↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女を辞めたので、今日から魔王城で働きます  作者: ななほし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/43

第41話 壊れた世界の向こう側

 ――パキン。


 何かが。


 割れる音がした。


 白い空間に。


 細い亀裂が走る。


「……?」


 リリアーナは。


 その亀裂を見つめた。


「何が壊れたんでしょう?」


「世界の構造だ」


 アレンが答える。


「今まで世界を固定していたものが、一つ外れた」


「固定していたもの……?」


「うん」


 アレンは。


 少しだけ苦い顔をする。


「犠牲だ」


「……」


「誰か一人を犠牲にすることで」


「世界を安定させていた」


 リリアーナは。


 亀裂に手を伸ばす。


「じゃあ」


 指先が。


 亀裂に触れる。


「これまで世界が壊れなかったのは……」


「誰かが」


 アレンが。


 静かに答える。


「ずっと犠牲になっていたから」


「…………」


 リリアーナは。


 言葉を失った。


◇


 その時。


 少女が。


「……私だよ」


「え?」


 少女が笑った。


「今までの世界では」


 自分の胸に手を当てる。


「最後に私が消えていた」


「……!」


 ミラが。


「お母さん……?」


 母親が。


 苦しそうに目を閉じる。


「そう」


「私が」


 少女は続ける。


「管理者になって」


「世界を維持して」


「最後に全部をリセットする」


「その時に」


 少女は。


 小さく笑う。


「私だけが残る」


「……」


「でも」


 リリアーナを見る。


「あなたが今回、管理者になることを拒んだ」


「だから」


「世界が」


 少女は。


 亀裂を見る。


「初めて、私を必要としなくなった」


「……!」


◇


 レオンが。


「じゃあ!」


 勢いよく手を挙げた。


「これっていいことなんじゃないか?」


「……」


 全員が。


 レオンを見る。


「だって」


 レオンは笑う。


「誰も犠牲にならなくていい世界ができるんだろ?」


「そう簡単じゃない」


 ユリウスが答える。


「世界の仕組みそのものが壊れかけている」


「え?」


「今まで犠牲で支えていた部分が」


 ユリウスは。


 亀裂を見る。


「空白になっている」


「空白……」


「だから」


 ユリウスが。


 リリアーナを見る。


「新しい仕組みを作らないといけない」


「……私たちで?」


「そう」


 セラが。


 小さく手を上げる。


「私、できるよ」


「何を?」


「止める」


「……?」


 セラは。


 にこっと笑う。


「世界が壊れるのを」


「!」


 青い光が。


 セラの身体から広がる。


 亀裂の動きが。


 ピタリと止まった。


「……!」


 魔王が。


「循環を止めたのか」


「うん」


 セラは嬉しそうに頷く。


「でも」


 少し困った顔をする。


「ずっとは無理」


「どれくらい?」


「えーっと……」


 セラが考える。


「……一時間?」


「短い!」


 レオンが叫ぶ。


「しかも」


 セラは続ける。


「一時間ごとに休憩が必要」


「もっと短い!」


 リリアーナが。


「ふふっ」


 思わず笑う。


「でも」


 セラは胸を張る。


「一時間あれば十分でしょ?」


 アレンが。


「……たしかに」


◇


 ユリウスが。


 亀裂の前に立った。


「じゃあ僕が繋ぐ」


 灰色の光が。


 亀裂へ伸びる。


「過去と現在」


「世界の内側と外側」


「全部を」


 光が。


 亀裂の両側を繋ぐ。


「……!」


 だが。


 すぐに。


 ユリウスの身体が揺れた。


「ユリウスさん!」


「大丈夫」


「顔色が悪いです!」


「ちょっと」


 ユリウスは。


 苦笑する。


「世界を繋ぐのって、結構疲れるんだね」


「休んでください!」


「でも――」


「駄目です!」


「……はい」


 リリアーナに怒られ。


 ユリウスは素直に座った。


 レオンが。


「ユリウス、お前リリアーナに弱いな」


「……君もでしょ」


「俺は強いぞ!」


「何が?」


「……」


「答えられないんだね」


「うるさい!」


 魔王が。


 小さく笑った。


「……平和だな」


「今、世界壊れかけてますよ?」


「そうだったな」


◇


 母親が。


 そんな彼らを見て。


 涙を拭った。


「……そう」


「お母さん?」


「これだったのね」


「何がですか?」


「あなたたちが」


 母親は。


 七人を見る。


「昔、私が願ったもの」


 ミラが。


「……?」


「普通に笑って」


「喧嘩して」


「お腹が空いたら食べて」


 レオンが。


「それなら俺、得意!」


「ふふ」


 母親が笑う。


「好きな人と一緒にいて」


 魔王が。


 ちらりとリリアーナを見る。


「……」


 レオンも。


 ちらりとリリアーナを見る。


「……」


 リリアーナだけ。


「?」


 何も気づいていない。


 母親は。


 少しだけ苦笑した。


「そして」


「誰か一人を犠牲にしない」


「……」


「それが」


 母親は。


 静かに言った。


「私が望んだ世界だった」


◇


 突然。


 ゴゴゴゴゴ――!


 白い空間が揺れる。


「……!」


 巨大な亀裂が。


 頭上に走った。


『警告』


 管理者の声。


『世界構造の崩壊率――四十二パーセント』


「四十二!?」


 レオンが叫ぶ。


「まだ半分もいってないぞ!」


「安心するところじゃありません!」


 リリアーナが突っ込む。


『新たな世界構造を構築する必要があります』


「……」


 アレンが。


 リリアーナを見る。


「来た」


「何が?」


「選択だ」


 リリアーナの前に。


 三つの光が現れる。


 白。


 黒。


 そして。


 透明。


『新世界の基礎を選べ』


『第一――管理者による統治』


『第二――力ある者による統治』


『第三――全員による選択』


 レオンが。


「三番!」


 即答する。


「待ってください!」


「何で?」


「まだ説明を聞いてません!」


「でも三番がいい!」


「私も三番がいいですけど!」


「じゃあいいじゃん!」


「そういう問題じゃありません!」


 魔王が。


「……私も三番だ」


「魔王様まで!」


「ならば私も」


 ミラ。


「私も!」


 ユリウス。


「三番」


 セラ。


「三番!」


 アレン。


「……僕も」


 全員。


 第三を選ぶ。


 しかし。


 透明な光だけが。


 反応しなかった。


「……?」


 リリアーナが。


 光へ近づく。


『条件を満たしていません』


「条件?」


『全員による選択には』


『全員が必要です』


「……」


 リリアーナは。


 周囲を見る。


「全員……?」


 すると。


 少女が。


 静かに口を開いた。


「一人、足りない」


「……!」


 ミラが。


「誰?」


 少女は。


 黒い扉の向こうを見る。


「この世界には」


「まだ一人――」


 その瞬間。


 黒い扉の奥から。


 誰かが歩いてきた。


 白い服。


 黒い髪。


 そして。


 見覚えのある顔。


「…………」


 リリアーナが。


 息を呑む。


「……大神官?」


 かつて。


 彼女の記憶を奪った男。


 世界の秘密を知っていた男。


 その大神官が。


 ゆっくり姿を現した。


 しかし。


 その姿は。


 今まで見てきたものとは違っていた。


 老いた身体ではない。


 若い。


 まだ少年と言っていいほどの姿。


 そして。


 その手には。


 小さな白い花が一輪。


「……久しぶりだね」


 大神官は。


 リリアーナを見て。


 微笑んだ。


「――僕も、七人目なんだ」


 リリアーナは。


 目を見開いた。


「……七人目?」


 アレンが。


 初めて驚いた顔をした。


「そんな……」


 大神官は。


 静かに花を差し出す。


「僕は」


「君たちを守るために」


「世界を壊そうとした」


 そして。


 笑顔を消した。


「でも――」


「一度だけ」


「僕も」


「君たちと一緒に」


 白い花を。


 リリアーナへ向ける。


「普通の子供になりたかった」


 その瞬間。


 透明な光が。


 初めて。


 強く輝いた。


『第七の選択者――確認』


 世界が。


 大きく揺れた。


 そして。


 リリアーナたちの前に。


 新しい文字が浮かび上がる。


『七人目を含め、すべての者に選択権を与えよ』


 大神官は。


 静かに目を閉じた。


「……今度こそ」


「僕も」


「選んでいいのかな」


 リリアーナは。


 ゆっくり頷いた。


「もちろんです」


 そして。


 七人目の少年が。


 初めて。


 泣いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。