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聖女を辞めたので、今日から魔王城で働きます  作者: ななほし


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第45話 八つ目の光

 ――ぽつり。


 森の奥に。


 見たことのない色の光が浮かんだ。


 白ではない。


 黒でもない。


 赤でも。


 金でも。


 灰でも。


 青でもない。


 ましてや、大神官の持つ淡い銀色でもなかった。


 それは。


 言葉では表現できない色だった。


「……何色?」


 レオンが首を傾げる。


「分からない」


 ミラも目を細める。


「見たことがない……」


 ユリウスが。


 じっと光を見つめる。


「僕の力でもない」


 セラも。


「私の青じゃない」


 アレンは。


 少し青ざめていた。


「……知ってる」


「え?」


 リリアーナが振り向く。


 アレンは。


 光から目を逸らさない。


「この色を」


「知ってるの?」


「うん」


 そして。


 小さく呟いた。


「――世界の外側の色だ」


◇


 大神官が。


 震えていた。


「……違う」


 誰に言うでもなく。


「これは……」


 魔王が。


 鋭く見る。


「大神官」


「……」


「知っているな?」


「……はい」


 大神官は。


 ゆっくりと頷いた。


「知っています」


「なら説明しろ」


「……」


 大神官は。


 目を閉じる。


「八つ目の力」


「それは――」


 光が。


 大神官の胸元へ。


 ゆっくり近づいてくる。


「僕のものではありません」


「じゃあ誰の?」


 リリアーナが尋ねる。


「……」


 大神官は。


 苦しそうに笑った。


「僕が」


「最初に消したものです」


「――え?」


◇


 空気が。


 凍った。


「消した?」


 レオンが聞き返す。


「何を?」


「人です」


 大神官は答える。


「一人の子供を」


「……!」


 魔王の表情が変わる。


「お前が?」


「はい」


「なぜだ」


「必要だったから」


「その答えは聞き飽きた」


 魔王の声が低くなる。


「犠牲が必要だった」


「記録が必要だった」


「世界を守るためだった」


「――もう十分だ」


 大神官は。


 何も言い返さなかった。


 ただ。


 光を見る。


「……あの子は」


「この世界で」


「一番最初に」


「『世界なんて、なくなればいい』と言った子でした」


「え……」


 リリアーナが。


 息を呑む。


「そんな……」


「だから消したんです」


「その子が危険だったから?」


「違います」


 大神官は。


 首を横に振った。


「その子は」


「世界の仕組みに気づいていた」


「……!」


◇


 アレンが。


 突然叫んだ。


「待って」


 大神官を見る。


「その子って」


「……」


「もしかして」


 アレンの顔が。


 青ざめる。


「僕の知っている子?」


「いいえ」


「じゃあ――」


 アレンが。


 光を見る。


「誰?」


 大神官は。


 答えなかった。


 その代わり。


 森の奥から。


 声がした。


「――僕だよ」


「……!」


 全員が振り返る。


 そこには。


 一人の少年が立っていた。


 黒でも。


 白でもない。


 透明に近い服。


 髪も。


 瞳も。


 輪郭さえ。


 どこか曖昧だった。


 まるで。


 世界そのものが。


 人の形を真似しているようだった。


「こんにちは」


 少年は。


 笑った。


「初めまして」


「……」


 リリアーナは。


 少年を見つめる。


 なぜか。


 胸が痛かった。


「……どこかで」


 会ったことがある。


 そんな気がする。


 少年は。


 リリアーナを見ると。


 嬉しそうに笑った。


「やっぱり」


「覚えてないんだね」


「……ごめんなさい」


「ううん」


 少年は首を振る。


「君が悪いんじゃない」


 そして。


 大神官を見る。


「この人が消したんだから」


「……」


 大神官は。


 俯いた。


「そうです」


◇


「名前は?」


 リリアーナが尋ねた。


 少年は。


 少し考える。


「名前?」


「はい」


「……ないよ」


「え?」


「消されたから」


「じゃあ」


 リリアーナは。


 少し考えてから。


「名前をつけてもいいですか?」


「……」


 少年が。


 目を見開く。


「僕に?」


「はい」


「どうして?」


「名前がないと」


 リリアーナは笑う。


「呼びにくいので」


「……」


 少年は。


 初めて。


 泣きそうな顔をした。


「変な理由」


「すみません」


「謝らなくていいよ」


 少年は笑った。


「……じゃあ」


「はい」


「君がつけて」


 リリアーナは。


 少し考える。


「……ソラ」


「ソラ?」


「世界の外にも」


「空があるかもしれないので」


「……」


 少年――ソラは。


 胸元を押さえた。


「いい名前」


「よかった」


「うん」


 そして。


 ソラの身体が。


 少しだけ輝いた。


◇


 巨大な目が。


 その光を見た。


『――異物』


 ソラが。


 振り返る。


「久しぶり」


『お前は』


「僕?」


『なぜ存在している』


「存在してるからじゃない?」


『答えになっていない』


「そう?」


 ソラは。


 笑った。


「じゃあ質問を変えるね」


 巨大な目を見上げる。


「どうして君は」


「僕を怖がってるの?」


 ――沈黙。


 全員が。


 息を止めた。


「……怖がってる?」


 レオンが呟く。


 アレンも。


「そんなはず……」


 しかし。


 巨大な目は。


 初めて。


 明確に揺れた。


『――違う』


 ソラは。


 笑う。


「嘘」


『違う』


「嘘だよ」


『私は世界を食べる』


「うん」


『お前も食べる』


「できるならね」


 その言葉に。


 巨大な目が。


 一瞬だけ。


 歪んだ。


◇


 魔王が。


 リリアーナの前に立つ。


「ソラ」


「なに?」


「お前は敵か?」


「うーん」


 ソラは。


 首を傾げた。


「分からない」


「……」


「僕は」


 自分の手を見る。


「この世界の外で生まれた」


「でも」


 リリアーナを見る。


「この世界に来た」


「どうして?」


「君に会うため」


「私に?」


「うん」


 ソラは。


 嬉しそうに頷く。


「君が世界を選ばなかったから」


「……」


「ずっと」


「見てたんだ」


 リリアーナの背筋に。


 冷たいものが走る。


「ずっと?」


「うん」


「私が聖女になる前から?」


「もっと前」


「子供の頃から?」


「そう」


 リリアーナは。


 目を見開いた。


「じゃあ」


「私たちのことを知ってる?」


「知ってるよ」


「魔王様も?」


「うん」


「レオンさんも?」


「もちろん」


「ミラちゃんも?」


「うん」


「ユリウスも?」


「うん」


「セラも?」


「うん」


「アレンも?」


「うん」


 最後に。


「大神官さんも?」


 ソラは。


 大神官を見る。


「……知ってる」


「何を?」


「この人が」


「僕を消したこと」


 大神官は。


 目を閉じた。


「……はい」


◇


 リリアーナは。


 大神官の前へ歩いた。


「大神官さん」


「……はい」


「どうして」


「ソラを消したんですか?」


 大神官は。


 しばらく答えなかった。


 やがて。


「……怖かったからです」


「怖かった?」


「はい」


「何が?」


 大神官は。


 ソラを見る。


「この子が」


「世界を壊すことができたから」


 アレンが。


 息を呑む。


「世界を……?」


「正確には」


 ソラが。


 静かに言った。


「世界を終わらせることができた」


「……!」


 ソラは。


 淡々と続ける。


「僕は」


「世界を食べるものを」


「消すことができる」


 巨大な目が。


 大きく開いた。


「だから」


 ソラは。


 笑った。


「僕は最初に消されたんだ」


◇


 リリアーナは。


 理解した。


 少しずつ。


 けれど。


 とても重要なことを。


「……だから」


「この世界には」


「八つ目の光がなかったんですね」


「そう」


 ソラが頷く。


「僕が消されたから」


 すると。


 七つの光が。


 一斉に輝いた。


 白。


 黒。


 赤。


 金。


 灰。


 青。


 銀。


 そして。


 ソラの。


 名前のない色。


 八つの光が。


 森の中央で重なる。


 すると――


 空間に。


 一つの文字が浮かび上がった。


『――八人目を含めよ』


 そして。


 その下に。


 新たな文字が現れる。


『世界を維持するために』


『八つの力を必要とする』


「……」


 レオンが。


 ぽつり。


「条件、増えてない?」


「増えてますね……」


 リリアーナも。


 困ったように笑う。


 魔王が。


 巨大な目を見る。


「お前」


『……』


「最初から」


「八人必要だと知っていたな?」


 巨大な目は。


 答えない。


 代わりに。


 ソラが。


 静かに笑った。


「うん」


「この世界を守るには」


「八人必要なんだ」


 そして。


 ソラは。


 リリアーナを見る。


「でもね」


「一つだけ問題がある」


「何ですか?」


「八人全員が」


 ソラの瞳が。


 わずかに赤くなる。


「ここに残る必要はない」


「……え?」


「八人のうち」


「一人だけ」


「世界の外に出なきゃいけない」


 リリアーナが。


 固まる。


「一人……?」


「うん」


 ソラは。


 優しく笑った。


「そして」


「その一人に選ばれるのは――」


 巨大な目が。


 リリアーナを見る。


 魔王が。


 すぐに一歩前へ出た。


「――私が行く」


 レオンも。


「俺も行く!」


 アレンも。


「僕が行く」


 しかし。


 ソラは。


 首を横に振った。


「違うよ」


「外に出るのは」


「最初から決まってる」


 そして。


 ソラの指が。


 ゆっくり。


 一人を指した。


「――リリアーナ」


「……え?」


 世界が。


 静かに。


 揺れた。

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