第九十六話 高見沢教授からの呼び出し
高見沢教授室。
坂崎がドアを三回叩きながら
「坂崎入ります」
言うか言わないかのうちに中から
「どうぞ」
高見沢教授の声が響いた。
坂崎の後から、薫子が
「失礼します」
と言いながら中に入る。
直希の部屋より、ゆったりとした大きさの教授室の中は、やはり高級感がある大机に応接セットが、やはり縦目に配されていた。
高見沢は奥の一人掛けソファから手招きしながら
「よく来てくれたね。さあ、ここにお座りなさい」
直希と同じ様に三人掛けのソファを勧めた。
「お邪魔致します」
薫子はソファに膝に荷物をまた抱いたみ腰掛ける。
薫子側の目の前には、サンドイッチ、菓子パンなどがたくさん並べられていた。
「いかんな、三枝さん。また顔色が悪い。話を聞いて欲しくて来て貰ったが大丈夫かな?」
「ご心配をお掛けしてすみません。大丈夫ですのでお話をお聞かせ下さい」
頭を下げる。
「お腹空いてるだろ?食べながら聞いて貰えるとと思って、食べやすいものを用意して見たんだが……
食欲はあるかね?」
高見沢が薫子を労る様に尋ねると
「まあ、何はともあれ、お茶だな。坂崎くん、三枝さんにオレンジペコを入れてあげておくれ」
と声を上げた。
薫子の目の前に、白地に薄灰色と桃色があしらわれたノリタケのボーンチャイナの紅茶用のカップとソーサーが置かれた。その澄んだ明るい赤橙色のオレンジ・ペコ※がなみなみと注がれている。
坂崎がテーブルに置いたカップを乗せたソーサーを薫子は両手で持ち上げた。
「香りが癒されます。頂いて宜しいでしょうか?」
「お砂糖やミルクはいいのかな?」
高見沢が気遣うも薫子は
「有難うございます。ですがこのままで……では、頂きます」
左手で持ったソーサーから少しカップを上げて口に紅茶を含んだ。
「さて、何から話そうか……三枝さんは遠慮なくサンドイッチでも摘みなさい」
「有難うございます。先生方は?」
「申し訳ないが僕達は先に済ませたんだ」
「そうですか……では遠慮なく頂きます」
ラップに包まれた2個入りの卵サンドに手を伸ばした。
祐希との思わない場所での突然の遭遇と直希を兄と呼びながら立ち去る後ろ姿への引っ掛かりが、この後、高見沢から聞かされる話で明確になることを、その時の薫子は知る由もなかった。
「これから話す事は……本来なら僕が伝えていいもんかどうか悩んだんだが、最近の……その琥原くんと君の二人の様子が気になってるところに、今回の直希くんとの三枝さんのやり取りを見て……君はあの二人の事を何も知らないんじゃと思ってね」
「と仰ると高見沢教授はご存知なんですね?是非お聞かせ頂きたいです!お願いします」
「うん、心構えは出来てると言う事でいいかな?」
「はい!」
「では、話させて貰おう。実は、そんなに知られていない事じゃないんだが、稲垣光希の学生時代からの友人だった僕だけが知っている事も話すから、これは口外無用ね。坂崎君もだよ」
高見沢教授に念押しされて頷く薫子と坂崎。
長い昔話が始まった。
※枝の先端から2番目にある、細長くて大きな葉を使った高級感のある茶葉のこと。ちなみに主な産地での名称はセイロンティー。




