第5話 美少女の彼氏になる
「「ええええええええっ!!!!?!?」」
俺たちの絶叫が響き渡り、周囲にいた学生たちが一斉にこちらを向く。一瞬だけ間が空いたあと、俺の右腕にしがみついていた矢吹が口を開いた。
「じゃっ、じゃあ私たちはもう行くから!」
「あっ、彩夜?」
「じゃあね、また後でね~!」
「ちょっ、あの――」
「いいからっ、ついてきてくださいっ!」
「えっ、ええっ!?」
こちらが驚く間もなく、矢吹は俺の腕を無理やり引っ張って歩きだした。ざわめく観衆の間を縫うように、俺は学食の外へと連れ出されたのだった……。
***
「なっ、なんで店員さんがここにいるんですかっ!?」
「な、なんでと言われても……」
人通りの少ない建物の裏手に連れ込まれた俺は、尋問を受けていた。目の前にいる矢吹は目を丸くして、信じられないといった表情でじっとこちらの顔を見上げている。
「僕もここの学生なんです。昼飯を食べようと思ったら、たまたま矢吹さんが後ろに並んでいただけで……」
「どうして私の名前を!? ストーカーですか!?」
「ちっ、違いますけど!?」
どうしてそう俺のことを変態扱いしたがるんだよコイツは!?
「やっ、矢吹さんの名前を聞いたことがあったんですよ。有名人らしいじゃないですか」
「ふん、馬鹿な男子が勝手に騒いでるだけですっ。あなたも一員ですか?」
「ちっ、違いますよ! 本当に聞いたことがあっただけで……」
「ふーん、そうですか」
矢吹はふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。さっき友達と話していたけど、あんまり男のことは好きじゃないみたいだな。どおりで大外刈りまで決めていたわけだ。
「で、どうするんですか」
「何の話ですか?」
「とぼけないでください!! なんであなたが私の彼氏ってことになっちゃったんですか!?」
「自分で言ったんじゃないですか!?」
俺のせいみたいに言うんじゃねえよ!?
「そっちこそなんで彼氏だなんて言っちゃったんですか!? あの状況で彼氏なんて言い張るのは無理すぎませんか!?」
「それはっ、そのっ……だって、あのままじゃネカフェに泊まってるのがバレるじゃないですか! それは絶対に駄目なんですっ!!」
そう言い切った矢吹は眉をひそめて、前髪をくるくると指に巻いていた。やっぱりネカフェに寝泊まりすることは知られたくないらしい。
「でも、さっき友人の方に『彼氏なんていない』とか言ってたじゃないですか。大丈夫なんですか?」
「別に、友達じゃないです」
「えっ?」
「高校からの付き合いってだけです。大学でも勝手につきまとってきて、保護者みたいに口うるさくて……」
矢吹は不満そうに俯いた。言われてみれば、さっきの矢吹はあまり楽しそうじゃなかったな。少なくとも友人と会話をしているというテンションではなかった。
「だから、あの子にどう思われようが関係ないんですけど。でも、ネカフェに泊まっていることは誰にも知られたくなくて……」
「……そうですか」
今朝の涙を思い出して、深く理由を問うのはやめておいた。しかし……成り行き上、ただの客と店員という関係と言い張るわけにもいかなくなってしまったな。
「でも、さっきの騒ぎは絶対に噂になりますよ」
「分かってますっ。あの子、言い広めるのは早いので」
あの子、とはさっき会話していた女子のことだろう。
「あのっ、今からでも言い訳を考えて説明しに戻りませんか? まだ間に合うかも――」
「いえっ、どっちみちネカフェのことを説明できないので。別の方法にします」
「別?」
首をかしげていると、矢吹がビシッと俺のことを指さした。そして凛とした表情で、まるで何かを任命する管理職のように――口を開いた。
「しばらくの間っ、あなたを私の彼氏ってことにしてあげますっ!!」
「……へっ?」
嘘から出た実、とはこういうことを言うのだろうか。ムッと睨んでも可愛らしい顔立ち、モデルのようにすらっとした体型、全身から醸し出される可憐なオーラ。棘のある美しい薔薇が――どういうわけか、自分の隣に咲いた瞬間であった。




