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聖女を辞めたので、今日から魔王城で働きます  作者: ななほし


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第46話 選ばれたのは私

「――リリアーナ」


 ソラの声が。


 静かな森に響いた。


「……私?」


「うん」


「外に出るのが?」


「そう」


「……」


 リリアーナは。


 自分を指差した。


「私が?」


「うん」


「どうして?」


「決まってるから」


「……誰が?」


「世界が」


「……」


 リリアーナは。


 しばらく黙った。


 そして。


「世界って」


「そんなに勝手に人を選ぶものなんですか?」


「うん」


「嫌ですね」


「……」


 ソラが。


 少し驚いた顔をする。


「嫌なの?」


「はい」


 リリアーナは。


 はっきりと言った。


「私は」


「勝手に決められるのは嫌です」


◇


 魔王が。


 一歩前へ出る。


「同感だ」


 レオンも。


「俺も!」


「……」


 魔王が。


 ちらりとレオンを見る。


「お前と意見が一致するとはな」


「俺だってリリアーナを勝手に連れていかれるのは嫌だ!」


「連れていかれる?」


 リリアーナが。


 きょとんとする。


「私、まだどこにも行ってませんよ?」


「そういうところだぞ!」


 レオンが頭を抱える。


 魔王も。


 深くため息をついた。


「……君は本当に」


「?」


「いや」


 魔王は。


 言葉を飲み込む。


「今はいい」


◇


 アレンが。


 ソラを見る。


「本当にリリアーナじゃないと駄目なの?」


「うん」


「理由は?」


「彼女が」


 ソラは。


 リリアーナを見る。


「世界を作れるから」


「……!」


 全員が。


 息を呑んだ。


「私が?」


「そう」


「でも私は」


「聖女だよ」


 リリアーナが。


 少し困ったように笑う。


「元、ですけど」


「違う」


「え?」


「聖女は役割」


 ソラは。


 静かに言った。


「君の本当の力は」


「もっと別のもの」


「……」


 魔王の表情が。


 険しくなる。


「何だ」


「創る力」


 ソラが答えた。


「世界を」


「最初から作る力」


◇


 リリアーナは。


 自分の手を見る。


「……私が」


「世界を?」


「うん」


「でも」


「そんなこと」


「した覚えがありません」


「覚えてないから」


「……」


 ソラは。


 少し寂しそうに笑った。


「君は何度も忘れてる」


「何度も……?」


「世界が繰り返すたびに」


「君は記憶を失う」


「そして」


「また同じ人たちと出会う」


「……」


 ミラが。


 震える声で聞く。


「じゃあ」


「私たちは」


「何回会ってきたの?」


 ソラは。


 答えなかった。


 代わりに。


 空を指した。


 そこに。


 無数の光が浮かぶ。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 十。


 二十。


 三十。


 そして。


 数え切れないほど。


「……」


 リリアーナは。


 息を呑んだ。


「こんなに……?」


「全部」


「世界」


「全部?」


「うん」


 ソラが頷く。


「君たちが生きて」


「壊れて」


「作り直されて」


「また出会った世界」


「……」


◇


 レオンが。


 剣を下ろした。


「じゃあ」


「俺たちは」


「ずっと同じことを繰り返してたのか?」


「そう」


「……」


「嫌だな」


 レオンが。


 ぽつりと言う。


「俺」


「今のリリアーナが好きなのに」


 リリアーナが。


「え?」


「……」


 レオンが。


 固まる。


「いや」


「今のは忘れて!」


「何をですか?」


「何でもない!」


「?」


 魔王が。


 無言でレオンを見る。


「……」


「……」


 二人の視線がぶつかる。


「お前」


「何だよ」


「今の発言は」


「言うな!」


「私は何も言っていない」


「顔が言ってる!」


「……」


 リリアーナは。


 二人を見て。


「仲良くなりましたね」


「なってない!」


 二人の声が。


 綺麗に重なった。


◇


 セラが。


 小さく笑う。


「お姉ちゃん」


「はい?」


「私たち」


「前もこうだったよ」


「……え?」


「お兄ちゃんたちが」


 セラは。


 魔王とレオンを見る。


「お姉ちゃんを取り合ってた」


「……」


 魔王が。


 固まる。


 レオンも。


 固まる。


「昔から?」


 リリアーナが尋ねる。


「うん」


「……」


 魔王が。


 顔を逸らした。


「記憶が戻っても」


「私は私だ」


「?」


「何でもない」


◇


 大神官が。


 静かに口を開く。


「ソラ」


「なに?」


「一つ」


「確認させてください」


「うん」


「あなたが消されたのは」


「世界を終わらせる力があったからではない」


「……」


「世界を」


「救う方法を知っていたからでは?」


 ソラが。


 笑った。


「正解」


 大神官の顔が。


 苦しそうに歪む。


「……やはり」


「だから」


「私は」


「君を消した」


「はい」


「でも」


 ソラは。


 大神官を見る。


「君は間違えた」


「……」


「僕を消しても」


「問題は消えなかった」


「むしろ」


 ソラは。


 リリアーナを見る。


「もっと大きくなった」


◇


 その瞬間。


 巨大な目が。


 再び開いた。


『――時間だ』


「……!」


 森が。


 激しく揺れる。


 木々が。


 地面から浮き上がる。


 黒い亀裂が。


 空へ伸びる。


「うわっ!」


 レオンが。


 リリアーナの腕を掴む。


「危ない!」


 同時に。


 魔王も。


 リリアーナの肩を抱く。


「こちらへ!」


「えっ」


 左右から。


 引っ張られる。


「レオンさん!」


「魔王様!」


「離せ!」


「そっちこそ!」


「二人とも!」


 リリアーナが。


 必死に叫ぶ。


「私、転びます!」


「……」


「……」


 二人が。


 同時に手を離す。


 リリアーナが。


 よろける。


「わっ」


 魔王が。


 すぐに支える。


「危ない」


「ありがとうございます」


「……」


 レオンが。


 むっとする。


「ずるい」


「何がだ」


「自然に支えるなよ!」


「君も支えればよかっただろう」


「俺は手を離しちゃったんだよ!」


「……」


 ソラが。


 その光景を見て。


 小さく笑った。


「やっぱり」


「昔と同じだ」


◇


 しかし。


 次の瞬間。


 空から。


 黒い光が落ちてきた。


「危ない!」


 アレンが叫ぶ。


 リリアーナが。


 上を見る。


 巨大な黒い塊。


 それが。


 一直線に。


 リリアーナへ向かっていた。


「――っ!」


 魔王が。


 リリアーナを抱き寄せる。


「下がれ!」


 レオンが。


 剣を振る。


「おおおおっ!」


 黒い塊が。


 真っ二つになる。


 しかし。


 中から。


 さらに黒い光が飛び出した。


「くっ!」


 魔王の結界が。


 それを防ぐ。


「まだだ!」


 ユリウスが。


 灰色の光で繋ぐ。


 セラが。


 青い光で止める。


 ミラが。


 金色で押し返す。


 アレンが。


 外側から亀裂を閉じる。


 大神官が。


 記録する。


「……世界の侵食速度」


「三分前より」


「四倍」


「まずい」


 ソラが。


 静かに言った。


「もう始まった」


「何が?」


 リリアーナが聞く。


「世界を食べること」


「……!」


 ソラは。


 巨大な目を見上げる。


「このままだと」


「第一世界が」


「消える」


◇


 リリアーナが。


 ぎゅっと拳を握る。


「……消させません」


「リリアーナ」


「この世界には」


 グランがいる。


 ノアがいる。


 みんながいる。


 そして。


 ここで初めて。


 みんなが出会った。


「私たちが生まれた場所なら」


「守りたいです」


 魔王が。


 隣に立つ。


「ならば」


 レオンも。


「一緒にやろう」


 ミラ。


「私も」


 ユリウス。


「僕も」


 セラ。


「私も!」


 アレン。


「僕もいる」


 大神官。


「……僕も」


 ソラが。


 微笑む。


「八人」


 八つの光が。


 再び輝いた。


 そして。


 森の中央に。


 一つの巨大な扉が現れる。


 その扉には。


 八つの紋章。


 そして。


 中央に。


 最後の文字。


『――世界を作った者よ』


『選べ』


『世界を守るか』


『世界を終わらせるか』


 リリアーナは。


 扉の前に立つ。


「……私」


 手を伸ばす。


「決めます」


 しかし。


 扉に触れた瞬間。


 別の声が。


 頭の中に響いた。


『――違う』


「……え?」


『君が選ぶのではない』


『君は』


『もう一度――』


『世界を作る』


 リリアーナの目の前が。


 真っ白になった。


 そして。


 そこに映ったのは。


 今まで見たことのない記憶。


 幼いリリアーナが。


 誰かに向かって。


 泣きながら叫んでいる。


『――お願い!』


『この世界を――』


『私に、壊させて!』


「…………!」


 リリアーナは。


 絶句した。


 そして。


 その幼い自分の隣に立っていた人物を見て。


 さらに。


 言葉を失った。


 そこにいたのは――。


 今よりずっと幼い。


 魔王だった。

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