第12話 魔王と勇者、決闘……ではなく料理対決です
「リリアーナ様!」
朝からクロードさんが走ってきた。
「大変です!」
「どうしたんですか?」
「勇者が魔王様に決闘を申し込んでいます!」
「…………」
私は頭を抱えた。
「またですか?」
「はい」
「昨日も何か言っていましたよね?」
「『明日は絶対に勝つ』と言っていました」
「何で勝負するんですか?」
「剣です」
「でしょうね……」
私は急いで中庭へ向かった。
◇
「魔王!」
中庭の中央。
レオンさんが剣を構えている。
対する魔王様も、黒いマントを翻して立っていた。
「今日こそ決着をつける!」
「望むところだ」
「俺は勇者だ!」
「私は魔王だ」
「勝負だ!」
「受けて立つ」
「待ってください!」
私は二人の間に飛び込んだ。
「…………」
「…………」
二人が私を見る。
「何をしてるんですか?」
レオンさんが答える。
「決闘!」
「なぜ?」
「魔王に勝ちたいから!」
「何のために?」
「…………」
レオンさんが考える。
「……勇者だから?」
「疑問形なんですね」
私は魔王様を見る。
「魔王様も、どうして受けるんですか?」
「売られた喧嘩は買う」
「大人げないですよ」
「…………」
魔王様が少し傷ついた顔をした。
「では、決闘は禁止です」
「なぜ!?」
レオンが叫ぶ。
「危ないからです」
「でも俺、勇者だぞ!」
「関係ありません」
「魔王も強いぞ!」
「もっと関係ありません」
私は二人を見る。
そして。
「代わりに別の勝負をしましょう」
「別の?」
「はい」
私は思いついた。
「料理対決です」
「…………」
「…………」
魔王様とレオンが同時に私を見る。
「料理?」
「はい」
「勝ったら?」
レオンが聞く。
「私が勝者のお願いを一つ聞きます」
「やる!」
レオンが即答した。
「私もやる」
魔王様も即答した。
「では決まりですね」
◇
料理対決。
審査員は私。
「テーマは――」
私は二人を見る。
「私が好きそうな料理」
「任せろ!」
レオンが腕まくりする。
「魔王も負けないぞ!」
「当然だ」
二人ともものすごく真剣だ。
……なぜか戦争より真剣に見える。
「制限時間は一時間です」
「分かった!」
「了解した」
「では、スタート!」
◇
レオンはすぐに厨房へ走っていった。
「何作ろう……」
冷蔵庫を開ける。
「肉!」
肉を取り出す。
「卵!」
卵を取り出す。
「じゃがいも!」
じゃがいもを取り出す。
「全部入れれば美味しくなる!」
「それは違います!」
料理長が慌てて止めた。
「リリアーナ様に教えてもらった料理を思い出せ!」
「そうだ!」
レオンは真剣な顔になる。
「リリアーナが好きなのは――」
「…………」
「コロッケ!」
レオンはじゃがいもを潰し始めた。
「よし!」
衣をつける。
「揚げる!」
ジュワッ。
「できた!」
「早い!」
料理長が驚く。
「普通はそんなに早くできませんよ!」
「勇者だから!」
「意味が分かりません!」
◇
一方。
魔王様。
「…………」
厨房の隅で立ち尽くしている。
「魔王様?」
料理長が声をかける。
「何を作るんですか?」
「…………」
「魔王様?」
「……考えている」
「もう二十分経っています」
「…………」
魔王様は悩みに悩んだ。
「リリアーナが好きなもの……」
パン。
オムライス。
コロッケ。
「…………」
そして。
「分かった」
魔王様が立ち上がる。
「パンを作る」
「パン?」
「私が初めて、彼女に贈ったものだ」
「なるほど」
「最高のパンを作る」
料理長が頷く。
「では、生地を――」
「任せろ」
魔王様が生地をこねる。
――ドン!
「…………」
生地が台にめり込んだ。
「魔王様」
「なんだ」
「力を弱めてください」
「分かった」
――ドン!
「まだ強いです!」
「…………」
料理長は頭を抱えた。
◇
制限時間終了。
「できました!」
レオンが皿を持ってくる。
「俺の料理!」
「これは……」
大きなコロッケ。
形は少し歪んでいる。
でも、香ばしい匂いがする。
「どうぞ!」
「いただきます」
私は一口食べた。
「……美味しい」
「本当!?」
「はい」
中はホクホク。
少し塩気が強いけれど、美味しい。
「頑張ったんですね」
「うん!」
レオンは嬉しそうに笑った。
「次は俺!」
魔王様が皿を置く。
「…………」
私は驚いた。
「パン……?」
「ああ」
焼きたてのパン。
表面は綺麗なきつね色。
「食べてみてくれ」
「はい」
私は一口食べた。
「…………」
美味しい。
昨日食べたパンよりも、さらに美味しい。
「すごい……」
「本当か?」
「はい!」
魔王様の顔が明るくなる。
「とても美味しいです」
「…………」
魔王様が嬉しそうに笑う。
「よかった」
「魔王様が作ったんですよね?」
「ああ」
「すごいです」
「……ありがとう」
私は二人を見る。
「うーん……」
レオンが緊張した顔で待っている。
魔王様も真剣な顔をしている。
「どちらも美味しいです」
「じゃあ、どっちが勝ち?」
「…………」
私は考えた。
そして。
「引き分けです!」
「ええ!?」
「なぜだ!?」
二人が同時に叫んだ。
「どちらも美味しかったので」
「でも勝負だぞ!」
「勝負ですよね?」
「はい!」
「では、二人とも勝者です」
「…………」
「…………」
二人は顔を見合わせる。
「それでいいのか?」
魔王様が聞く。
「はい」
「俺もいい!」
レオンが笑った。
こうして料理対決は平和に終わった。
――と思った。
◇
「リリアーナ!」
レオンが私の前に立つ。
「お願いがある!」
「何でしょう?」
「明日、一緒に町へ行こう!」
「え?」
「料理の材料を買いたい!」
「いいですよ」
「やった!」
レオンが喜ぶ。
すると。
「待て」
魔王様が割り込んだ。
「何ですか?」
「私も行く」
「魔王様も?」
「ああ」
「では三人で行きましょう」
「…………」
「…………」
魔王様とレオンが同時に互いを見る。
「俺は二人で行きたい」
「私もだ」
「…………」
私は困った。
「では、みんなで行けばいいのでは?」
「…………」
「…………」
二人とも納得していない顔だった。
そこへクロードさんがやって来る。
「何の騒ぎですか?」
「明日、町へ行きます」
「誰とです?」
「レオンさんと魔王様です」
「…………」
クロードさんが頭を抱えた。
「また三角関係が進んでしまった……」
「三角関係?」
私は首を傾げる。
「何の話ですか?」
「何でもありません」
◇
その夜。
魔王様の部屋。
「……勇者め」
魔王様は窓の外を見ていた。
「リリアーナと二人で出かけるつもりだったのに」
そこへクロード。
「仕方ありませんよ」
「…………」
「でも、明日は三人です」
「…………」
「それなら、魔王様も一緒に楽しめばいいじゃないですか」
「…………」
魔王様は少し考える。
「そうだな」
そして。
「だが――」
魔王様の目が鋭くなる。
「明日は絶対に、勇者より私がリリアーナの隣にいる」
「……頑張ってください」
◇
翌朝。
「リリアーナ!」
「はい?」
玄関へ出ると。
魔王様とレオンが並んで立っていた。
「…………」
「…………」
二人とも私を見ている。
「行きましょう!」
私が笑う。
「はい!」
「おう!」
二人が同時に返事をする。
そして。
左右から同時に私の隣を取ろうとする。
「俺、こっち!」
「私はこちらだ」
「え?」
私は二人に挟まれた。
「…………」
「…………」
魔王様と勇者が睨み合う。
私は思った。
「……今日、大丈夫かな?」
このとき私はまだ知らなかった。
今日の街歩きが――
魔王と勇者による、壮絶な『どっちがリリアーナを喜ばせられるか』対決になることを。




