第七十四話 初めてのハガキ
五日後、祐希から初めてのハガキが届いた。
「え?何?これ」
色鉛筆で青く彩られた絵ハガキ。
厚手の画用紙をハガキサイズに切ったもの。
ハサミやカッターで切ったようには見えないので、このサイズの無地の画用紙があるのだろう。
「何枚かで一枚の絵になるのかな?」
薫子は考え、自室の白い壁の真ん中に最初の一枚をセロハンテープを丸めて輪っかにして貼ってみた。
郵便屋さんが来るのが楽しみになった薫子がハガキを持って玄関に入ると、ピーちゃんも喜ぶ。
表書きを見ると、
「琥原くん、アルファベットもキレイ」
PAR AVIONも書き慣れた感じがカッコいい。
「昨日のと繋がるのかな?」
今日のハガキも青一色だった。
毎日大学に行って製図室で、ル・コルビュジエのサヴォア邸のトレースを仕上げるべく頑張るも、男子学生の様に泊まり込みまでするには、さすがに出来ず。
朝九時に登校し一度家に帰ってお昼ご飯をピーちゃんと食べたら、また大学へ行き午後五時まで作業をし、仕事をしている両親より先に帰って夕飯を作って待つのが日課になっていた。
祐希が渡航してから半月が過ぎた。
どうやらハガキは横置きに上から一列十枚で一段らしい。
青一色と思ったが空らしく、様々な青を使って絶妙な風合いを見せている。
この先が楽しみになって来たと思ったのは次の列だったが、何か考えがあるとみえて二段目の一枚目の次は二段目の十枚目と思われるハガキが届いた。
次は三段目の一枚目、次は十枚目……。
どうやら六段目が一番下の列らしく続けて十枚届くと思われる。それが過ぎたら次は二段目の中八枚が届くのだろうか?
壁にちょっとしたスケールの絵画が出来上がる頃、祐希が帰ってくると思うと毎日が楽しみでしかなかった。
そして、ようやく薫子が模型を完成させた頃、時は八月も末になっていた。
時折、夕立と雷に祟られながらも、ご近所さんにお願いして、古い木造家屋の実測実習を一人で黙々とこなしている。
その頃、半分くらい埋まって来た壁の絵ハガキは、あの日の鎌倉の成就院の坂の上から見た海まで続く紫陽花の坂道。
二段目の八枚目に少し頭が見えていた。
三段目はもう分かっていた。
薫子の髪が風に吹かれて、左手で耳に掛けている横顔。
微笑んでいるのが分かる。
「ピーちゃん、琥原くんは一体いつから、これ描いてくれてたんだろうね……」
ピーちゃんは嬉しそうに薫子と壁のハガキ絵の薫子を見てる。
「今頃何してるのかな……」




