第七十話 知らなかったのは私だけ?
恋人ベンチ。
手を引きながらも移動中も何も言わずに俯いたまま泣きじゃくる薫子に祐希は困っていた。
早い段階で話さないとならないと思うも恋人時間が楽しければ楽しいほど気が引けて言い出せなかった祐希。
薄着になった薫子の半袖から出ている腕にさえドキドキして彼女に近づきたくなる自分を誤魔化すのも限界点。
話すきっかけを失って延ばし延ばしにしていたハワイ行きは来週の月曜の夜便だった。
キスして以来の恋人ベンチ。
この前と同じ並びで腰掛ける。
「ごめん」
まずは謝る祐希に薫子は子供様に泣きじゃくりながら、
「何で私だけ……し、し、知らないの?」
『最近ようやく普通の話し言葉を使ってくれる様になって来たところだったのに……こんなこと俺って本当にバカだ』
「本当は一ヶ月前に、もう決めてて……でも話したのはそのバイト先のオーナーが親父さんの木元だけで……誰から聞いたの?」
「す、鈴木さ…ん」
『あぁ、あん時カフェコーナーにいたか……聞き耳立ててんだな……しくった』
「知ってるのは木元だけ、多分鈴木には木元と話してるところを聞かれたんだと思う……話すタイミングが掴めなくて、本当にごめん」
「本当に……わ、わ私だけ、しら、知らなかっ…たんじゃ、な、な、ないの?」
「違うよ」
と言って薫子の肩を抱き寄せた。
薫子は祐希の胸に顔を押し当てて、しばらく肩がしゃくり上げる度に動いていたが、少し落ち着いて来た様だ。
ポツリポツリ祐希が話し出す。
「俺も夏休みはカコちゃんと課題やったりしたかったんだよ。だけど……正直に言うと俺バイトとかした事なくて、親の金で何でも済ませて来たんだけど、今回はどうしても自分の稼いだ金で買いたいものが出来て……」
「バイトなら……レオさんのところでお願いすればいいじゃない……」
「あれは、たまたま高三の夏休みがヒマで、桜さんが出産直後で人手不足だったからなだけで」
「どうしてハワイなの?」
「それは日本より早く沢山稼げるから」
「……そんな、遠くまで行ってまで、何が欲しいの?……会えなくて…も、さ、寂しくないの?」
また泣き出す薫子は、肩に回されていた祐希の手を振りほどいて、今回は自分のバッグからタオルハンカチを出して顔を隠すように覆っている。
『会いたい時、どうすればいいの?』と、薫子は思っていた。




