第六十六話 夢心地
そして数分後。
薫子は祐希の肩のあたりにもたれ掛かり、彼の左手を自分の膝の上で両手で握りしめている。
祐希の右腕はその薫子を支える様に背中側に回されてベンチに手を着いていた。
「ごめん」
謝る祐希に
「どうして謝るの?」
「いきなりこんな事して……でも志木先生ともCONYの店長とも楽しそうに話してるのに俺とは昨日から目も合わせてくれないから……俺、こんなに自分がヤキモチ焼きだと思わなかった。独占欲の塊みたいで恥ずかしいよ」
「私は嬉しかったよ」
「え?」
「好きだから」
「本当に?」
「本当だよ……何だか分からないことでクヨクヨしてたのがバカだったなぁって分かったし」
「その分からない事って昨日やっぱり何かあったんだよね?」
「んー、噂話?」
『あれ?カコちゃん、ですます調じゃないけど……』と祐希は思いながらも続けて尋ねる。
「噂話って?」
「琥原くんが実は女の子で」
「それ誰が言ったの?!」
「最後まで聞いて」
「うん……」
「中学生の頃、肌が弱いからって理由だったけど、夏も冬も長袖長ズボン、体育の時は別更衣室、プールも入らない色白の可愛い子ちゃん。高校生になってもそれは続いて、女子達からは男装の麗人扱いで告白もされる……成長して身長が高くなったのはお母さんが外人さんでモデル並みに綺麗な人だったから、って」
「何それ?俺の両親は生粋の日本人だけど……本当に誰がそんな口から出まかせ言ったの?」
祐希が薫子の顔を覗き込みながら怒った様に言う。
「い・い・の」
と言いながら祐希の鼻をちょんと指で突っつくと薫子が続ける。
明らかにいつも薫子ではない。
「そんな事どうでもいいって分かったの。だって私は琥原くんが好きだから、これは誰に何て言われても変えられない気持ちなんだって分かったから、もういいんだってば」
祐希の方を見上げた。
薫子の瞳が潤んで、頬は上気しほんのり紅い。
いつもと様子が違う薫子に戸惑いを隠せずに、
「あのさ、いつもの丁寧語じゃないのは何か理由があるのかな?」
「え?だってこれ夢だよね?」
今度は祐希の方が
「え?」
薫子が真っ赤になって目が今覚めた様に
「嘘!現実!?」
「現実」
「……」
薫子は、今まで祐希に寄りかかっていた姿勢を正すと、両手を膝に固まってしまう。
口づけの最中、一瞬気が遠くなり、その後フワフワした気持ちになって現実感がなくなっていたらしい。
「もう一回キスしていい?」
祐希がクスクス笑いながら言う。
「意地悪です」
と薫子。
「でももう一度キスしたら、さっきみたいに普通に話してくれるカコちゃんに戻ってくれるかもしれないよね?」
「意地悪ですね」
「本当はね、カコちゃんも俺も慣れてないから初めてのキスはデートの帰りとかに自然にって思ってたんだ。だからやり直したいって気持ちがあるんだけどな……ごめん一人で突っ走って」
頬を染めた祐希からの本音を聞いて、『私もそう思ってたよ』と思う薫子。
祐希の強い気持ちを知って、その事をむしろ嬉しく思った自分にも気づき、向き合えて良かったと思っていた。




