第三十二話 普通のデート?①【いざ鎌倉】
六月に入ってからのとある日曜日。
二人は鎌倉に来ていた。
授業の帰り道、祐希が薫子を自宅近くまで送るのは恒例になっていたが、日曜日に出かけるのは、まだ三枝家のご両親にご挨拶も終わってないからと本当に久々の遠出だ。
実はこの帰りに鎌倉土産を持って、ちょっとした挨拶をしようと祐希は目論んでいた。
今回、薫子に"普通のデートもしたい"とおねだりされて祐希が選んだのが鎌倉だった。
そろそろ紫陽花も見頃のはず、二人ともたくさん歩く前提で軽装で来ている。
ご飯も美味しそうなところを選んでくれているらしい。
祐希は一人歩きで、どこにでも行くが、自分の直感で外観だけなのか?内装も見るか見ないかを判断する。
さすがに上野は聖地なので名称を覚えていない建築物はなかったが、ここ鎌倉での話をするとすれば、道はわかれど神社仏閣名はきちんとは覚えていなかった。
ただ名所案内も兼ねたいと祐希は考えていた為、思い切ってガイドブックを買い丸覚えしてデートに備えることにした。
鎌倉駅の西口に出ると、御成商店街が続いている。
どこか懐かしい雰囲気のある街。
「この辺は小町通りよりも落ち着いてて地元の人も買い物に来たりしてるんだけど、何だか混ぜこぜな感じがいいんだよね」
祐希に言われてみて、気にしてみたら確かにパン屋、酒屋、肉屋、八百屋なども軒を並べている中、映画館とパチンコ屋などがあり、薬局や文房具屋と隣接しているのにはちょっと驚かされた。
そして御成通りの終点を右折して由比ヶ浜商店街通りに歩みを向ける。
六地蔵を通り過ぎ、刃物屋の重厚な雰囲気に呑まれつつ、両開きの引きガラスの扉に"包丁研ぎます"と手書きの張り紙があるのに何故かホッとする。
昔ながらの商店街と普通の住宅の敷地が混在する通りらしく、鎌倉彫の工房や、古い薬局、和菓子屋なども点在していた。
「まずはこんな感じのところをブラブラ歩いて大仏様を見てから、極楽寺の方に行こうと思うんだけど」
「琥原くんのお勧めだと思うと楽しみです♪」
身体を気遣う祐希に元気いっぱいに答える薫子に
『あーもう本当に可愛い…でもいつになったら、
"ですます"じゃなくなるんだろう』
ニコリとしながらも小さなため息をついた。
途中"ギルド"という、色とりどりのプラスチックでできた指輪やキーホルダーに文字入れをしてくれる店があったが、
「俺達には、これがあるから」
祐希が自分のペンダントに手を添えた仕草に胸が熱くなる薫子。
ただ、『あれ?そう言えば今日は手を繋ごうってなってない』と薫子は思い、思わず祐希を見上げた。
「ん?何?疲れた?」
「え?あっいえ」
「何だか、いつもと違うと、ようやく気づきましたか?お嬢さん」
祐希が笑いながら言う。
気持ちを見透かされた様で真っ赤になる薫子に
「このデートはカコちゃんのおねだりだし、たまにはカコちゃんからのおねだりも欲しいな」
と祐希。
『え!!?私から?』と祐希の顔をまん丸目で見ると、祐希は立ち止まる。
薫子も立ち止まると決心したかの様に
「迷子になると困るから手を繋いで下さい」
左手を祐希に差し出した。




