第三話 やっばり?むしろ?==加筆・修正あり
そして待ちに待った連休明け。
今日バインダーを返されると思っただけなのに薫子はもうドキドキしてる。『また来てないって事も……』
今日もまた座学だけの日、祐希にずっと前に座られてる事を考えると心臓がもたない気もして来た。
講義室に入った時、何かいつもと違う空気感を感じながら自席に向かうと既に前の席に祐希が座っていた。
『もう来てた……』
前の三席はまだ来ていない。
机の横の階段を上がるたびに心臓が口から飛び出しそうって、こういう時に使う言葉なのだと思い知った。
それを知ってか知らずか祐希は薫子に気づくと席から立ち上がって
「おはよう、三枝さん」
と声を掛けて来た。
「おはようございます」
頭を下げると、自席に向かい席に着いた。
すると祐希が振り返り階段を一つ上がって薫子の席の横に立つと、
「お借りしていたバインダー今日お返しして大丈夫ですか?荷物に重い日じゃないですか?」
と聞いて来た。
確かに今日は哲学と建築歴史があるから荷物はあると言えばあるけれど、『心配してくれるなんて、優しい』と思いながらも
「そのくらい大丈夫です」
そっけなく言い返す。
その時前方の三人がわいわいと講義室に入って来てが、薫子達二人の様子をチラッと見て静かに席に着いて、聞き耳を立ててる様だ。
一旦自席に戻った祐希は、机上に置いてあったバインダーを左手で持つと何か妙な体勢でまた薫子の机の横に来てバインダーを差し出して来た。
「では、有難うございました」
「はい」
彼女が受け取ろうとしてるのにその手が離さない。
そのあと、後ろに隠れてた右手で金色の綺麗な箱をバインダーの上に乗せた。
「これは助けて貰ったお礼だから対価です」
と言う。
薫子は慌てて手を引っ込めた。
「お礼は無しでって言いましたよね?」
「連休中に四月に休んだツケが回って来て物理とか実験レポート提出する事になった時、本当に三枝さんのノートに助けられたんです」
「それでも困ります。」
「俺も困ります。一度出したものは引っ込められません」
『どうするワタシ?信念を曲げる?』
実は少し甘い香りがしてる多分チョコレートだと薫子は思った。が、
「失礼ながら中身は何でしょうか?」
祐希に尋ねる。
「え?…チョコレートだけど」
「形状は?……」
「形状?あぁ、粒チョコです」
「えーと、何粒でしょうか?」
「四粒です」
『これだ!』と思い、
「わかりました!有り難く頂戴致します」
バインダーごと受け取ると祐希がポツリ、
「やっぱりな」
と呟いたような気がしたが、その後、薫子がすぐに金色の箱のリボンを解いたのを見て、かなり驚いた様に、
「えっ?今食べるの?持って帰って食べたら?」
慌てている祐希の進言?を無視して箱を開けた。
「わぁ綺麗なチョコですね!色々な形……お味が違うんですね?」
「あぁうん、一粒ずつ違う味だけど」
「では」
他の学生達には見えない様に箱を持って階段を降りるとまずは香山に
「おひとつ、どうぞ」
「えー!オレに?」
香山は祐希の方を見ながら小さな声で
「これ祐希から今カコちゃんが貰ったんだよね?」
「はい所有権は私にあるので、どうするかは私が決められます、美味しいものは皆んなで食べたいので一粒取って下さい、お願いします」
「オレが一番か〜」
「あいうえお順です」
「じゃ、これ」と一粒取って口に入れた。
「旨っ」
そして薫子には見えない様に祐希の方に向かって拝む様な手つきをした。
次の木元は観念してたのか、
「ありがとう」
と一粒すぐ口に入れ、薫子が草壁の方に向かった後、祐希に声を出さずにごめんと言った。
草壁はと言えば素直に、
「わー有難う!美味しそう!」
一粒取った。
残りは一粒。
「では琥原さん」
「えっ?俺が食べるの?皆んなって自分のことじゃないの?」
「勝手な事してごめんなさい。それでも私も自分の言ったことを曲げられません」
残りはハートの粒チョコ。
「でも」
と祐希。
すると薫子は、
「琥原さんは遅れて大学にいらっしゃいましたよね。入学式から来られなかったのは何らかのご事情があって大学に来るには前向きな気持ちになっていないと、ご友人方から申し訳ありませんが勝手にお聞きしていました…だからこそ、最後のこの一粒は琥原さんに食べて頂きたいんです」
「なぜ?」
「最後の一つって何だと思います?」
「まさかの……残り物?」
「正解です!残り物には?」
「福がある?」
「ちょっとでも福が溜まって前向きな気持ちにますますなりますように!本当に本当に勝手ですが私からの気持ちです」
「ハートのチョコなんだけど……」
祐希が恥ずかしそうに返すと
「それは……たまたまです」
「でも嬉しいよ、三枝さんの気持ちは有り難く受け取る、ご馳走様」
と笑顔でハートの粒チョコを取ると口に入れる。
『本当は自分が買って来たチョコなのに、ご馳走様って……受け取らなくてごめんなさい』
薫子は思いつつも、嬉しそうにもぐもぐ口を動かす、その様を見て今まで何故か平静を保っていた心臓がまた急に暴れ出すのを感じた。
照れ隠しの様にチョコレートの入っていた箱を元通りにしてリボンを掛け直しながら、
「綺麗なお箱だから、こちらは頂きますね。有難うございます」
薫子を見ながら、祐希が
「空箱なのに?」
「お菓子の箱とは思えないほど綺麗だし……」
思わず祐希に笑顔を返してしまう。
「むしろ…」
祐希が呟き
「はい?」
薫子が聞き返すと、
「何でもないよ」
ちょっと頬を赤らめた祐希はにっこり微笑んだ。
その時、薫子は心臓大爆発を経験した。




