第七十六話 ハガキが揃った!だけじゃないっ!
九月二十五日 木曜日。
六十枚のハガキが揃った。
途中、何らかの郵便事情で途切れても、まとめて数枚届いたりして、祐希がほぼ毎日送ってくれていたのが分かる。
何色の色鉛筆を重ねて描いたのだろう。
空の青、海の青、紫陽花の青だけでも数色の色が少しずつ違う色の組み合わせが見て取れた。
六十センチ×百四十八センチの迫力ある大きさの画面いっぱいいっぱいに描かれているのではなく白抜きの部分もありまわりがほんのりぼやけているのも、また味がある描き方だった。
『もう少しで琥原くん帰って来るんだよね』
ところがその日の午後七時ごろ電話が鳴り……
夕飯作りを終えたところで『どっちか遅くなるのかな?』と未だ帰らぬ両親のどちらかからの電話かと思い受話器を取った。
「もしもし?三枝でございますが」
薫子が応える。
「もしもしカコちゃん?」
「え!?琥原くん?え?え?」
「ただいま」
「お、おかえりなさい?今月いっぱいバイトじゃなかったの!?」
「少しだけど早く帰って来た!で、デートのお誘いなんだけど」
「デート!!」
「うん、明日会える?」
「明日?うん大丈夫」
「朝早くてもいい?」
「もちろん」
「じゃ、上池の藤棚のベンチに朝7時に」
「朝7時?上池の藤棚のベンチに?」
「うん」
「分かった!」
「それで下はジーパンにスニーカーで大丈夫なんだけど山登りに行ける様な格好で来てくれる?」
「うん」
「じゃ、また明日!」
「あ、うん、また明日」
早く帰って来てくれて嬉しいはずが、あっさり祐希に電話を切られてちょっとガッカリした薫子だった。




