第六十二話 モヤモヤしながらランチ
昼過ぎ。
道場の清掃も終わり、最後に志木が
「少ない人数にも関わらずお疲れ様でした。今日の事はとりあえず僕の方から五代先生と主事先生にお伝えしておきますので、君達はご心配なく」
揃えたかの様に二人が
「有難うございました」
と言う。
それを見て志木は笑いながら
「息がぴったりですね。またお会い出来る日を楽しみにしていますよ」
と言って校舎に入って行ってしまった。
いつもなら、ここから二人で昼ご飯を食べにぶらぶら吉祥寺駅の方に向かうが……
祐希が思い切って薫子に話しかける。
「あのさ、ちょっと前に美味しいサンドイッチのお店が駅前に出来て、玉子サンドが三種類あるんだ」
「玉子サンドが3種類ですか?」
ちょっと笑顔になった薫子に
『くいついた!』と祐希が畳み掛ける。
「普通のゆで卵にマヨネーズのと、厚焼き玉子のサンドと卵とベーコンとブロッコリーのオムレツにチーズがかかってるオープンサンドがあるんだって……行ってみない?」
「行きたいです……!」
薫子は俯き加減ではあるものの口元が緩んでいた。
ただ、その後、何も喋らないまま移動。
手も繋がない。
「あのさ、俺、何かしちゃったのかな?」
と祐希。
『何かした?琥原くんは悪くない……勝手に私がモヤモヤしてるだけ』と思うも、そっけなく
「何もしてない……です」
としか言えない薫子。
そして、お目当ての店に到着すると昼の混雑は通り過ぎたのか店員に「お好きな席にどうぞ」と声掛けされた。
二人が選んだのは…というか、対面で座りたくない薫子が外に面したカウンター席に座ることを望んだので、祐希が従ってついて行く。
テーブル席は二つほど使われていたが、八席あるカウンター席は全空き、どこでも選びたい放題だった。
「ここにしましょう」
薫子が選んだのは、ど真ん中に近い席。
これはいつも薫子を端席にしか座らせない祐希なら絶対譲らない場所のはずだが、今日は薫子の意思を尊重する。
まず先にオーダーと会計を済ませるタイプの店だったので玉子サンド三種類を頼み、飲み物は運動の後なので喉が渇いてと、二人ともコーラを頼んだ。
「美味しかったです」
ちょっと笑顔が戻った薫子に祐希は嬉しそうだ。
薫子の残っているプラカップのコーラの氷が溶けて薄まっている。
玉子サンドはいつも通りシェアして食べ終わり店員が皿を下げてくれた。
薫子はコーラを少し避けて、カウンターに折り曲げた腕の中に顔を埋めた。
そして少し空いている腕の隙間から左手で頬杖を付いて外を眺めている祐希の横顔を盗み見る。
その様子に気づいた祐希が
「疲れた?」
と声を掛けると、薫子は反射的に慌てて飛び起きた瞬間、コーラのプラカップを手で払ってしまい祐希の胸あたりにヒットした。
「あ……あぁー!!ごめんなさい!どうしよう」
Dバッグからタオルを出して祐希の胸を拭こうとすると、祐希は優しくそのタオルを押し止めて
「いいよ。大丈夫」
と言った。
カウンターの上も濡れている。
そこに店員がやって来て、あとは片付けるのでと言ってくれたので任せて二人は店を出ることにした。
外に出るまで、ずっと店員に向かって薫子は謝っていた。




