第九十七話 稲垣光希という男==加筆・修正あり
時は今から三十一年ほど遡る。
稲垣光希と高見沢はかつて同じ国立大学の大学院の同じ研究室で高層建築工学の研究を重ねていた。
見た目は直希にそっくり。
それはそのはず光希は直希の父親なのだから。
見た目は好青年だが、女性に関心もなくただただ研究一筋の無骨なタイプの男だった。
そんな光希が、ある論文を発表し最も若い三十歳と言う年齢での研究発表で注目を浴びることになり、とある高級ホテルのオープン記念パーティーに呼ばれたことが発端でことが動き始めた。
そのパーティーには一人で行くのを渋った光希の付き添いで高見沢も同行していた。
またそのホテルは祐希の友人木元の祖父が社長だった頃、チェーン化を始め、時代の波に上手く乗り始めた時期。
建築士としての光希はその腕を見込まれて設計に携わらないか?と打診をされ研究を盾に断ったと言う曰くつきだが、その縁で社長の息子である木元の父親とは馬が合って遠慮なく物言いが出来るほどの仲になっていく。
そして
そのパーティーで偶然にも後に光希の妻となる裕子との出会いがあった。
裕子はさる財閥の一人娘、短大出た後、早く跡取りをと結婚を急かされるも恋愛に憧れて、お見合い結婚は絶対しないと言い張り両親を困らせていた。
そんな裕子が光希を見とめるなり、一瞬にして恋に落ちたのだ。
ただ光希の方はそんな事には気づきもせず女性全般に無関心の様だった。
その後、裕子がただの大学院の研究員である光希との結婚をしたいと、どう両親を説き伏せたものか?
光希にその話が回って来た時には、「寝食に困らない援助」だけではなく、「研究費用を出す代わりに裕子の父親の息のかかった大学に移り成果を出す」そして「裕子との間に跡取りを作る」ことを条件の裕子との結婚の打診だった。
パーティーの席で二人は話をした訳でもない。
高見沢としては当然光希が断るであろうと思っていたのに、承諾したと言うので驚きを隠せなかった。
そして、追加条件として、高見沢も一緒に研究員として大学を移動させた上で高見沢自身の生活面の援助も申し入れたと言われた。
当の高見沢は「僕の心配は有り難いが、それにしても見ず知らずの女との結婚なんて僕は反対だ」と主張するも、「女に興味はないが、研究費用に糸目をつけないことには大いに興味をひかれた」と返され、国立大での研究費は上限があり結果を出せないことに焦りを感じていた光希を引き止める術はなかった。
大学を移動してからの光希の研究への入れ込みは、以前よりもひどくなって行く。
寝食に困らない援助として与えられた高級住宅街の邸宅と大学は目と鼻の先にと関わらず、一週間のうち着替えを取るに戻る以外は研究室に閉じこもり高層住宅の設計に関わる計算式の試算の日々だ。
無愛想な光希ではあるも結婚を喜んでいた裕子は最初のうちは我慢もしていたが、そのうち痺れを切らし、対抗策を仕掛けて来た。
その事がまたことを動かすこととも知らずに。
ただただ研究漬けの毎日だった光希を助教授に昇格させて、学生の面倒も見させることにしたのだ。
教員となったからには学生を指導する立場となり、だらしがない格好のままと言う訳にも行かず、とりあえず光希は研究と講義の合間に家に帰らざるを得ない状況になった。
そして時を同じくして裕子の父親からは「跡取り」の話を持ち出され、研究費のために裕子からもその条件を詰め寄られる結果になった。
そして、その翌年、裕子は第一子長男直希を出産し、役目を光希は無事果たした。




