第29話 ヤングヨーク
レインランドが封印雲に覆われるより遥か昔。レインヨークと呼ばれる都市があった。
レインヨークは現在のレインランドで最大の都市であるクロスドリアとは比べ物にならないほど大きく、雲を貫く建物が森の木々の様に並んでいたそうだ。
今、そのレインヨークを夢見る者達が町を作っていた。町の名前はヤングヨーク。今は誰も使っていない小さな掘っ立て小屋が並んでいるだけだが、やがてレインヨークと呼んでも差し支えない大都市にするヴィジョンがあった。
信彦、ナナ、ネメの3人はその町を閉鎖及び解体するというクエストを受けてヤングヨークに近付いていた。
「伝説上の都市を作ろうなんてロマンのある話だと思うけど…」
「確かにね。だけどヤングヨークが出来上がった場所で暮らしてたララバイライオンが近くの街に逃げて迷惑しているんだ。それに常に雨が降り続ける環境下でクロスドリアよりも大きな街なんて作れるわけがない。非現実的だよ」
「だから街を撤去してララバイライオンの場所を取り戻そうってわけね」
ナナとネメは目的に納得しているが、ロマンを想う信彦は目の前の町を壊すという事に抵抗があった。
協力者以外の出入りを禁じている町の周辺には雨を溜めるタンクと、溜まった雨をエネルギーに変換して発射する自動銃器が設置されていた。
「君達、止まりなさい!」
子供達を相手にすぐ撃ってくるような事はなかった。彼らに声を掛けた男は銃器の遠隔操作盤を手に持って近付いて来た。
「クロスドリアの方角から来たという事は説得に来たんだね?悪いけど何人寄越したところで私達の意思は変わらないよ」
「意思は変わらないよって…ララバイライオンが周辺の町に近付いて迷惑してるんですよ。今すぐこの町を撤去してライオンに返してください」
恐らく話し合いが通じる相手ではないだろう。信彦は大人相手に臆する事なくハッキリと意見を述べた。
「どこで何が起ころうと私達が知った事じゃない」
「無責任ですよ!」
「人間だって土地を手に入れるためにそこに生きるモンスターを殺してるじゃないか。私達の祖先もこの国を手に入れるために住んでいたモンスター、それか先住民を殺してるはずだぞ」
「これは環境や歴史に関わるような大きな問題じゃない!あなた達のくだらない町作りのせいで他所に迷惑が掛かっているって事を話してるんですよ!」
「部外者が私達の夢を愚弄するな!」
彼と話した信彦の中から、ロマンを求めるヤングヨークへの敬意は消え失せていた。
「信彦の言う通りにしてくれ!それに毎日雨が降り続けるこの国でクロスドリアよりも大きな街を作るなんて無理だ!」
「軽々しく無理なんて言葉を使うな!そうやって簡単に諦めるから何万年経っても封印雲に封じ込められたままなんだろうが!」
「それは…」
思わぬ反論にナナの言葉が詰まった。
「ヤングヨークを作って他人に迷惑を掛けて!それのどこに封印雲が晴れる要因があるんだ!?封印雲は雨天皇が原因だ!雲が払いたかったらもっと他にやる事があるだろ!」
「子供が一丁前に語るな!雨天皇を倒すためにもレインヨークは必要だ!この国の人間には希望が必要なんだ!」
「確かにレインヨークが完成すればこの国の人達の希望になるかもしれない。けど出来上がるのはいつになる!邪魔されず壊されない保証があるのか!あんた達は雨天皇に立ち向かおうとしない臆病者だ!何もしないよりはマシだからって言い訳を作ってるだけだ!」
直後に信彦は殴られたが倒れずに男を睨み付けていた。
「子供だからと言わせておけば!なら聞くが雨天皇を倒す手立てはあるのか?まさか考えもなしに突撃しろなんて敗戦国の将軍のような事は言わないよな!?」
「英雄の武具がある!」
「どうやって手に入れる?!雨靴のある研究所には雨天皇の部下がいる!傘は最強の兵士ゾルマが持ってるんだぞ!」
「戦うんだ!そして勝って手に入れる!」
「馬鹿を言うな!皇軍の兵士達の強さを知りもしないからそんな事が言えるんだ!」
そして今度は信彦が男を殴った。自身よりも小さな少年のパンチだったが、男は両足を地面から離して吹っ飛んでいった。
「軽々しくなければ無理と言って諦めてもいいのか?!随分身勝手なルールだな!…帰ろう、二人とも」
「信彦?!町はどうするの?」
「こんな人達にレインヨークとやらが作れるはずがない」
「いいや作って見せる!私達は絶対に諦めない!」
ヤングヨークに入るどころかそこにいた人間を説得する事すらできず、信彦達のクエストは失敗に終わった。
しかし、中途半端な気持ちだけが合わさった町は長く続くはずがなかった。ヤングヨークは将来、あられもない形で終焉を迎えるのだが、馬鹿な者達の末路として語り継がれる事もなく、そして忘れ去られるのだ。




