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聖女を辞めたので、今日から魔王城で働きます  作者: ななほし


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第43話 最初の世界のリリアーナ

 北の森。


 見慣れているはずなのに。


 どこか違う。


 木々の形。


 空の色。


 風の匂い。


 そして――


 森の中に建つ。


 一軒の小さな家。


「…………」


 リリアーナは。


 その家を見つめていた。


「ここ……」


 隣の魔王が。


「知っているのか?」


「分かりません」


 リリアーナは首を振る。


「でも」


 胸に手を当てる。


「懐かしい気がします」


「……」


 レオンが。


「俺も」


 辺りを見回す。


「なんか……知ってる気がする」


 ミラも。


「私も」


 ユリウス。


「僕もだ」


 セラ。


「私も」


 アレン。


「……僕も」


 大神官だけが。


 黙っていた。


 その表情は。


 明らかに。


 怯えていた。


「……大神官?」


 リリアーナが振り返る。


「どうしました?」


「……ここは」


 大神官は。


 震える声で言った。


「僕たちが」


「最初に出会った場所だ」


「……!」


◇


 家の前に立つ。


 もう一人のリリアーナ。


 大人の姿。


 白い髪。


 白い服。


 そして。


 優しい笑顔。


「おかえり」


 彼女は。


 もう一度言った。


「――私たちの、最初の世界へ」


 リリアーナが。


 一歩前へ出る。


「あなたは……」


「私は」


 少女は。


 少し考えて。


「この世界で生きていた、あなた」


「……」


「あなたが管理者になることを拒んだ世界とは違う」


「……」


「あなたが」


 胸に手を当てる。


「管理者になった世界」


 魔王が。


 険しい顔をする。


「つまり」


「うん」


 彼女は頷く。


「私は」


 リリアーナを見る。


「あなたが選ばなかった未来」


「……」


 リリアーナは。


 彼女の顔を見つめる。


 不思議だった。


 怖くない。


 むしろ。


 悲しい。


「……寂しかったんですか?」


「え?」


「ずっと一人だったんでしょう?」


「……」


 管理者のリリアーナは。


 少し驚いた顔をした。


 そして。


 笑う。


「そうだね」


「……」


「ずっと」


 その笑顔は。


 とても寂しかった。


◇


 レオンが。


「じゃあ」


 手を挙げる。


「ここには俺たちは?」


「いるよ」


「え?」


「あなたたちも」


 管理者のリリアーナは。


 森の奥を見る。


「ただし」


「……?」


「今のあなたたちとは違う」


 魔王が。


「どういう意味だ」


「この世界では」


 彼女は答える。


「あなたは、本当の魔王になった」


「……」


「レオンは」


「本当の勇者になった」


「……」


「ミラは」


「世界を繋ぐ力を使いすぎた」


「ユリウス

は」


「世界の外側へ消えた」


「セラは」


「永遠に眠った」


「アレンは」


「帰ってこなかった」


「…………」


 空気が。


 重くなる。


 そして。


 最後に。


「私は」


 管理者のリリアーナが。


 自分自身を指す。


「みんなを守るために」


「管理者になった」


 リリアーナは。


 小さく呟く。


「……一人で?」


「うん」


◇


 その時。


 魔王が。


「ならば」


 静かに言った。


「私は」


「?」


「この世界でも」


 管理者のリリアーナを見る。


「君を守れなかったのか」


「……」


 管理者のリリアーナは。


 少しだけ悲しそうに笑った。


「違うよ」


「……?」


「あなたは」


 魔王を見る。


「最後まで私を止めようとしてくれた」


「……」


「でも」


 彼女は。


 首を振る。


「私は止まらなかった」


「なぜだ」


「世界を守らなきゃって」


「……」


「あなたたちを守らなきゃって」


 その言葉に。


 魔王が。


 黙る。


「でも」


 管理者のリリアーナは。


 リリアーナを見る。


「あなたは違った」


「……私?」


「あなたは」


 一歩近づく。


「世界より」


 さらに一歩。


「みんなを選んだ」


「……」


「だから」


 彼女は。


 リリアーナの手を取った。


「あなたが羨ましい」


◇


 リリアーナは。


 その手を握り返す。


「……じゃあ」


「?」


「一緒に来ませんか?」


「……え?」


「私たちと」


「……」


「この世界のあなたも」


「…………」


「一緒に帰りましょう」


 管理者のリリアーナは。


 困ったように笑った。


「帰る場所なんて」


「ありますよ」


「……どこ?」


「魔王城です」


「……」


「ご飯もあります」


 レオンが。


「あるぞ!」


「お前が言うと説得力があるな」


「だろ?」


「そこは威張るところではない」


 魔王がため息をつく。


 管理者のリリアーナが。


 思わず笑った。


「……魔王城」


「はい」


「みんなと?」


「はい」


「……」


 彼女は。


 泣きそうな顔で笑った。


「行ってみたい」


◇


 その瞬間。


 森の奥から。


 グランの遠吠えが響いた。


「……!」


 リリアーナが振り返る。


「グラン?」


 巨大な狼が。


 木々の間から現れる。


 だが。


 その姿は。


 今知っているグランよりも。


 少し若い。


「グラン!」


 リリアーナが駆け寄る。


 グランは。


 彼女の匂いを嗅いで。


 そして。


 管理者のリリアーナを見る。


「……」


 二人のリリアーナを。


 交互に見る。


「……困ってますね」


 リリアーナが言う。


 グランは。


 明らかに困っていた。


 レオンが。


「グランにも分からないのか」


 魔王が。


「当然だ」


「何で?」


「リリアーナが二人いるからだ」


「それはそうだな!」


 グランが。


 大きなため息をつく。


「……」


 そして。


 管理者のリリアーナの前へ。


 ゆっくり歩く。


 鼻先を。


 彼女の手に押しつける。


「……グラン」


 管理者のリリアーナが。


 泣きそうになる。


「覚えてたの?」


 グランは。


 尻尾を振った。


◇


 その光景を。


 大神官が。


 遠くから見ていた。


 リリアーナが。


「大神官」


「……」


「あなたも」


 彼を見る。


「ここに来たことがあるんですよね?」


「……ある」


「なら」


「……」


「教えてください」


 大神官が。


 ゆっくり顔を上げる。


「何を?」


「私たちの最初の約束」


「……」


 大神官は。


 目を閉じた。


「……君たちは」


 少しずつ。


 記憶を語り始める。


「この森で」


「初めて会った」


「そして」


「母親に連れられて」


「この家へ来た」


 リリアーナが。


「この家で?」


「そう」


「何をしてたんですか?」


「遊んでいた」


「……」


「普通の子供として」


 レオンが。


「俺、何してた?」


「君は」


 大神官が。


 少し笑う。


「ずっと食べていた」


「……」


「本当に?」


「本当だ」


「俺、昔からなのか……」


 ミラが笑う。


「変わってないね」


 レオンが。


「そんな!」


◇


 大神官は。


 続ける。


「そして」


「ある日」


「世界の外側から」


「管理者が来た」


 笑い声が。


 止まる。


「管理者は」


 大神官が。


 ゆっくり言う。


「リリアーナを選んだ」


「……」


「世界を管理する者として」


「私は」


 リリアーナが呟く。


「その時、何て答えたんですか?」


 大神官は。


 彼女を見る。


「君は」


「こう言った」


 そして。


 その言葉を。


 そのまま口にした。


「――『世界を守るなら、みんなを守れる方法を探します』」


「……」


「でも管理者は」


「そんな方法は存在しない、と言った」


「……」


「だから君は」


 大神官が。


 目を伏せる。


「初めて」


「管理者になることを拒否した」


 リリアーナが。


 管理者の自分を見る。


「……それで」


 管理者のリリアーナが。


 答えた。


「私が」


「代わりになった」


◇


 その瞬間。


 空が。


 黒く染まった。


「……!」


 魔王が。


 剣を抜く。


「来るぞ」


 管理者のリリアーナが。


 震える。


「違う」


「……?」


「これは」


 彼女が空を見る。


「管理者じゃない」


「じゃあ何だ?」


「この世界を」


 彼女は。


 ゆっくり答える。


「最初に作った存在」


 空に。


 巨大な亀裂が走る。


 その向こうから。


 巨大な目が現れる。


 ――あの目。


 先ほど世界の外側から覗いていたもの。


『見つけた』


 声が響く。


『第一世界の管理者』


 管理者のリリアーナが。


 一歩下がる。


『そして』


 巨大な目が。


 現在のリリアーナを見る。


『管理者になることを拒否した者』


 リリアーナが。


 前へ出る。


「……あなたは」


 巨大な目を睨む。


「誰なんですか?」


 しばらく。


 沈黙。


 そして。


 初めて。


 その存在が名乗った。


『私は――』


『この世界を作った者』


 空が。


 震える。


『――創造主だ』


 レオンが。


「……創造主?」


 魔王が。


「ついに来たか」


 アレンが。


 青ざめる。


「……違う」


「え?」


「創造主じゃない」


 アレンは。


 巨大な目を見つめる。


「僕は知ってる」


「こいつは――」


 そして。


 震える声で。


「世界を作った側の人間じゃない」


「……?」


「世界を」


「食べる側だ」


 巨大な目が。


 ゆっくり笑った。


『――よく覚えていたね』


 その瞬間。


 森全体が。


 震え始めた。

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