第七十八話 アルバイトの成果
「これ二人乗りなんだ」
祐希が路肩に停めてあるバイクに案内する。
HONDA CB400NスーパーホークIII
コスモブラックメタリック
全体は黒を基調にガソリンタンク部分は赤、パーツはメタリックカラーと言うシックなカラーのバイク。
シートが分厚くクッション性に優れ、後部座席との段差はあるも二人乗での長距離移動も楽と言われているタイプ。
さらに今までのCB400に比べると後部に乗る人のことを考えてあり、座面が反っているに沿うような持ち手がある為、急なブレーキの際でも後ろにズレることなく乗れる様に配慮してある。
実は、祐希はハワイでの稼ぎが思った以上になったので、結局、販売開始したばかりの新車を買ったのだ。
「これで電車に乗らなくても遠出できる」
「オートバイだったんだね……」
「怖い?」
「ううん、驚いただけ……これ買うためにバイトしとくれたって事なんだよね……」
「カコちゃんを電車に乗せたくなかったし、俺超ヤキモチ焼きだって気づいたら、もうバイクが欲しくて……自宅まで送り迎えが出来るから。でも本当は車の免許も持ってるから車の方が安全だって分かってるけど……」
「とんでもないよ!自動車なんて維持費だって大変だもの。でも、そんな私を電車に乗せたくないなんて、ちょっとビックリだけど……ただ、こんな大きなもの二人の為にって一人で頑張ってくれたなんてって思って……有難う琥原くん!!」
薫子が目をキラキラさせて祐希を見上げた。
「カコちゃん……待たせてごめんね」
祐希が薫子を抱きしめようとした時、
「乗る時は、ヘルメット被らないといけないんだよね?」
不意に視線をかわされ、
『これこれ、いつもの感じ』
祐希は心の中で思って笑った。
「カコちゃん用はこれです」
バイクの後ろに下げてあったヘルメットを差し出す。
薫子はそれを見て
「カッコいい」
赤いジェット型のヘルメットを受け取る。
左横に流れ星の模様が銀色で塗装されていた。
「お揃いのメーカーのヘルメットなんだけど形違いで、カコちゃんの流れ星は俺がデザインしたのをバイク屋のおっちゃんに頼んで入れて貰ったんだ」
「私用に?」
「そう、カコちゃん専用って分かるように」
「琥原くんのはどんなの?」
「これ、同じアライってとこのなんだけど、前に乗るからちょっと違うタイプ」
フルフェイス黒のラパイド・ネオを見せる。
「それもカッコいいね!被って見せて!」
「その前に、座ってみて」
祐希はバイクをチラッと見ると、
薫子を軽々と子供抱き上げるように持ち上げてシートに座らせる。
ちょっと子供扱いされて薫子はムッとしたが、
「フカフカ」
シートの座り心地の良さにすぐに機嫌を直す。
「まずは十五分くらいは大丈夫そうかな?」
祐希に聞かれ
「うん!大丈夫!」
「今はちょっと傾いてるから足は着くと思うけど走り出したら、ここに足乗せてね」
「あ、うん」
「リュックの中に何かヤッケみたいなのある?」
「えーと、あるけど」
「どんなの?」
背中のリュックから薫子が出したのはモンベルの赤いジャケット。
こちらもゴアテックス素材の雨風に強い優れものだ。
「いいね!さすがカコちゃん」
「あ、これは家族で山登り様に父がこだわって…」
「三枝さんは本当にいいものを分かってる……じゃ今来てるトレーナーは脱いで、こっち着て」
差し出されたのは同じくモンベルのオーロンフリースと呼ばれる素材のプルオーバーだ。
もちろん色は赤。
「全部赤…」
「俺は黒、バイクの色に合わせてみた」
ドヤ顔の祐希。
「で、その上からジャケット着て前は閉めてね、バイクって風が直接当たって寒く感じるから」
「俺も雨が降るとライダースジャケットは皮だからアウトなんだけど……フリースはお揃い買ったし、まさかカコちゃんがモンベルのジャケット持ってるとは思わなかったけど、俺も色違い持ってる」
「全部お揃いになるかもってこと?」
「そう、色違いだけど」
「でも今日の琥原くんはそのジャケットに黒のワークブーツが似合ってるから……」
「え?本当」
「さっき藤棚のところで……見惚れちゃった」
薫子に言われ、祐希は顔が赤くなっているのを意識しつつ、彼女のヘルメットを取り上げると
「被っろっか」
薫子の頭をいれた。




