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聖女を辞めたので、今日から魔王城で働きます  作者: ななほし


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第49話 十個目の光

 ――十個目。


 その光は。


 今までとは違っていた。


 九つの光が。


 世界の中に存在するものなら。


 十個目は。


 世界そのものの外側から。


 こちらを覗いているようだった。


「……また増えた」


 レオンが。


 呆然と呟く。


「もう何個あるんだよ……」


「私に聞かれても……」


 リリアーナも。


 困った顔をする。


「九個で終わりだと思ってました」


「俺も」


「私もです」


「僕も」


「私も」


「僕も」


「僕も」


「……」


 全員が。


 十個目の光を見る。


 そして。


 大神官だけが。


 震えていた。


「……そんな」


「大神官さん?」


「これは」


 大神官が。


 光を見つめる。


「存在してはいけない」


◇


 魔王が。


 すぐに尋ねる。


「知っているのか」


「……はい」


「何だ」


 大神官は。


 ゆっくり首を振る。


「知っているというより」


「記録から」


「一度だけ見たことがあります」


「何と書いてあった?」


「……」


 大神官は。


 苦しそうに答えた。


「――『原初』」


「原初?」


 リリアーナが。


 聞き返す。


「はい」


「世界が作られる前」


「まだ」


「世界という概念すら存在しなかった頃」


「そこにあったもの」


「……」


 ソラが。


 小さく呟いた。


「それは」


「僕も知らない」


◇


 十個目の光が。


 ゆっくり下降してくる。


 誰にも触れない。


 誰にも近づかない。


 ただ。


 リリアーナの目の前で。


 止まった。


「……」


 リリアーナが。


 手を伸ばす。


「触っていいのかな」


「待て」


 魔王が止める。


「危険かもしれない」


「でも」


 リリアーナは。


 光を見る。


「なんだか」


「寂しそうなんです」


「……」


 魔王は。


 困ったように眉を寄せた。


「君は」


「どうしてそういうものばかり……」


「?」


「いや」


「何でもない」


 魔王が。


 そっとリリアーナの手を握る。


「触るなら」


「私も一緒にいる」


「……はい」


◇


 二人の手が。


 光へ触れる。


 その瞬間。


 世界が。


 白く染まった。


「――っ!」


 リリアーナの頭の中へ。


 一気に。


 大量の記憶が流れ込んでくる。


 森。


 空。


 海。


 まだ名前のない星。


 そして。


 何もない場所。


 そこに。


 一人の少女が立っていた。


 白い髪。


 金色の瞳。


 見覚えのある顔。


「……私?」


 リリアーナが。


 息を呑む。


 違う。


 自分ではない。


 もっと古い。


 もっと最初の。


 ――「リリアーナになる前」の誰か。


 少女は。


 一人で泣いていた。


『……誰もいない』


 声が響く。


『また』


『私だけ』


 少女が。


 空を見上げる。


『だったら』


『作ろう』


 小さな手を。


 空へ伸ばす。


『私と一緒に』


『笑ってくれる世界を』


◇


「……」


 リリアーナは。


 言葉を失った。


 少女が。


 手を振る。


 何もない空間に。


 一つ。


 小さな星が生まれる。


 そして。


 もう一つ。


 もう一つ。


 世界が。


 少しずつ形になっていく。


「世界を」


 リリアーナが呟く。


「作ってる……?」


 ソラが。


 驚いた顔をする。


「そんな……」


 アレンも。


「世界の管理者より」


「もっと前?」


 大神官は。


 震えながら。


「原初の創造者……」


「……」


 魔王が。


 リリアーナを見る。


「君は」


「……」


「この少女なのか?」


「分かりません」


 リリアーナは。


 首を振る。


「でも」


 少女が。


 次々に世界を作っていく。


「なんだか」


「懐かしいです」


◇


 少女は。


 一つの世界を作った。


 そこには。


 森があった。


 小さな家があった。


 そして。


 子供たちがいた。


 リリアーナ。


 魔王。


 レオン。


 ミラ。


 ユリウス。


 セラ。


 アレン。


 そして。


 大神官。


「……」


 全員が。


 息を呑む。


「最初から」


 ミラが。


 呟く。


「ここにいたんだ……」


 少女が。


 子供たちを見て。


 笑っている。


『これで』


『寂しくない』


『みんながいる』


 その声に。


 リリアーナの胸が。


 締め付けられる。


「……この子」


「私に」


 よく似ている。


◇


 しかし。


 次の瞬間。


 世界に。


 黒い亀裂が入った。


『――世界は』


『一人では作れない』


 少女が。


 振り返る。


『誰?』


 黒い亀裂の向こうから。


 巨大な目が。


 現れる。


『私は』


『世界の外側』


『世界が生まれる前から』


『存在している』


 少女は。


 怖がらなかった。


『じゃあ』


『あなたも一緒に』


『遊ぶ?』


『……』


 巨大な目が。


 沈黙する。


『なぜ』


『私を恐れない』


『だって』


 少女が。


 笑う。


『一人で寂しいんでしょう?』


 ――。


 巨大な目が。


 初めて。


 揺れた。


◇


 リリアーナが。


 その光景を見ながら。


「……」


 呟く。


「私」


「昔も」


「同じこと言ってる……」


 魔王が。


「君は」


「変わらないな」


「え?」


「誰に対しても」


「同じように手を差し出す」


「……」


 リリアーナは。


 少し照れた。


「そんなに」


「変ですか?」


「変だ」


「……」


「だが」


 魔王が。


 小さく笑う。


「嫌いではない」


「……!」


 レオンが。


「おい!」


「何だ」


「今のはずるい!」


「何がだ」


「俺も言おうと思ってたのに!」


「では言えばいい」


「えっと……」


 レオンが。


 真剣に考える。


「リリアーナは」


「その……」


「……」


「好きだ!」


「……」


「…………」


 沈黙。


 リリアーナが。


 目をぱちぱちさせる。


「ありがとうございます?」


「違う!」


「え?」


「そういう意味じゃない!」


「どういう意味ですか?」


「……」


 レオンが。


 頭を抱える。


「もういい!」


◇


 しかし。


 そんな三人を。


 少女が見ていた。


 映像の中の。


 幼い少女が。


 こちらを向いている。


「……?」


 リリアーナが。


 息を呑む。


 少女が。


 こちらを見ている。


 まるで。


 記憶の中から。


 現在のリリアーナを。


 認識しているように。


『――やっと』


『見つけた』


「……!」


 リリアーナが。


 思わず一歩下がる。


『私』


『ずっと待ってた』


「……誰を?」


 少女が。


 笑う。


『あなたを』


「……!」


『今の私』


『あなたは』


『私だから』


◇


 その瞬間。


 十個目の光が。


 リリアーナの胸へ。


 吸い込まれた。


「――っ!」


 魔王が。


「リリアーナ!」


 彼女の身体が。


 一瞬。


 宙へ浮く。


 九つの光が。


 同時に輝く。


 そして。


 リリアーナの背後に。


 一つの巨大な紋章が現れた。


 円。


 その中に。


 十本の線。


 中央には。


 小さな星。


 大神官が。


 震える声で言う。


「……完成した」


「何が?」


 アレンが聞く。


「世界の」


「最初の紋章です」


◇


 巨大な目が。


 その紋章を見て。


 初めて。


 明確に怯えた。


『――やめろ』


 ソラが。


 驚く。


「……あいつが」


「怯えてる?」


『それ以上』


『その力を』


『目覚めさせるな』


 リリアーナが。


 ゆっくり目を開ける。


「どうして?」


『お前が』


『本当に思い出せば』


『この世界だけではない』


『すべての世界を』


『終わらせることができる』


「……!」


 魔王が。


 すぐにリリアーナの前へ出る。


「させない」


『――魔王』


「彼女に」


「そんな力を使わせない」


『愚かな』


「何とでも言え」


 魔王は。


 リリアーナを守るように立つ。


「彼女が何者であろうと」


「私は」


「彼女を守る」


 リリアーナが。


 その背中を見る。


「……魔王様」


 すると。


 幼い頃の記憶が。


 再び浮かんだ。


『僕が守るから』


 あの日と。


 同じ言葉。


 同じ声。


 同じ人。


 リリアーナの胸が。


 温かくなる。


「……」


 そして。


 彼女は。


 ふと気づいた。


「魔王様」


「何だ?」


「私」


「思い出しました」


「……!」


 魔王が。


 振り返る。


「何を?」


 リリアーナは。


 涙を浮かべながら。


 笑った。


「私が」


「世界を作った理由」


 そして。


 ゆっくり。


 言葉にする。


「――寂しかったからじゃありません」


「……?」


「誰かを」


「失いたくなかったからです」


◇


 十個目の光が。


 完全に。


 リリアーナの中へ消える。


 その瞬間。


 遠くの空間で。


 無数の世界が。


 一斉に光り始めた。


 第一世界。


 第二世界。


 第三世界。


 第四世界。


 第五世界。


 そして。


 数え切れない世界。


 すべてが。


 同時に。


 リリアーナを認識した。


『――創造者を確認』


『――管理者を確認』


『――共存因子を確認』


『――原初の記憶を確認』


 無数の声が。


 重なる。


 そして最後に。


 一つの文字が。


 空に現れた。


『最初の世界の創造者――リリアーナ』


「……」


 リリアーナは。


 呆然と見上げる。


「私が……」


 すると。


 その文字の下に。


 もう一行。


 ゆっくりと。


 現れた。


『ただし』


『創造者には』


『一つだけ』


『決められなかったことがある』


 リリアーナが。


 息を呑む。


『――「最初の世界を、誰と作ったのか」』


 その瞬間。


 魔王が。


 目を見開いた。


 レオンも。


 ミラも。


 ユリウスも。


 セラも。


 アレンも。


 大神官も。


 ソラも。


 全員が。


 同じ方向を見る。


 そこには。


 今まで誰も気づかなかった。


 もう一人の子供が。


 立っていた。


 そして。


 その子供が。


 リリアーナへ向かって。


 笑った。


「――やっと会えたね」


「お姉ちゃん」


 セラが。


 震える声を上げる。


「……あの子」


「誰……?」


 少年は。


 静かに答えた。


「僕は」


「君たちが最初に」


「世界を作る前から」


「ここにいた」


 そして。


 巨大な目が。


 低く呟いた。


『――あれだけは』


『思い出してはいけない』


 少年が。


 笑う。


「どうして?」


 そして。


 その瞳が。


 リリアーナと。


 同じ色に輝いた。

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