第六十五話 小田切のたくらみにハマって……
店を出て階段を小走りに降りる薫子。
「遅いっ」と祐希は怒鳴りそうなくらい苛立っていた。
が、そんな事とは思いもしない薫子から
「店長さんに可愛いから、うちでバイトしない?って誘われちゃいましたぁ」
はにかみながら言われた祐希は物凄い勢いで立ち上がると、薫子の腕を掴んで、一瞬CONYの方を睨みつけると右に向かって歩き始めた。
「え?え?」
祐希に腕を引かれて引きずられるように立ち去る時、薫子もCONYのガラス窓のから小田切が親指を立ててニッコリした顔が見えた。
すごい早足で歩く祐希の一歩が、薫子の数歩で、ほぼ小走り状態。
左右の手にはそれぞれ祐希のTシャツが入った袋と財布と言う、変な状況。
すれ違う人達が除けるくらいの気迫で祐希はどんどん歩いて行く。
そして着いたところは
"恋人ベンチ"と呼ばれるところ。
井の頭公園の一角、植栽で区切られた遊歩道側からは広く取った段を一段降る。
間隔も離れたそれぞれのベンチとも植え込みに視界を遮られ、そこのベンチにいることすら見えない場所。
ただし、池のボートや白鳥ボートに乗っている人や遠いが対岸からは見えてしまう微妙なところ。
しかしながら恋人同士がイチャイチャするには絶好の場所だ。
ところどころ遊歩道側から入れるところが開いているが、池側に一段降りないとベンチが空いているかも分からないのに、祐希は真ん中あたりの段を降りた。
ともかく…
ベンチは空いていた。
祐希は先にベンチに自分と薫子のDバッグを並べておくと、薫子をその手前に座らせて、横にどっかりと座る。
『店長さんは何とかしてくれるって言ってだけど……琥原くんは怒ってるみたいだし……これからどうなるの?』と思いながら薫子は財布とTシャツの入った袋を自分のバッグにしまい終わる。
その時!
いきなり祐希の右手が薫子の腰に回り引き寄せたと思うと、振り向いた彼女の後頭部と首の辺りを左手で押さえ……祐希は薫子に口づけした。
薫子は初めての事に固まって息が出来ず、もがくも祐希の力が強すぎて抗えない。
ちょうど両手のこぶしが祐希と自分の間にあっても押し返す事も出来ず、合気道の極意などすっかり抜けてしまって、急に力が入らなくなる。
顔の向きを変えながら続く祐希の口づけに、どのくらい経ったのか、ぼんやりした時首筋にチクッとした痛みを感じた。
が、また唇が戻ってきて唇を塞がれた。




