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聖女を辞めたので、今日から魔王城で働きます  作者: ななほし


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第24話 魔王様と私は昔から知り合いだった?

「……魔王様」


 私はもう一度、尋ねた。


「私たち……昔、本当に会っていたんですか?」


「…………」


 魔王様は答えなかった。


 ただ、じっと私を見ている。


 その赤い瞳には、いつもの冷静さがなかった。


「魔王様?」


「……分からない」


 やがて、魔王様が口を開いた。


「私も……今の映像を見て初めて知った」


「そうなんですか?」


「ああ」


「でも、あの少年は……」


「私だ」


 即答だった。


「…………」


 私は映像を思い出す。


 幼い魔王様。


 そして、その隣にいた幼い私。


『僕が守るから』


 あの言葉。


 なぜか。


 胸の奥が少しだけ温かくなった。


「……変ですね」


「何がだ?」


「昔の魔王様って、今と全然違います」


「…………」


「もっと優しそうでした」


「……失礼だな」


「ふふっ」


 思わず笑ってしまう。


 魔王様も少しだけ口元を緩めた。


「だが」


「はい?」


「君も変わっていない」


「私が?」


「ああ」


「どこがですか?」


「…………」


 魔王様が少し考える。


「困っている者を見ると、放っておけないところ」


「……それは」


「昔から同じだった」


「…………」


 胸がまた、少し熱くなる。


     ◇


「ちょっと待って」


 突然、レオンさんが割り込んできた。


「二人とも」


「はい?」


「昔から知り合いって……どういうこと?」


「私も分かりません」


「じゃあ魔王も分からない?」


「ああ」


「……なんだ」


 レオンさんはホッとしたような顔をした。


「じゃあ問題ないな」


「何がですか?」


「いや、何でもない」


 レオンさんが笑う。


 しかし。


 その隣でクロードさんは腕を組んでいた。


「……これは困りましたね」


「クロード?」


「魔王様」


「なんだ」


「以前から申し上げていましたが」


「…………」


「やはり、何か隠されています」


「私もそう思う」


 魔王様が頷いた。


「この映像だけでは何も分からない」


「では」


 クロードが紙を拾う。


「調べる必要がありますね」


 紙には。


『三つの力が目覚めた時、扉は開く』


 と書かれている。


「三つの力……」


 レオンさんが首を傾げる。


「聖女」


 クロードが指を一本立てた。


「魔王」


 二本目。


「英雄」


 三本目。


「……俺たち?」


「おそらく」


「じゃあ」


 レオンさんが笑った。


「三人で扉を開ければいいんだな!」


「簡単に言わないでください」


 私は思わず突っ込んだ。


「何が起こるか分からないんですよ?」


「でも、三人いるじゃん」


「それはそうですが……」


 すると。


「私もいます」


 エミリアが手を挙げた。


「え?」


「聖女は私です」


「…………」


 確かに。


 現在の聖女はエミリア。


 ならば。


「三つの力」というのは。


 私ではなく。


 エミリア。


 魔王様。


 レオンさん。


 という可能性もある。


「……でも」


 私は割れた聖女の証を見る。


「どうして私にも反応したんでしょう?」


「…………」


 誰も答えられない。


     ◇


 その夜。


 私は王城の庭にいた。


 月を眺めながら、昼間のことを考えていた。


 幼い頃の私。


 幼い魔王様。


 どうして一緒にいたんだろう。


 何をしていたんだろう。


 そして。


 どうして私は覚えていないんだろう。


「……うーん」


「眠れないのか?」


「わっ!」


 突然、後ろから声がした。


「魔王様……」


「ああ」


「驚きました」


「すまない」


 魔王様が隣に立つ。


「私も眠れなくてな」


「魔王様も?」


「ああ」


 二人で月を見る。


「……昔のこと」


「はい」


「少しだけ思い出した」


「本当ですか?」


「断片的だが」


 魔王様は目を閉じる。


「北の森だ」


「北の森?」


「昔、私はそこにいた」


「私も?」


「……君もいた」


「何をしていたんですか?」


「それは……」


 魔王様が眉を寄せる。


「思い出せない」


「そうですか」


「だが、一つだけ」


「はい」


「君が泣いていた」


「私が?」


「ああ」


「どうして?」


「分からない」


 魔王様はしばらく黙った。


「ただ」


「はい」


「私は君の手を握っていた」


「…………」


「そして」


 魔王様が私を見る。


「『大丈夫だ』と言っていた」


 胸がどくんと鳴った。


 昼間の映像。


 あの言葉。


『僕が守るから』


「……魔王様」


「なんだ?」


「もしかして」


 私は恐る恐る尋ねた。


「昔の魔王様は……」


「うん」


「今より優しかったんじゃないですか?」


「…………」


 魔王様が固まる。


「……君は」


「はい?」


「さっきから私を何だと思っている?」


「優しい人です」


「…………」


 魔王様の耳が赤くなる。


「……そういうところだ」


「?」


「何でもない」


     ◇


 その時だった。


 ――キィン。


 空気が震えた。


「……!」


 魔王様がすぐに私の前に立つ。


「下がれ」


「はい!」


 庭の中央。


 地面に黒い魔法陣が浮かび上がった。


「また……!」


 魔王様が手を構える。


 だが。


 魔法陣から現れたものは。


 敵ではなかった。


「……?」


 小さな光の玉。


 ふわふわと宙を飛んでいる。


 私は手を伸ばした。


 光が指先に触れる。


「……温かい」


 すると。


 頭の中に声が響いた。


『――思い出して』


「……え?」


 私は目を見開く。


『あなたは、忘れさせられただけ』


「誰に?」


『――――』


 声が途切れる。


 そして。


 光の中に、一瞬だけ映像が浮かんだ。


 幼い私。


 幼い魔王様。


 そして――


 その二人を見ている。


 黒いローブの男。


「…………!」


 私は息を呑んだ。


「あの人……!」


 元大神官。


 私たちを見ていた。


 そして。


 幼い私に何かを飲ませている。


「……!」


 映像が消える。


「リリアーナ!」


 魔王様が私の肩を掴む。


「大丈夫か!?」


「……魔王様」


「何を見た?」


「大神官です」


「…………」


「あの人が……」


 私は震える声で言った。


「私たちの記憶を消したのかもしれません」


「…………」


 魔王様の表情が変わった。


「……そういうことか」


「魔王様?」


「だから覚えていない」


 魔王様が拳を握る。


「だから……」


 その瞬間。


 庭の奥から。


「おやおや」


 声がした。


「ずいぶんと勘が良くなりましたね」


「……!」


 黒いローブ。


 月明かりの下。


 あの男が立っていた。


「大神官……!」


 魔王様が前に出る。


「何をした?」


「簡単なことですよ」


 大神官は笑った。


「少しばかり、記憶を眠らせただけです」


「なぜ!」


 私が叫ぶ。


「どうして私たちの記憶を消したんですか!」


「それは――」


 大神官が私を見る。


「あなたが思い出してしまえば」


 一瞬。


 その顔から笑みが消えた。


「世界の形が変わってしまうからですよ」


「…………」


「では」


 大神官が一歩下がる。


「また会いましょう」


「待って!」


 魔王様が手を伸ばす。


 だが。


 黒い霧が広がる。


 次の瞬間。


 大神官の姿は消えていた。


「…………」


 静寂。


 私は魔王様を見る。


「世界の形が変わるって……」


「分からない」


 魔王様が答える。


「だが」


 その手が、私の手をそっと握った。


「今度は」


「……はい」


「君を一人にしない」


 私は驚いて魔王様を見る。


「……ありがとうございます」


 その時。


 城の方から、ものすごい勢いで声が響いた。


「リリアーナー!!」


 レオンさんだった。


「魔王ー!!」


「……何だ?」


「大変だ!」


 レオンさんが走ってくる。


「エミリアが――」


 息を切らしながら。


「突然、空に浮かんだ!」


「…………」


「…………」


「…………え?」


 私は空を見上げた。


 王都の上空。


 白い光が渦を巻いている。


 その中心に。


 エミリアが浮かんでいた。


 そして。


 彼女の胸元から。


 三つの光が放たれていた。


 一つは白。


 一つは黒。


 そしてもう一つは――


 赤。


「…………」


 私は呟いた。


「三つの力……?」


 その瞬間。


 空に巨大な扉が現れた。


 ――ゴゴゴゴゴ……。


 魔王様が私の手を握る。


 レオンさんが剣を抜く。


 そして私は。


 ただ、その扉を見つめていた。


 扉の向こうから。


 誰かの声が聞こえた。


『――ようやく、帰ってきたね』


 その声は。


 なぜか。


 とても懐かしかった。

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