第五十四話 有る事無い事爆弾
その後、しばらく呆然する薫子。
『こんな事って本当にあるんだ……』
持っていたハンカチでは間に合わないほどずぶ濡れだった。
「あ、着替え……琥原くんに預けちゃってた。取りに行かないと」
廊下に出ようと後ろを振り返ったその時、真後ろにマリが立っていた。
驚きのあまり声も出ない。
そこにすました表情でマリが聞く。
「あなた祐希とはどこまで行ったの?」
「どこ?って、上野と鎌倉に……」
「バカなの?そんなこと聞いてんじゃないわよ!男女の関係のこと!」
「え!?」
薫子は顔が真っ赤になるのが分かった。
すると、マリが笑いながら
「あらやだお付き合いしてますって言う割にはキスもまだでしょ!遅っ!」
と言われ、薫子は返す言葉もない。
「あのね、じゃあ深みにハマる前に教えておいてあげるけど……祐希、中学生の頃、女の子じゃないか?って噂があったのよ」
「え?」
「中一の頃、それはそれは色白で小さくて可愛くて、学生服はブレザーにズボンだったから男子って皆んな思ってた。でも肌が弱くて被れやすいって理由で高校に進学しても学生服も体育の授業の時も夏でも長袖長ズボン、プールも入らないの。着替えも別室が用意されててね。うちの学校そう言う本人の気持ちに寄り添う寛容な所があって特別扱いされてたのよ。だから本当は女の子なんじゃないか?って噂話が流れたの」
「でも今は男子としても大きい方なんじゃ」
薫子が言うと
「あら貴方まだご家族のことも知らないのね?祐希のお母さんって外人なのよ。モデル級に綺麗な人だったんだって、ほらそれなら祐希が女の子でも身長高くてもおかしくないでしょ」
マリが笑う。
「でも皆さん琥原くんとお付き合いしたかったんですよね?女の子かもしれないのに?」
「貴方って本当にバカね。女の子だけど男装してるって事は女の子が好きって事でしょ?
綺麗な子って言うだけで一緒にいられて見せびらかせたら、それだけで十分だし、固形炭酸王子を落とせるだけでもスゴイ事じゃない!」
押し黙った薫子にマリは
「付き合って二ヶ月くらい?キスもまだって事はさ、本当は遊び相手にも考えて貰えてないんじゃないの?」
追い討ちをかける様に笑い
「じゃ、失礼」
と出て行った。
「あ、いたいた!マリ何してんの?突然いなくなるからビックリしちゃうじゃん」
セナが戻って来てマリの手を引っ張って行こうとするとマリは
「普通なら、ちょっと考えたら分かる事だけど……あの天使の顔した嫌味な子は、他人に言われたことを素直に受け取りそうだから、"有る事無い事爆弾"落として来てやったわ!!」
高笑いしながら言い放った。
聖奈は『有る事無い事爆弾!?って』木元ちゃんに伝えたいけど今はとにかくマリを薫子から引き離さないと考えて文学部のある新校舎に向かってマリを一緒に走らせる。
聖奈は木元の恋人であり、将来を約束した婚約者、そしてマリの見張りだった。




