第八十三話 お庭にプール!
しばらくして、お互い泣き止むと照れくさそうに祐希が言う。
「プールあるの見た?」
「あ、リビングの外だよね?」
「ここ年二回、庭の剪定と家の清掃に入って貰うのが定例なってて、たまたまそれが一昨日だったんだよね」
「もしかしてその時、日本にもういたって事?」
「ごめん、怒られるとは思ったけど、プールが使えるか業者に来て貰ったりあったし、あとバイクの慣らし運転もしたかったから」
「ふうん」
ちょっと不満げな薫子。
「どうしてもカコちゃんと泳ぎたくて!あれ温水プールなんだ!着いた時に始動しておいたから、もう循環して水もキレイになってる……泳がない?」
「だって水着ないもん」
「……そうかぁ、そうだよね……」
「琥原くんは着替えがあるなら泳いだら?」
「でも……まあ、とにかく雨も止んだし、陽も差してるからプールサイドには出てみない?」
薫子は祐希にまた手を引かれリビングに移動した。
大きな窓ガラスはスライドすると三枚が一枚のガラスに重なる様になっていた。
祐希は薫子に背中の傷を見せたあと、薫子がその先の話をまだしなくていいよと言ってくれた上に、一緒に泣いてくれた優しさが嬉しくて、少しはしゃいでいた。
スウェットの上下を脱ぐとトランクス型の水着を身につけている祐希。
「やっぱり!泳ぐ気満々じゃない!」
薫子が笑った。
それを皮切りの様に飛び込む祐希の水飛沫が薫子にかかった。
「もぅー!かかった!」
笑いながら、祐希のクロールを泳ぐストロークの綺麗さに息を呑む。
『何でも出来ちゃうんだね……』
プールサイドにしゃがんで祐希の泳ぐ背中を見ていた薫子は
「え?どこ?琥原くん?」
ターン側で折り返しした後、姿が見えなくなった。
「あっ!!」
水飛沫《みずしぶき》が上がったと同時に、腕を取られた薫子はプールの中に一瞬にして引き込まれる。
水面《みなも》に顔を出す薫子。
「もうっ!!何すんの!!」
祐希に怒るも
「怒った顔も可愛い」
と言われ、カアッと顔が熱くなるのが分かる。
そして薫子は足が下に届いてないことと着ていたバスローブの裾が紐の結びのところまで上がって来ているのに気づき
「上がるからね!」
出発端側の階段状になっているところまで泳ごうとした時、祐希に抱き止められて水中でキスされた。
「ちょっと!溺れちゃう!」
と言いながらも何だか楽しくなって来た薫子は祐希の腕から逃れてターン側に泳ぎ始めた。
着衣水泳は思ったより自由は効かないものの出来ないわけではなかった。
むしろ泳いだ方が裾が上がらず開かないのでターン側で上がろうと考えたのだ。
ただ、祐希はその横をまるで船に沿って楽しむ為に現れるイルカの様に、しなやかな泳ぎで薫子について来る。
そして、また途中で……しかもプール中央の一番深みのあるところで薫子は捕まり、祐希は自分より高い位置に彼女の上半身が水面《すいめん》から出る位置に抱き上げた。
「こんなのフェアじゃないと思うんだけど」
薫子が言うと
「そうだよね、バスローブは重いけど、カコちゃんなら大丈夫だと思ってた」
「……何で泳げるの知ってるの?」
「三枝家の玄関に表彰状があったから」
「え!!あれ見たの!?うわーまだ飾ってあったんだっけ……過去の遺物」
「すごいじゃん、小学生6年生の部、都大会で一位でしょ?」
「あんなのスイミングスクール内の大会だから」
「でも一位は一位です」
「最初で最後の一位だったから、ものすごくやる気満々だったけど……さすがに他のスクールとの競合の全国は厳しかったよ……みんな大きくて、身長がもの言うとは思ってもみなくて、決勝戦は出られたけど六位だった」
「全国で六位!すごい!」
「でも六位はやっぱり悔しくて泣きっぱなしだった……親は私が未熟児で生まれて生死を彷徨ったから身体を丈夫にしたいって思って幼稚園の年長から始めさせられたスイミングだったんだけど思ったより自分の方が入れ込んでたみたい……帰りの車の中で母が"ごめんね、お腹の中でちゃんと育ててあげられたら、もっと大きくなってだはずだったのに"って泣かれて気づいたんだよね……記録じゃないんだって」
「そうだったんだ」
「お気づきの通り、父は179センチ、母は171センチの高身長です!だから母は悔しがる私を見て、そんな風に思っちゃったんだなぁと思ったら申し訳なくなっちゃって……その後、小さいおじいちゃんのところから弓道やらんか?って言われてスイミングすぐやめて飛びついちゃった!まあ泳ぐのは好きだけどね……」
いつもと反対の顔の位置にお互いドキドキしてる。
「俺とどっちが好き?」
「え?比べる?」
「言うまでプールから出さない」
「何言ってんの!」
薫子は笑いながら両手で思いっきり水飛沫《みずしぶき》を祐希の顔にかけて抱きしめていた腕から逃れた。
一度潜ってジャンプして薫子はプールサイドに上がった。




