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聖女を辞めたので、今日から魔王城で働きます  作者: ななほし


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第15話 元聖女への招待状

 魔王城の応接室。


 私は、少し緊張しながら椅子に座っていた。


 向かい側には、人間領から来たという使者がいる。


 そして――


「…………」


 私の隣には魔王様。


 その後ろにはクロードさん。


 さらに反対側にはレオンさん。


 なぜか全員集合している。


「……あの」


 私は小声で言った。


「皆さん、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ」


「いや」


 魔王様が即答した。


「必要だ」


「そうですか?」


「ああ」


 レオンさんも頷く。


「俺もそう思う」


「レオンさんまで……」


 使者の男性は、少し困ったように笑った。


「ずいぶんと……大切にされているのですね」


「え?」


 私は首を傾げる。


「普通だと思いますけど」


「…………」


「…………」


 魔王様とレオンさんが同時に黙った。


 クロードさんだけが小さく笑っている。


「それで、人間領からの用件とは?」


 魔王様が尋ねた。


 使者は一枚の封筒を取り出した。


「こちらを」


 封筒には、王家の紋章が刻まれている。


「国王陛下から、リリアーナ様への正式な招待状です」


「私に?」


「はい」


 私は封筒を受け取った。


 中には、丁寧な文章が書かれていた。


 ――元聖女リリアーナへ。


 ――一度、王都へ戻ってきてほしい。


 ――話したいことがある。


「…………」


 私は黙って手紙を見つめる。


 懐かしい文字だった。


 聖女として過ごした日々。


 毎日、神殿へ通った。


 祈りを捧げた。


 人々の傷を癒やした。


 困っている人を助けた。


 それ自体は嫌いではなかった。


 でも。


 いつの間にか――


 私は「聖女」であることしか見てもらえなくなっていた。


 リリアーナではなく。


 聖女リリアーナとして。


「……どうする?」


 魔王様が静かに尋ねた。


「行きたくないなら、行かなくていい」


「…………」


「ここに残っていい」


 その言葉に。


 私は少し驚いた。


「魔王様……」


「君が決めればいい」


 魔王様はそう言った。


「私が決めることではない」


 その横で、レオンさんも頷いた。


「そうだな」


「レオンさん?」


「リリアーナが行きたいなら行けばいい」


「…………」


「でも」


 レオンさんが笑った。


「帰ってきたいと思ったら、ここに帰ってくればいい」


 胸が温かくなった。


「二人とも……」


 私は手紙を握りしめる。


「ありがとうございます」


 すると――


「ところで」


 クロードさんが口を開いた。


「魔王様」


「何だ」


「先ほどからずっと、リリアーナ様の隣から一歩も動いていませんが」


「…………」


「何か理由が?」


「……ない」


「そうですか」


 クロードさんが微笑む。


「ちなみにレオン様も反対側から一歩も動いていません」


「俺は護衛だ」


「私もだ」


「お二人とも護衛なのですね」


 私が感心する。


「頼もしいです!」


「…………」


「…………」


 二人の顔が微妙になった。


 クロードさんは完全に笑いを堪えていた。


     ◇


 その日の夜。


 私は一人で庭に出ていた。


 月が綺麗だった。


「……王都か」


 もうずっと帰っていない。


 帰る理由もないと思っていた。


 でも。


 国王陛下が私を呼んでいる。


 一体、何のために?


「リリアーナ」


「!」


 振り返ると、魔王様が立っていた。


「魔王様」


「ここにいたのか」


「はい」


 魔王様は私の隣に立つ。


「……手紙のことを考えていたのか?」


「はい」


「そうか」


 少しの沈黙。


 風が吹く。


「魔王様」


「何だ」


「もし私が王都に行ったら……」


「…………」


「戻ってきてもいいですか?」


 魔王様がこちらを見る。


「もちろんだ」


 即答だった。


「ここは君の家だ」


「…………」


 胸が、ぎゅっとなる。


「ありがとうございます」


「……礼を言う必要はない」


 魔王様は少し照れたように顔を逸らした。


「私は……君にここにいてほしいと思っている」


「はい」


「ずっと」


「はい」


「…………」


「…………」


「……リリアーナ」


「はい?」


「その……」


 魔王様が珍しく言葉に詰まる。


「王都へ行くとしても、私も――」


「リリアーナー!」


 突然、庭にレオンさんが走ってきた。


「明日の朝、王都に行くなら俺も――」


「レオン」


 魔王様の声が低くなる。


「何だ?」


「今、私が話している」


「俺も話したい」


「…………」


「…………」


 二人が睨み合う。


「えっと……」


 私は二人の間に入った。


「じゃあ、三人で行きましょう!」


「…………」


「…………」


「駄目ですか?」


「……いや」


「別に……」


 二人とも、しぶしぶ頷いた。


 その様子を、少し離れた場所から見ていたクロードは――


「……王都へ行くだけなのに」


 小さくため息をついた。


「どうして護衛が二人とも、恋人候補みたいになっているんでしょうね」


     ◇


 翌朝。


 魔王城の門の前。


「では、行ってきます!」


 私は荷物を持って立っていた。


「気をつけてくださいね!」


 魔族たちが見送りに来てくれている。


「お土産よろしく!」


「リリアーナ様、無事に帰ってきてください!」


「はい!」


 私は笑顔で手を振る。


 そして馬車を見る。


「では、出発――」


「待て」


 魔王様が馬車に乗り込む。


「私も行く」


「はい」


 続いてレオンさんも乗り込む。


「俺も!」


「はいはい」


 こうして。


 魔王。


 勇者。


 元聖女。


 三人による王都への旅が始まった。


 ただし――


 この旅が、まさか王都中を巻き込む大騒動になるとは。


 この時のリリアーナは、まだ知らなかった。

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