第48話 九つ目の光
――九つ目の光。
それは。
今までのどの光とも違っていた。
白でもない。
黒でもない。
赤でも。
金でも。
灰でも。
青でも。
銀でもない。
ましてや。
ソラの持つ、世界の外側の色でもなかった。
それは。
七色すべてを。
ほんの少しずつ含んだような。
不思議な光だった。
「……これ」
リリアーナは。
自分の胸元を見る。
「何なんでしょう……?」
ソラが。
小さく笑った。
「僕も知らない」
「え?」
「初めて見た」
その言葉に。
魔王が眉を寄せる。
「お前でも知らないのか」
「うん」
ソラは。
九つ目の光を見つめる。
「だって」
「これは」
「今まで存在しなかったものだから」
◇
『――異常を確認』
巨大な目が。
大きく揺れた。
『九番目の因子』
『存在を認めない』
黒い亀裂が。
一気に広がる。
「……!」
魔王が。
リリアーナの手を強く握る。
「何をするつもりだ」
『削除する』
黒い光が。
リリアーナへ向かって飛ぶ。
「させるか!」
魔王が。
魔力を放つ。
黒い光と。
黒い魔力が。
正面からぶつかった。
轟音。
地面が揺れる。
「魔王!」
レオンも。
剣を構える。
「俺も!」
レオンが。
黒い光を斬る。
しかし。
斬ったはずの光が。
二つに分かれた。
「うそだろ!」
「増えた!?」
ミラが。
金色の光を広げる。
「みんな!」
ユリウスも。
灰色の光を繋ぐ。
「一人では無理だ!」
セラが。
「止める!」
青い光が。
黒い光の動きを鈍らせる。
アレンが。
「外側から閉じる!」
大神官が。
「記録します!」
「今それ必要!?」
レオンが叫ぶ。
「必要です!」
「真面目か!」
「記録者なので!」
「そうだった!」
◇
そんな中。
リリアーナは。
自分の胸元の光を見ていた。
「……全員」
ソラが言った。
「それが九つ目の意味」
「でも」
「私は何もしてません」
「だからこそだよ」
「?」
ソラが。
笑う。
「君は」
「誰も選ばなかった」
「……」
「魔王も」
「勇者も」
「世界も」
「自分自身も」
「全部」
「選ばなかった」
リリアーナは。
少し考える。
「……私は」
「ただ」
みんなを。
見ただけ。
「誰か一人を選ぶなんて」
「できなかったので」
「それが」
ソラは。
嬉しそうに言う。
「新しい力になった」
◇
魔王が。
「リリアーナ!」
叫ぶ。
「こちらへ!」
リリアーナが。
「はい!」
走ろうとする。
しかし。
黒い亀裂が。
魔王とリリアーナの間に割り込んだ。
「――っ!」
魔王が。
手を伸ばす。
「リリアーナ!」
「魔王様!」
あと少し。
あと少しで。
届かない。
その時。
「俺が行く!」
レオンが。
二人の間へ飛び込む。
「レオン!」
「任せろ!」
レオンが。
リリアーナを抱えて。
一気に後ろへ飛ぶ。
「大丈夫か!」
「はい!」
「よかった!」
魔王が。
少しだけ目を細める。
「……助かった」
「お、おう」
「だが」
「何だ?」
「君が抱える必要はない」
「え?」
「私が――」
「魔王様」
リリアーナが。
止める。
「今は喧嘩してる場合じゃありません」
「……」
「……」
二人が。
黙る。
「分かった」
「はい」
「……あとで話す」
「何を!?」
レオンが。
嫌そうな顔をする。
◇
その瞬間。
九つ目の光が。
一気に輝いた。
「――!」
森全体が。
光に包まれる。
黒い亀裂が。
一瞬だけ。
止まった。
『……何をした』
巨大な目が。
初めて。
明確に動揺する。
リリアーナ自身も。
驚いている。
「私……」
「何もしてません」
ソラが。
静かに言った。
「したよ」
「え?」
「みんなを」
「選んだ」
「……」
「それが」
「今までなかった選択なんだ」
◇
すると。
空間に。
新しい文字が浮かんだ。
『第九因子』
『名称――』
文字が。
何度も点滅する。
やがて。
ゆっくりと。
『共存』
と。
表示された。
「……共存」
リリアーナが。
読み上げる。
「はい」
ソラが頷く。
「誰かを犠牲にしない」
「誰か一人に決めない」
「全部を残す」
「それが」
「九つ目」
◇
大神官が。
呆然と文字を見る。
「……そんなもの」
「記録には」
「一度も」
「ありません」
ソラが。
「だって」
笑う。
「誰も選ばなかった世界なんて」
「今まで一度もなかったから」
大神官の目に。
涙が浮かんだ。
「……私たちは」
「何百回」
「何千回」
「同じことを……」
「うん」
ソラは。
優しく答える。
「だから」
「今回だけは」
「違う結果にできる」
◇
巨大な目が。
大きく開いた。
『――認めない』
黒い光が。
再び膨れ上がる。
『世界は』
『選択によって成立する』
『一人を選べ』
『二つを選べ』
『世界を選べ』
『外を選べ』
『必ず』
『何かを捨てろ』
リリアーナは。
静かに首を横に振る。
「嫌です」
『……』
「私は」
「何も捨てません」
『不可能だ』
「それでも」
リリアーナは。
みんなを見る。
魔王。
レオン。
ミラ。
ユリウス。
セラ。
アレン。
大神官。
ソラ。
「みんなと一緒に」
「帰ります」
『どこへ?』
「魔王城です」
「……」
全員が。
固まった。
「え?」
レオンが。
「魔王城?」
「はい」
リリアーナが。
普通に頷く。
「みんなで帰りましょう」
「……」
魔王の顔が。
少しだけ緩む。
「……そうだな」
レオンも。
「うん!」
ミラ。
「行ってみたい!」
セラ。
「お姉ちゃんのお家?」
「はい」
ユリウス。
「楽しそう」
アレン。
「僕も行く」
大神官。
「……僕も?」
リリアーナ。
「もちろんです」
ソラ。
「僕も?」
「はい」
ソラが。
少し驚いたあと。
「……そっか」
嬉しそうに笑った。
「じゃあ」
「行こう」
◇
九つ目の光が。
八つの光と重なる。
白。
黒。
赤。
金。
灰。
青。
銀。
外側の色。
そして。
共存の光。
九つの光が。
一つになる。
巨大な目が。
初めて。
苦しそうな声を上げた。
『――やめろ』
「……!」
『その光を』
『完成させるな』
アレンが。
目を見開く。
「……そういうことか」
リリアーナが。
「何が?」
アレンは。
震える声で答えた。
「この存在が」
「世界を食べる理由」
「……?」
「世界を食べないと」
「こいつ自身が」
「存在できないんだ」
「……!」
ソラも。
頷いた。
「だから」
「世界を終わらせようとする」
「違う」
アレンが。
巨大な目を見る。
「世界を」
「食べ続けないと」
「自分が消えるからだ」
◇
巨大な目が。
静かに。
笑った。
『――よく分かったね』
アレンが。
「やっぱり……」
『私は』
『世界を食べることで』
『存在を維持する』
『だが』
『お前たちが』
『世界を一つに繋げれば』
『私の居場所がなくなる』
ソラが。
静かに聞く。
「だから」
「九つ目を消そうとした」
『そうだ』
「……」
リリアーナは。
巨大な目を見る。
「じゃあ」
「あなたも」
「消えたくないんですね」
巨大な目が。
止まった。
『……』
「……」
『――何を言っている』
「あなたも」
「生きたいんですよね?」
巨大な目が。
初めて。
言葉を失った。
◇
誰も。
何も言わない。
リリアーナは。
ただ。
巨大な目を見上げる。
「だったら」
「あなたも」
「一緒に来ませんか?」
「…………」
魔王が。
「リリアーナ」
「はい?」
「それは」
「……」
レオンも。
「さすがに」
「……」
ミラたちも。
何とも言えない顔をする。
しかし。
ソラだけは。
笑った。
「……それが」
「君なんだね」
「?」
巨大な目が。
ゆっくり。
閉じる。
『――愚かな』
けれど。
その声は。
今までより。
ほんの少し。
寂しそうだった。
『……だから』
『お前は』
『世界を作る資格を持つ』
そして。
最後に。
一言。
『――リリアーナ』
『お前は』
『本当に』
『何者なのだ?』
九つの光が。
まばゆく輝いた。
そして。
世界の奥から。
十個目の光が。
ゆっくりと。
目を覚ました。




