第九十話 これも出会い?
学生達の反応を見て直希は話を変える。
「じつは僕自身は普通に家族が住まう住宅も好きでね、都市計画にも関心があるんだ。最近はSRC構造の高級高層マンションも建つようになって来たけれども高嶺の花では仕方がない。コンクリート造りの公団住宅の様な仮住まいでも安価で家族が暮らせる住いも、もっと沢山必要だと感じている……さてでは君達がもし自分が家を持つとしたら、どんな家に住みたいか?アパート?マンション?一戸建て?、僕達には自分で自宅を設計することが出来る可能性がある。もし、そうだとしたらどう考えるか?他の誰かの為の住まいを考えることでもいい。意見を聞いてみたいんだが…」
直希が投げかけた瞬間、薫子が挙手した。
直希は目が合うも
「おいおい最初の発言者は女子学生かい?一つ席が空いている様だから……後の九十八人の男どもには気概のあるものはいないのかい?」
薄ら笑いをしながら他の学生達を見回した。
その時、
「稲垣助教授!お言葉ですが、同じ建築を学ぶもの集う、この場に男女の違いはあるのでしょうか?」
薫子は声をあげた。
講義室内に一瞬張り詰めた空気が漂った時、直希が「そんなつもりではなかったんだが、これは僕の失言だな。申し訳ない」
薫子に向かって頭を下げた。
「あ、いえ、こちらこそ失礼致しました」
と応えた時、
「では、改めて三枝薫子君は、どんな話を聞かせてくれるのかな?」
『え?名前で言われた?』薫子は驚くが、ここで引いては挙手した甲斐がない。
そこで考えを口にした。
「貴重なお時間に発言する機会を与えて下さり、また名前まで覚えて下さって頂き有難うございます。私は"帰りたくなる家"を造りたいです」
「帰りたくなる家?」
「はい、先程、助教授はコンクリート造りの公団住宅の様な仮住まいでも安価で家族が暮らせる住宅に必要性を感じている…と仰いましたが、その多くが画一化された空間です。間取りも日当たりもそう大きくは変わらない、住まう人の個性は家具の置き方や使う道具の違いだけ、それでは自宅に帰った時、本当に落ち着いて身体を休めることが出来る"家"と言えるのでしょうか?」
「帰りたくなる家の本質はどこに求める?」
「仮住まいでありながらもコンクリート造りではなく、在来軸組工法による安らぎを与えてくれる木の香りがする高層集合住宅をと考えました」
「火災リスクを抑える為防火上の理由で元々三階以上の建物は建てられないことは知っているね?」
「もちろんです。しかも在来軸組は点と線で支える為、地震や風による横揺れに弱いことも存じております。しかしながら三十年ほど前に理論上、接合部分の強度、板を貼り合わせたものでの補強技術などのお考えを提唱された建築士の方がいらしゃいました。ただその後、どこを探しても継続して研究を重ねられた結果が見当たりません。先程、助教授がちょうど、どの様な家を設計したいか?と投げかけて下さったので、お尋ねしたい事もあり発言させて頂いたのですが、法制上の問題はともかく、その理論が何故検案されず放置されたのかをご存じであればと……」
静まり返っていたはずの講義室が妙に騒めいた時、薫子は『あれ?私何か変な事言った?』と思う。
文字だらけのエピソードが続きます!
皆様の建築学への好奇心を高める元になればとは思いますが、何なら飛ばし読みでも大丈夫です(笑)




