。
屋根には雨魔力を電力に変換するパネルが設置されているが、雪の変換には時間が掛かったり、積もった雪がクロスドリアを圧壊させる可能性もある。なのでパネルに頼るだけでなく、ノアがやっているような作業が必要になるわけだ。
「俺も手伝うよ」
「今日は休みって言っただろ。やる事ないなら帰って寝てればいいだろ」
「何かやってないと落ち着かないんだよ」
信介は近くの階段からクロスドリアの屋根へ上がった。屋根ではノアの他にも街の大人達が除雪に取り組んでいた。
「ノブを見習って元気よく遊べよな…」
「…なあノア。どうして堀田の事はノブって略すのに俺は信介なんだ?なんか距離感あるっていうか…」
「そういえば…なんでだろうな。信介は信介なんだけど、信彦はノブって感じだからかな。お前こそ、いつまで名字呼びしてるんだよ」
「勘違いしてそうだから言っとくけど、一緒にこの世界に来たってだけであいつとは友達じゃないからな」
「そうだったのか?!そいつは意外だった!」
信介は近くに落ちていたスコップを取ると雪を掬い、地上に人がいないのを確かめてから振り落とした。
「仲良くしとけよ。友達は多ければ多い程いいからな」
「兄ちゃんみたいなこと言うなよ」
「兄ちゃんいるのか?」
「もうとっくに死んでる」
「そうか!悪い悪い!」
「そういうノンデリカシーなところもそっくりだ」
そこまで言って信介はふと気になった。こういう話は信彦の方が詳しいかもしれないが、死んだ人間が別の世界で生を受けるという、創作物ではありがちな話だ。
「ノア、あんたってもしかして前世の記憶があったりするのか?」
「は?ん~…ないな」
「やっぱそうだよな…」
「俺が兄ちゃんの生まれ変わりかもしれないってか?もしもそうだとしてもその頃の記憶がないからなぁ…それに今の俺はノア・カサエルだ。記憶が残っててもそう言うだろうな」
信介は自分の兄の言動を思い返す。確かに記憶を持ったまま転生しても、彼ならそんな風に言うだろうと一人納得した。
「今度はこっちから質問いいか?」
「俺に答えられる事ならなんでも」
「レイラの事、好きなのか?」
信介はズッコケた。そうして右手で雪玉を作ってノアに投げ飛ばすが、届く前に空中分解してしまっていた。
「そんなんじゃねえよ!」
「そうか~?他の女子と話す時に比べて楽しそうに話すけど」
「それはあいつ以外の女子とあんま仲良くないからだ。あっ不仲ってわけじゃないからな、勘違いするな」
「あっそう…寂しいやつ」
信介は再び雪玉を作って投げ飛ばした。今度は崩れる事なく、ノアの顔に命中した。
「まあ、色恋沙汰に興味はない。だけど忘れるな。俺達は戦ってるんだ。思いがけないところで別れる事だってあるかもしれない。だから──」
「レイラには青空を見せるって約束したんだ。だから死なせないし、俺も死なない」
「…そう言ってくれて安心した。心強いぜ」
それから雪が止むまでの間、二人は会話をしながら作業を続けた。




