第13話 魔王と勇者、リリアーナを取り合う
「…………」
「…………」
「…………」
街へ向かう道。
私の左には魔王様。
右には勇者のレオンさん。
そして二人とも――
私の隣を一歩も譲らない。
「……歩きにくいですね」
「すまない」
「ごめん!」
二人が同時に謝った。
「…………」
「…………」
「息ぴったりですね」
「違う!」
「違う!」
また同時だった。
私は思わず笑ってしまう。
「ふふっ」
すると二人とも少し照れたように顔を背けた。
◇
「まずは市場へ行きましょう」
私が言うと、レオンさんが手を上げた。
「俺、案内する!」
「レオンさん、街に詳しいんですか?」
「昨日覚えた!」
「昨日!?」
「魔王城に来る前に一回通ったから!」
「それなら詳しいですね」
「うん!」
レオンさんが胸を張る。
すると魔王様が口を挟んだ。
「私もこの街には何度も来ている」
「魔王様も詳しいんですね」
「ああ」
「では、お二人に案内してもらいましょう」
「任せろ!」
「任せてくれ」
二人ともやる気満々だ。
「では市場へ――」
「リリアーナ!」
「はい?」
「こっちだ!」
「いや、こちらだ」
「え?」
左右から腕を引かれる。
「ちょっと待ってください!」
私は慌てて二人の手を離した。
「同じ市場ですよね?」
「…………」
「…………」
「なら、普通に歩きましょう」
「……そうだな」
「うん」
二人は少し反省したようだった。
しかし――
数秒後。
「リリアーナ、あれ見て!」
「これか?」
「こっちだよ!」
「こちらにも店がある」
「…………」
私は思った。
「やっぱり今日、大丈夫かな……」
◇
市場に到着。
「わあ……!」
私は目を輝かせた。
新鮮な野菜。
珍しい果物。
香辛料。
焼き菓子。
どれも美味しそうだ。
「これ、買ってもいいですか?」
「もちろんだ」
「俺が買う!」
「え?」
「好きなだけ買っていいぞ!」
「待て」
魔王様がレオンを見る。
「食材を買う程度で張り合うな」
「魔王だって買うじゃん!」
「私は必要なものを買っている」
「俺も!」
「……」
二人が睨み合う。
私は慌てて言った。
「自分で買いますから!」
「…………」
「…………」
「本当に大丈夫です」
二人とも少し残念そうだった。
私は市場を歩く。
すると、小さな屋台が目に入った。
「これ……」
そこには、丸い焼き菓子が並んでいた。
「美味しそうですね」
「食べるか?」
魔王様がすぐに店主へ向かう。
「三つ」
「俺も買う!」
「レオン」
「何?」
「二人で三つで十分だ」
「じゃあ俺は十個!」
「多い」
「…………」
レオンがしょんぼりする。
私は笑ってしまった。
「一人二個にしましょう」
「分かった!」
「……ああ」
焼き菓子を受け取る。
「いただきます」
一口。
「美味しい!」
「本当だ!」
「…………」
魔王様も一口食べる。
「……美味いな」
私は嬉しくなった。
「こういうの、いいですね」
「また来よう」
魔王様が自然に言った。
「はい!」
私が答える。
その瞬間。
レオンが手を上げた。
「じゃあ次は俺が案内する!」
「どこへ?」
「秘密!」
「?」
レオンは楽しそうに走り出した。
「こっち!」
「ちょっと待ってください!」
私は追いかける。
魔王様も続く。
◇
「ここ!」
レオンが連れてきたのは、小さな広場だった。
中央には噴水。
周囲には花。
ベンチもある。
「綺麗ですね」
「だろ?」
「どうして知ってるんですか?」
「昨日、迷子になったとき見つけた!」
「……なるほど」
レオンは少し得意そうだった。
「ここ、俺のお気に入り!」
「そうなんですね」
「うん」
私は噴水を見る。
水がきらきら光っている。
「素敵な場所を教えてくれてありがとうございます」
「どういたしまして!」
レオンは嬉しそうに笑った。
すると。
「…………」
魔王様が黙っている。
「魔王様?」
「……いや」
「どうしました?」
「勇者」
「ん?」
「いい場所を知っているな」
「だろ?」
「…………」
「…………」
二人の間に妙な空気が流れる。
私はその空気に気づかず、ベンチに座った。
「少し休みませんか?」
「そうだな」
「うん!」
二人も座る。
私の左に魔王様。
右にレオン。
「…………」
「…………」
「…………」
私は二人を見た。
「お二人とも静かですね」
「…………」
「…………」
「疲れました?」
「違う」
「違うよ」
また同時。
「ふふっ」
私は笑った。
「今日は楽しいですね」
魔王様がこちらを見る。
「……本当か?」
「はい」
「私といて?」
「もちろんです」
魔王様が嬉しそうに笑った。
「俺といても?」
レオンも聞く。
「はい。レオンさんといても楽しいですよ」
「やった!」
二人とも嬉しそうだ。
私は思った。
「仲良くなってくれたみたいでよかったです」
「…………」
「…………」
魔王様とレオンが同時にこちらを見る。
「仲良く?」
「俺たちが?」
「はい」
「…………」
「…………」
二人は顔を見合わせる。
そして。
「……まあ、悪くない」
魔王様が言った。
「うん!」
レオンも笑った。
◇
帰り道。
私は買った食材を抱えて歩いていた。
「重くないか?」
魔王様が聞く。
「大丈夫ですよ」
「持とう」
「いえ」
「持つ」
魔王様が袋を取る。
「ありがとうございます」
「…………」
すると。
「俺も持つ!」
レオンが反対側の袋を取った。
「ありがとうございます」
「任せて!」
二人が荷物を持ってくれた。
「助かります」
私は笑う。
魔王様も少し笑う。
レオンも笑う。
その瞬間。
私は気づいた。
「……あれ?」
「どうした?」
「魔王様とレオンさんって、ちょっと似ていますね」
「どこが?」
「私が困っていると、すぐ助けてくれるところです」
「…………」
「…………」
二人とも黙った。
「どうしました?」
「いや……」
魔王様が少し顔を赤くする。
「……そう言われると悪くない」
「俺も!」
レオンも嬉しそうだ。
私は笑った。
「良い友達になれそうですね」
「…………」
「…………」
また二人が固まった。
しかし今度は。
魔王様もレオンも、何も言わなかった。
◇
魔王城へ帰る。
「ただいま戻りました!」
「おかえりなさい!」
魔族たちが出迎えてくれる。
「今日はどうでした?」
「楽しかったですよ」
「それはよかったです!」
私は買った食材を厨房へ持っていく。
その後ろから魔王様とレオンも入ってくる。
「魔王様」
クロードさんが近づいてくる。
「どうでした?」
「…………」
魔王様は少し考えた。
「楽しかった」
「おお!」
「……ただ」
「はい」
「勇者が邪魔だった」
「魔王!」
レオンが叫ぶ。
「俺だって魔王が邪魔だった!」
「…………」
「…………」
「お二人とも!」
私は呆れた。
「喧嘩しないでください」
「はい……」
「ごめん……」
二人がしょんぼりする。
「まったく」
私は笑った。
そして、その夜。
私は今日のことを日記に書いていた。
『今日は魔王様とレオンさんと街へ行った』
『二人とも優しくて、楽しかった』
『魔王城に来てから、毎日が本当に楽しい』
私はペンを置く。
「……明日も頑張ろう」
一方。
魔王様の部屋。
「今日は……」
魔王様は窓の外を見る。
「悪くなかった」
そして小さく笑う。
「だが、次は二人きりで行きたい」
その隣の部屋では。
「次はリリアーナと二人で買い物したい!」
レオンも同じことを考えていた。
そして翌朝。
魔王城に一枚の紙が貼り出された。
そこには――
『魔王城・休日交流イベント開催のお知らせ』
と書かれていた。
「…………」
魔王様が固まる。
「…………」
レオンも固まる。
「…………」
私も固まった。
「誰がこんなものを?」
すると、クロードさんが笑顔で現れた。
「もちろん私です」
「何のためですか?」
「魔王様と勇者様が仲良くなるためです」
「…………」
「それから」
クロードさんは小さく笑った。
「リリアーナ様との時間を増やすためです」
魔王様の顔が赤くなる。
レオンは拳を握る。
「絶対に負けない!」
「私もだ」
「何のイベントなんですか……?」
私はまだ知らない。
この交流イベントが――
魔王様と勇者による、第二次リリアーナ争奪戦の舞台になることを。




