第六話 また一緒に昼ごはん?
翌日の昼休み。
また一人で講義室で薫子はお弁当を開く。
今日は自分でお茶は取りに行ったところを祐希達に見られてる。
『昨日はお茶のことがあったから来てくれただけだもんね……今日はもう琥原さん来ないかな?』
実は昨日の今日なので別のタッパーにおかずだけ用意して来たのだが……祐希の姿はない。
ところが自分のお弁当を半分くらい食べた終えた頃、前扉が開いて
「三枝さん!今日も一緒にご飯食べていい?!」
と祐希が走り込んで来た。
何か手に飲み物とパンの入っていると思われる袋とは別にケーキの箱のようなものを持っている。
実は今日、祐希は学食でお茶を持って移動して行く薫子を見かけており講義室に行くには
『今日は講義室に行く理由がないなー』と思っていた。が!
「何やってんだよ!ほらまたパン買って行けよ!」と木元にドヤされた。
「でもさ」
「カコちゃん、こっち見てだぞ」
と香山。
「それに昨日の話じゃ祐希さー、カコちゃんのお弁当ほとんど食べちゃったんでしょ?ここは今度こそお礼の一つでも持って行かないとダメなヤツじゃないの?」
と草壁。木元はそれを聞くと
「えー!その話初めて聞いたわ……こいつ意外とずーずーしいヤツだったんだな!という事は…祐希!これからお前駅前まで行って不二家のプリン二つ買って講義室に行って来い」
「プリン?」
「女の子はな、たいていプリン好きだ!スプーン二つ付けてもらうのも忘れんなよ!昨日のおかずのお礼じゃなくてお返しって言えよ!さあ早く行って来い!」
木元に焚き付けられた結果、時間がかかって、ゆっくり食べる薫子ですら半分ご飯を食べ終わるところだったという訳だ。
「あれ?学食じゃなかったんですか?」
「まあ一回行ったんだけどね…ちょっと」
「走って来たんですか?汗が…もし良かったらこれ使って下さい」
大きめなピンクのタオルハンカチを差し出す。
「まだ使ってないんでキレイです……」
「あ……有難う、借りるね」
『何これー!?いい香り……』
顔汗を拭いながら祐希はぼんやりしてしまう。
「大丈夫ですか?お水でも持って来ましょうか?」
「は!ごめん大丈夫!ジュース買って来たし」
祐希は大きめな紙パックのオレンジジュースの三角口を開くとそこからゴクゴク飲み、一息つくと
「昨日はおかずを全部食べてごめんね」
「いいんです。私がどうぞって言ったんですし」
「お返しに!」
「お返し?」
「不二家のプリン!ご飯の後で一緒に食べよう!」
「お返し?…お礼じゃないんですね。」
薫子は誰の入れ知恵なんだか?と思いながら笑うと
「はい、では後で一緒に頂きます」
「やった!」
祐希の満面の笑みに薫子の心臓はまたバクバクして来た。
「実は私も今日は私のお弁当の残りじゃ申し訳ないので、これ良かったら」
別に用意したタッパーを開けながら、また立ったままで机の前にいる祐希に差し出す。もちろん割り箸だがお箸付きだ。
「えー!お返ししたのに、またお返し?あれ違うか…これまた美味しそうな…ロールキャベツ?」
「はい、どうぞ」
と紙袋から割り箸を出して祐希に渡す。
祐希は両手の親指に掛けるように割り箸を挟むと
「頂きます」
と言って持ち替えて割り箸を割る。
右手でタッパーを持ち左手で持った割り箸でロールキャベツを持ち上げ半分くらい頬張ると
「!?」
もぐもぐしながら飲み込んで、
「何?これ?鶏肉なの?ロールキャベツの中身って挽肉のはずだよね?でもなんでこんなに肉っぽさが残ってんの?」
「私が叩いて鶏むねを粗挽きにしてみたんです、
まあ言ってつくねみたいな感じかな?野菜もタンパク質も一緒に食べられると思って」
「すごいよ旨い!」
昨日はドキドキし過ぎて気づかなかったけど左利きなんだなーと思いつつ、また祐希の笑顔にやられた薫子だった。
二人の前には銀色のカップに入ったプリンが一つずつ、と白い紙ナフキンにプラスチックのスプーンが一本ずつ置いてある。
プリンは不二家感たっぷりの生クリームにサクランボが添えてある。
祐希は最初の一口を薫子に食べて貰いたくて
「お先にどうぞ」
と言った。
見られてるのは恥ずかしいと思いながらも薫子は小ぶりなスプーンでプリンを口に運んだ。
「んんー!美味しい!」
「本当?良かったー!駅前までひとっ走りしたかいあったー!!あ、さっき借りたタオルは洗ってから返すんで」
「あーいえいえ、そのままで」
「え!でも汗で汚しちゃったし」
「洗濯機が洗ってくれるんで大丈夫ですよ」
「何から何まで有難う……」
薫子の冗談めいた言い方に笑いつつも素直にお礼を言う祐希に彼女は笑顔で軽く頷くと先にタオルを手元のお弁当バッグにしまう、そのまま続けて急にそうだ!という様に
「あの!その駅前?ってまさかこれ不二家さんのプリンをわざわざ買いに行って来て下さったんですか?」
「そうそう、美味しいプリンを食べて貰いたかったからさ!やっぱり美味しいよね!ここのプリン」
「あの琥原さん、何でそんなに優しいんですか?」
「えっ?」
「すごく気遣って頂いてるような気が……」
『まさか心読まれた?』
祐希は薫子のことを気になる存在としての自覚があったが、薫子が少しでも自分に関心がなかったら友達としての立場もなくすかもと、まだ自分の気持ちを語る自信もなく『不登校の一ヶ月を埋めて早く近づきたいんだ』とも言えなくて、ありきたりの返答をした。
「見ず知らず同然の俺にノート貸してくれたり、髪の毛が入るなんて目の心配までしてくれて……タンパク質と野菜食べなきゃなんて言ってくれた人、今までいなかったから……それじゃ答えにならないかな?」
と返され一瞬、胸がギュッとなった薫子だったが、『この症状』は祐希と出会ってから続いているので理由は分からない。
「もうお友達と言わせて頂けるなら、そんな事は当たり前ですよ!元々学友ではあるし」
と返す。
『お友達か……泣、はっきり言うな…』と祐希は思いながらも切り返して
「俺達もう友達だよね!それじゃあさ、俺も聞いていいかな?」
「なんですか?」
「三枝さんの考える友達の定義って何?」
「お友達の定義?えーとどんな事を言えばいいんでしょう?」
「まあノートの貸し借りとかは普通だよね?あと例えば、教材買いにとかでも買い物に行くとかはオッケーなのかな?」
「画材とかもお勧めのものとか教えて頂けるなら嬉しいし、わいわい皆さんと行けたら楽しそうですよね!」
『えっ?既に二人っきりでご飯食べてるんですけど、二人で出かけるはなし?』と思いながらも嬉しそうに笑ってる薫子の顔を見たら、
「そうだねー」
しょげ笑いをした祐希だった。




