第九十四話 そんな事って!!
「あの、え?そんな、とんでもないです」
「女子学生である君を蔑ろにしたかった訳ではなく、他の男子学生達に檄を飛ばしたかっただけで、本当に他意はなかったんだ」
「え?では、私は何故呼ばれたのでしょうか?」
「僕が主催している三年生の"意見交換会"に来てみないかな?と思って」
「は?三年生の方々の?ですか?」
「そう、多分、今の君のやりたい事は同じ一年生同士では物足りないんじゃないかと思ってね」
「そんな事は今まで考えたこともありません」
「君の入試の時の成績を見させて貰ったけど……不正解は物理の一問だけと思われるんだが、そんな君がいの一番に手を挙げたのに、見守るだけの不甲斐ない学生だけの中で学ぶのに物足りないと思うことはないのかな?」
「覚えることが得意なだけですので、それは先生の過大評価かと思います」
「では、その記憶力のいい三枝さんが、不正解の一問は大した問題でもなかったのに間違えた。その理由を聞きたい
」
「それは……本当にあるまじき、お恥ずかしい話ですが……模試で慣れたはずのマークシート方式での最後の一問を埋め終わったはずなのに、一問分解答欄が残りまして……どこかで問題と解答のズレが……」
「そこで問題を再解答し直したのかい?」
「まずは問題の読み直しを試みました。」
「読み直し?」
「はい、途中、一つ解答とのズレを見つけ、下の段から書き直しをしましたが、ちょうど終了時間となりましたので、そのズレの部分だけ未解答、空欄になってしまいました」
「それが理由?」
「はい、そんな程度の私が三年生の方々の"意見交換会"に参加させて頂くような素養はないと思われます。お声掛けは大変有り難いお話ではございますが、ご辞退させて頂きたく思います」
直希は笑いながら、両手を顔の前で組んで膝に肘を着くと前のめりに
「そこがいい所だね」
薫子に言うも言われた方の、当の薫子は、
「は?」
考えるも訳が分からない。
「人間はミスを犯す生き物って事さ。それをまた終了と同時でも解答は分かっていたんだろうに手を止めてしまうとは真面目だね、三枝さん。そこがいい!」
「仰る意味が……」
「僕の方から学年担当には話を通しておくよ。一ヶ月に二回ほどの有るか無いかの、色々なゼミ生の三十人ほどの集まりだから出たい時だけ出るでもいい。君に是非参加して欲しい」
「え、あの」
「呼びつけておいて申し訳無いが、この後ちょっと約束があって、そろそろ出ないとならないんだ。後のスケジュールは櫻井君から聞いておいて」
直希はいきなりソファから腰を上げると、ポールハンガーに掛けてあったブレザーに腕を通す。
「では三枝さん、再会を楽しみにしているよ。僕は僕で君からの宿題の回答を探しておくからね」
と、急いでドアに向かってしまう。
その後を追いかけるように薫子が
「先生、私には無理で……」
声を掛けると同時にドアは開かれ、そこで反対側の壁にもたれていた人に直希が声を掛けた。
「待たせたね、祐希。行こうか」
一瞬、薫子と祐希は目が合い、驚いた様な祐希の視線は首に掛けられた"王冠苺に落ち、悲しそうな顔をしたかと思ったら
「はい、兄さん」
と答えて、直希の後をついて行ってしまった。




