第五十八話 朝からモヤモヤの薫子
翌朝。
自分のベッドで目が覚めた薫子は目の前にピーちゃんがいて「ウォーン!」と大きな声で鳴いた。
すると慌てて月子がやって来てベッドの横に跪くと薫子のおでこに乗ってたタオルをよけ自分の額をくっつけて
「熱は下がったみたいね!ピーちゃんが心配してカコから離れないかったのよ」
薫子の頭の下にあった氷枕とおでこに乗っていたタオルを持って立ち上がる。
「お腹空いたでしょ?今、卵がゆ持って来るから」
そう言われて、昨日の出来事を思い出す。
勢いで仕上げた透視図法の清書のインクが乾かないうちに帰っていいと言われて、だが、それは百中の一人として、やってはダメな事だからと最後まで頑張ったのは覚えている。
帰りに信号待ちしていたら車の中から誰かに呼び止められて『……パパだった、あっ、そうかそれで安心して車で寝ちゃったんだなぁ、私』と回想しながら時計を見る。
「八時!!遅刻する!」
今日は土曜日、だが一限の英語も二限の体育の弓道も祐希と一緒だと思うと実は気が重かった。
というのも、日曜日の朝からデートは鎌倉で二回目ではあったが、土曜日の弓道の後はちょっとしたランチデートは重ねていたからだ。
もう仕事に出ていた父親はともかく、母月子が
「今日は休めば?」
と言うのを振り切って大学に向かうために木戸を出たところ、向かいの公園の柵に腰掛けてる祐希が待っていた。
薫子は予期せぬ事に喉がゴクリと鳴った。
「琥原くん」
「おはよう、カコちゃん」
「おはようございます」
歩き始める薫子の後を追う様に祐希が言った。
「昨日は体調も良くなかったのに一人で帰っちゃったんだね。どうしてそう言う時に頼りにしてくれないの?」
「えー?誰が体調悪いなんて言ったんですか?」
「遅いから迎えに行ったら坂崎さんがそう言ってた。熱があるっぽかったって」
「父の車に拾って貰ったんです」
「約束だったの?」
「んーそうではないですけど」
「ねぇ、こっち見て」
「急がないと遅刻します!」
薫子は走り出した。
一限の英語。
この後の体育の実技を考えると落ちつかない。
そんな時に限って講師が用事があるのか早めに終わり、二限開始まで三十分以上時間が空いてしまった。
二限は、この学科の百人中の何故か薫子と祐希だけが選択している弓道。
移動も二人だけになる。
英語の講義室を出た二人は無口なまま一緒に旧校舎の方にある非常口から出た右手奥に弓道場に向かう。
途中、薫子が
「ちょっと寄るんで……お先にどうぞ」
「ん、分かった」
弓道場には更衣室はあるがトイレはない。
それを理由に少しでも祐希と距離を取りたかった薫子は昨日の今日でまだまだ未消化な気持ちに囚われていた。




