第四話 一緒にお昼?!
二限が終わると昼休みだ。
下の方から草壁が
「カコちゃん、一緒に学食行かない?」
と声を掛けてくれたが、
「仲良く四人組さんが揃うのもお久しぶりだと思うので、今日はここで食べます」
と答える。
「え?いいじゃん、行こうよ」
と香山。
「でも、いつも学食は混んでて皆さん席取り大変じゃないですか……私はお弁当なので学食でご飯を買われる方に、ちょっと申し訳ないなぁと思っていたところでしたから、気にしないで皆さんで行って下さい!早くしないとまた席待ちになりますよ」
と言うのを聞くと木元が、
「まあカコちゃんがそう言うなら、無理強いしなく
ていいじゃんか、ねっカコちゃん!じゃオレら行ってくんね」
と先に歩き始めた。
「そうかあ、まあそうだね。じゃまた後でね」
と草壁も香山も歩き始めた。
琥原はと言えば振り返りもせずに他の三人の後から学食に向かって行ってしまった。
大講義室は一人用の席が故に群れる若者達はいなくなり、少しでも横になって惰眠を貪りたい者も長椅子がないが為に移動してしまうので、1人でお弁当を食べている自分に気づいて薫子は少し淋しい気持ちになっていた。
『琥原さん、朝のことで怒ってるのかな…振り向き もしないで行っちゃったよね』
学食に様々な学部の講義室から大多数が移動している時、こんな会話が薫子のいないところで交わされていた。
木元と祐希の会話。
「おい、気を利かせてやったんだぞ」
と木元。
「え?何?」
「本気でわかんねーの?」
「うん」
「カコちゃんと話ししたいんだろ?」
木元に気持ちを言い当てられてドキッとした祐希に「やっぱりなぁ!だからさ、ほら今ならカコちゃん1人でお弁当食べてんだから、お前も講義室に自分の食べたいもん買って戻れよ!どうせまたパンしか食ないんだろ、定食じゃねぇなら何処ででも食べられんだろうが、二人で話せるチャンスだぞ」
「二人で話せる!?……そっか、それでさっきはあんなあっさり三枝さんのこと」
「そーだよ、わざと置いて来た」
「有難う、木元」
と本気で嬉しそうな祐希。
「ちなみに話しかけるキッカケの小道具に〝あった かいほうじ茶”を二重コップにして持って行って
いつも飲んでるんでしょとでも声掛けしてみ」
「分かった!」
「あれ?祐希どうしたの?」と香山が聞くと
「祐希に勇気を与えてやったのさ!」
と木元が言い
「なんだーそれ!」
と草壁が言って残された3人は大爆笑した。
ため息……
『なんだか食欲ないなぁ』
と思って薫子が窓の外を見ていた時、
「三枝さん!」
と声掛けされ前側ドアの方を見ると祐希が足早に歩いてくるのが見えた。思わず席から立ち上がると、
「琥原さん、どうしたんですか?」
「いつもお弁当の時、お茶飲んでるだよね?持って来たよ、はいこれ。」
そうだった、今日は学食に行ってないから何か足りないもの、それはお茶。
「わざわざ持って来て下さったんですか?」
「えっと、温かいほうじ茶だよね?」
「あ、はい」
『紙コップが二重になってる、誰かに聞いたのか な?私が熱い飲み物を手で待つのが苦手って……』
と思いつつ、
「有難うございます」
とほうじ茶を受け取った。
「いえいえ、てかさ、俺もここで食べていい?」
「え?はい。」
自席で食べるのかと思いきや、祐希は持っていた紙袋からブリックパックの牛乳にストローを差しカレーパンと思われるものを出して包まれていたビニール袋を開けると、それ以外は自分の机に置き、それぞれを両手に持ったまま薫子の席に身体の向きを変えた。
講義室の各自の机は持ち運び製図板や資料を置くために高校などの机に比べるとかなり大きめだったので、薫子がお弁当を広げていても、祐希の席側の方にはまだ余裕があった。
祐希は右手に牛乳、左手にカレーパンを持っていて
「こっち側に牛乳パック置いてもいいかな?」
と薫子から見ると左側に既に置こうとしている。
「あの、まさか立ったままご飯食べますか?」
「せっかくだから話しながら食べたいんだけど…ダメ?」
「ご飯は座って食べた方が……」
と言いかけた時、
「あのさ、ノートのことなんだけど」
「はい?」
「本当に連休前に借りられて助かったって話ししてもいいかな?それと髪の毛のこと」
「さっぱりされたんですね。」
「ノート借りた日、あの後すぐ床屋に行った。三枝さんに目に入ると良くないって言われたから」
「あ、つい……余計なお世話でしたよね……」
「あれも助かったんだよ」
「え?……」
「学年担任に相談したら出席日数もギリなところではあったんだけど実技はどうなる?みたいな話が出てて、でも病欠扱いにして貰えたって経緯もあってね」
と言うと祐希は一呼吸おいて
「連休中、講義は休みでも研究棟に来てる先生方に学年担任が掛け合ってくれて、まず物理の実験は実験中のビデオ見たあとレポート提出で済んで……その時、三枝さんの私的考察にものすごく助けられてさ……これは勝手に利用してごめんなさいなんだけど……」
ここでカレーパンを一口と牛乳をゴクリ。
「お役に立てたのであれば別に……」
と薫子。
「三枝さん、俺勝手に喋るからご飯食べてね」
「あ!はい……」
「あと製図実習は連休合間の三日間、朝九時から夕方五時までなら製図の高見沢教授が製図室使っていいって言ってくれて皆んなに追いついたんだ」
「線引きをですか!!?」
「うん、それに床屋に行ってから物理も製図の教授にも挨拶に行けたのもラッキーだった。だってその時あの髪型のままだったらやる気あんのかって思われても仕方なかったし、それじゃなくても地毛なのにこんな髪色だから中高から先生受け悪いし、何回も黒染めしろって言われた事もあるし」
大きめカレーパン五口で完食。
製図の線引きの実技に苦労した薫子は三日連続で、それをこなしたと言う話だけでも驚きだったが、蜂蜜色の髪色が地毛と聞いてもっとビックリした。
「それで中高の時は黒染めさせられたんですか?」
「さすがにしなかったよ、これも俺の個性だから……って言うかさ、もう三枝さんにノート借りた時に指導もされて福の蓄積は始まってたんじゃないかな?って思ったわけ」
「あの時、その私としては……女子は私一人ですから男子の方々とは対等でないとと、常に変に気を張り過ぎて皆さんのご厚意に対しては、むしろ失礼な態度を取っていたのではと思っていたところでして……」
「何で?」
いつの間にかメロンパンをばくり。
そして祐希の方が薫子からの話を聞く体勢に。
「皆さん優しい方ばかりで何かとお気遣い頂いて、ノートを貸したくらいで食事をお礼にと言われたり、製図室は遠いからなのか荷物待とうか?って知らない方に声かけて頂いたり……でもそれは、どれも自分のためで何のためにここにいるのか?って事になりますから……それでも失礼なお断りの仕方をしていたかもと」
「他人に甘えないって決めたんだよね?」
「はい、一つご厚意に甘えたらキリも無くなるとも思いましたし」
「三枝さんってさ、つい守って上げたくなっちゃう様な感じに見えるけど芯はしっかりした女性なんだね」
「私が?芯がしっかり?」
「俺なんかより、よっぽど筋も通ってると思うよ。」
メロンパン完食。
「そう……ですか?」
「でも三枝さんはそれでいいと思う」
牛乳飲んで、最後のパンのクリームパン一口。
「え?」
「だってこの大学に来た理由は建築士なりたいからなんでしょ?だからきちんと将来を見据えて誰にも頼らず自分で頑張ってるところなのに手を貸されたら有難迷惑ってことだよね」
薫子はうんうんと小さく頷くと、祐希は続けて、
「それにさ大学には入ったけど、建築士になる試験はこれからなんだから俺は今がやっとスタートラインだと思うし、それに建築士になれたとしても……
三枝さんには酷な言い方かもしれないけど、まだまだ建築の社会は男中心だから、今から甘えず頑張るって考えられるのは立派な事だよ!だから三枝さんは自分の初心を変えなくていいと思う」
と自分で言って頷く祐希に、
「そんなこと言われたの初めてです……何だか嬉しい」
頬を赤らめた薫子を見て、ドキドキした祐希は照れて横を向いた。




