28.あれから
姉が姿を消し、ルーファス殿下も姿を消した。
民たちの間では様々な噂が飛び交っていた。
1.ルーファス殿下は婚約者を探す旅に出た
2.絶望のあまり自害した
3.貴族の暮らしに嫌気がさして二人で駆け落ちした
4.実はそれぞれに想い人がいて、その人達の元へ行った。などなど。
当事者でないからこそ面白おかしく噂がされた。
だが家族はそうはいかない。
ルーファス殿下は次期国王。加護持ちである姉は次期王妃。
騎士を総動員させて一年以上、捜索が行われた。
けれど二人を見つけることはできなかった。
私は何となく二人はもう精霊の国から戻ってこないのではないかと思った。
「リリスではなくあなたがいなくなれば良かったのに」
ショックのあまり食事が喉を通らず痩せ細り、目は泣きすぎて腫れていた。美人であった母には以前のような輝きはない。絶望に満ちた目で母は何度もそう言った。
暫くしてルーファス殿下の代わりに新たに王太子を親族の中から設ける話が出てきた。
当然だがかなり揉めた。
ルーファス殿下の帰還を信じ(本当に信じているかは不明)、このままルーファス殿下を王太子に据え置く。その場合はルーファス殿下の代理を立てることになる。
ルーファス殿下の次に王位を継げるのは血筋からいって陛下の弟の子供になるのだが、年齢はまだ六歳。
だから幼すぎるから自分の息子にという馬鹿な貴族がでる始末。
まだ王太子であり王ではないのだから問題ないという意見も勿論ある。その中には幼い彼を影で操り権勢を得ようとする下心がある輩がわんさかいる。
二人がいなくなった影響は思いの外大きく、権力争いに執着するあまり国は衰退を始めた。
そして我が伯爵領は姉の加護のおかげで繁栄していたところがあった。だから姉がいなくなってからそれに比例するように荒れていった。
両親に領を経営する能力がなかったことがそこで明らかになった。
その後、内乱が五年近く続くことになった。両親は度重なる増税に怒った領民に殺害された。
今は少しずつ国は安定に向かっているそうだ。完全に安定したら陛下は王位を自身の弟に譲り、王太子はルーファス殿下の従兄弟になることが決まった。
その後、国がどうなるかは私には分からない。何故ならルーファス殿下が姉を迎えにいって一年後、私はイリス殿下と結婚したから。
この国は私の母国と違って魔力に対する偏見は弱い。私と同じで魔力を持たないイリス殿下の妹とはとても良い関係を築けている。
三人の子を設け、イリス殿下と幸せな毎日を送れる。全てはイリス殿下と出会えたから起こった奇跡。




