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聖女を辞めたので、今日から魔王城で働きます  作者: ななほし


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第22話 新しい聖女が現れました

「聖女を名乗る少女が現れました!」


 使者の言葉が、王城の廊下に響いた。


「…………」


 私は固まった。


 魔王様も。


 レオンさんも。


 クロードさんも。


 全員、黙っている。


「……聖女?」


 レオンさんが確認する。


「はい!」


「本当に?」


「はい!」


「光の魔法を使えるのか?」


「それどころか――」


 使者が震えながら言った。


「リリアーナ様と同じ……いえ、それ以上の力を持っているとのことです」


「…………」


 私は何とも言えない気持ちになった。


「そうですか……」


 胸の奥が少しだけざわつく。


 でも。


 私はもう聖女ではない。


「会ってみます」


「リリアーナ?」


 魔王様が私を見る。


「大丈夫です」


 私は笑った。


「ただ、少し気になるので」


「なら私も行く」


「俺も」


「お二人とも……」


「当然だ」


「うん」


 結局。


 三人で会いに行くことになった。


     ◇


 王城の大広間。


 そこには、大勢の人が集まっていた。


 貴族。


 騎士。


 神殿関係者。


 そして――


 中央に、一人の少女が立っている。


 年齢は十六歳くらい。


 白い衣装。


 長い銀色の髪。


 胸元には、聖女の証であるペンダント。


「…………」


 少女がこちらを見る。


 そして。


「あなたが……」


 私を見つめる。


「リリアーナ様?」


「はい」


 少女は少し緊張したように頭を下げた。


「初めまして」


「初めまして」


 私は笑う。


「あなたのお名前は?」


「エミリアです」


「エミリアさん」


「はい」


 エミリアは小さく息を吸う。


「私……聖女になりました」


「そうなんですね」


「はい」


 私は微笑んだ。


「おめでとうございます」


「…………」


 エミリアが目を丸くする。


「怒らないんですか?」


「どうしてですか?」


「だって……」


 少女は俯く。


「私は、あなたの代わりになったんですよ?」


「代わり?」


「はい」


 私は少し考える。


「でも、エミリアさんは私ではありませんよね?」


「……はい」


「だったら、代わりではないと思います」


「…………」


 エミリアが顔を上げる。


「私は私ですし」


「…………」


「あなたはあなたです」


 私は笑った。


「だから、頑張ってください」


「…………っ」


 エミリアの目に涙が浮かんだ。


「……ありがとうございます」


 その瞬間。


「…………」


 魔王様が私を見る。


「…………」


 レオンさんも私を見る。


「どうしました?」


「いや」


「別に」


「?」


 クロードさんだけが、なぜか苦笑していた。


     ◇


 しかし。


「待ってください!」


 突然、神殿の老人が声を上げた。


「そんな簡単に認めてよいのですか!」


「……?」


 老人は私を見る。


「リリアーナ様!」


「はい」


「あなたは聖女を辞めた身です!」


「そうですね」


「ならば、なぜこの場にいるのです!」


「王太子殿下に呼ばれたからです」


「…………」


「それに、今は魔王城で働いています」


「魔王城……!」


 広間がざわめく。


「魔王と共にいるのですか!?」


「はい」


「なぜ!」


「働いているからです」


「…………」


 老人が言葉を失う。


 レオンさんが小声で呟いた。


「正論だ」


「静かに」


 魔王様が注意する。


「でも本当のことだろ?」


「そうだが……」


 魔王様も困った顔をする。


     ◇


 するとエミリアが前に出た。


「待ってください」


「エミリア?」


「リリアーナ様を責めないでください」


 大広間が静かになる。


「私は……」


 エミリアが拳を握る。


「聖女になったばかりで、何も分かりません」


「…………」


「でも」


 エミリアは私を見る。


「リリアーナ様がいなかったら、私は聖女になれませんでした」


「え?」


「神殿で教えてもらったんです」


 エミリアが胸元のペンダントに触れる。


「前の聖女が残した記録を読みました」


「…………」


「そこには、こう書いてありました」


 エミリアが笑う。


「『聖女は、誰かに決められるものではない』」


 私は目を見開いた。


「それ……」


 確かに。


 昔の私が書いた言葉だった。


「『自分が誰かを助けたいと思った時、その人はもう聖女なのです』」


「…………」


 胸が熱くなる。


 エミリアは頭を下げた。


「だから私は、あなたを追い出したいわけではありません」


「…………」


「むしろ――」


 エミリアが笑った。


「先輩として、いろいろ教えてください!」


「…………」


「先輩?」


「はい!」


 私は思わず笑った。


「もちろんです」


「本当ですか!?」


「はい」


「ありがとうございます!」


 エミリアが嬉しそうに笑う。


     ◇


 その光景を見ていた魔王様。


「…………」


 レオンさん。


「…………」


 クロードさん。


「…………」


 三人とも何とも言えない顔をしていた。


「どうしました?」


 私が尋ねる。


「いや……」


 魔王様が呟く。


「また一人増えたな」


「何が?」


「いや」


 レオンさんが頭を抱える。


「魔王、諦めろ」


「何をだ」


「リリアーナの周り、人が増えすぎ」


「…………」


 確かに。


 魔王城の仲間。


 レオンさん。


 グラン。


 ノア。


 そして今度はエミリア。


 私は思わず笑う。


「賑やかでいいじゃないですか」


「……そうだな」


 魔王様が苦笑した。


     ◇


 その夜。


 エミリアは王城に泊まることになった。


 私は部屋へ戻ろうとしていた。


「リリアーナ」


「はい?」


 魔王様が呼び止める。


「今日は……」


「はい」


「ありがとう」


「?」


「エミリアに、ああ言ってくれて」


「ああ……」


 私は笑う。


「だって、あの子は悪くないですから」


「…………」


「それに」


 私は少しだけ空を見上げる。


「私も昔、誰かにそう言ってほしかったんです」


「…………」


 魔王様が黙る。


「聖女だからこうしろ」


「聖女だからこうあるべきだ」


「聖女なら我慢しろ」


「そんな言葉を、たくさん聞きました」


「…………」


「だから、エミリアには同じ思いをしてほしくありません」


 魔王様はしばらく黙っていた。


 そして。


「……君は」


「はい?」


「やはり、優しいな」


「そうですか?」


「ああ」


 魔王様は微笑んだ。


「だから――」


 少しだけ照れたように。


「私は、君が好きだ」


「…………」


「…………」


「…………」


「……え?」


 魔王様が固まった。


「…………」


「…………」


「…………」


 数秒。


 完全な沈黙。


 そして。


「……今のは忘れてくれ」


「はい?」


「何でもない」


「???」


 魔王様は真っ赤になって去っていった。


 私はその背中を見送る。


「……何だったんでしょう?」


 そこへ。


「リリアーナー!」


 レオンさんが走ってきた。


「明日の朝、エミリアと一緒に朝ご飯食べよう!」


「いいですね!」


「俺も!」


「もちろんです」


「やった!」


 私は笑った。


 けれど。


 遠くの廊下では。


 魔王様が壁に手をついていた。


「…………」


 顔が真っ赤だった。


「私は何を言っている……!」


 その様子を見ていたクロードが。


「……ようやく一歩進みましたね」


 静かに呟いた。


 しかし。


 翌朝。


 もっと大きな問題が発生する。


 王都の神殿から――


「新聖女エミリアを、正式に聖女として認定する儀式を行います」


 という知らせが届いた。


 そしてその儀式には。


「リリアーナ様にも、参加していただきます」


 ――そんな一文が添えられていた。

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