第八十一話 びしょ濡れだった
薫子はドアをそっと開けてみる。
玄関の脇に上着掛け様の洒落た黒鉄のフックが数個あり、そこにハンガーにかかった薫子のジャケットと祐希のライダースジャケットが横並びにかかっていた。
バイクも玄関の石タイルのたたきに入れてある。
上り框に、こちらに背を向けて座っている祐希の後ろ姿が見えた。
「琥原くん、お先に有難う」
「うん」
ドアを少し開いて隠れるようにしながら薫子が声をかけると祐希が振り向き
「ジーパンは乾燥機に入れようか?」
と言いながら近づいて来るのを薫子は
「ちょっと待って」
「え?」
「あの私……ジーパンだけじゃなくて全部濡れちゃってて……バスローブお借りしました」
「え!!そんな?じゃ、シャワー浴びる?冷えてない?お風呂沸かそうか?」
慌てる祐希に
「服だけだから、私は大丈夫」
「本当に?」
「うん、それより琥原くんは、ここに着替えとか置いてあるんでしょ?琥原くんの方が風邪ひいちゃうよ、早く着替えて」
「でも…」
「ここにいるから」
「じゃ、玄関前のドアの先にリビングがあるからそっちで待ってて」
「分かった」
「その抱えてるのって濡れものだよね?」
「あーうん」
「じゃ、一緒に乾かすから」
「でも……」
「あ、そっか……じゃジーパンだけまずは一緒に乾燥機に入れていい?」
「あ、そうだね、ヨロシクお願いします」
「じゃ、預かるね」
祐希はランドリールームのドアを閉めた。
玄関に戻る。
改めて玄関呼ぶよりも玄関室と呼ぶのに相応しいと薫子はその広さに震えた。
「私の部屋の倍以上ありそうだよね」
薫子の部屋は七畳ほど。
決して狭い方ではないはずだ。
玄関を中央に左廊下側にランドリールームがあると言うことは一番奥が多分バスルーム、一番手前がトイレかと思われ、右手の廊下側は居室なのかドアが二つ見えている。
どちら側も外側には等間隔に腰高の両開きの窓が見えている。もちろん窓枠とレバーは黒鉄だ。
玄関前のドアと言っても普通のドアではない。
これもまたステンドグラスが何枚か入っている両開きの大きな扉と言ってもいいくらいのドア。
取っ手は飾りのついた、ここも黒鉄のレバーになっている。
全開にしたら、きっと、玄関からそのままリビングへと開放感があるスペースとなるのだろう。
薫子は右側のドアだけ開けて、そろりと中に入った。
白い漆喰《しっくい》の壁。
リビングは高さのある天井に何畳あるのかと思うくらいに奥行きがある。扉を挟んで両側に繋がる壁面だけでも左右に七〜八メートルほどはありそうだ。
左手に伸びた壁の途中には暖炉が見えていて、その先には少し間が空いてカウンターがある。多分間が空いてるところがキッチンに繋がる場所なのだろう。
どちらかと言うと飾り気がないが、柱があるのか?と思われるくらいに右手はその天井の高さまである窓ガラスがずっと奥まで続いていた。
外側に少しアールがかかっている様にも見える。
暖炉の前にだけ大きな楕円型の段通《だんつう》※が敷かれ、その上にシンプルな木調のソファが置いてある。
薫子はソファの下にフリースでくるんだ服を置くと、腰掛けて祐希を待つことにした。
※最高級の手織りじゅうたん




