第二十八話 カッコよすぎる彼⑩
線がだんだんと整って行く。
「大きなハコで捉える。細かいところは後回しにして建物を巨大なキャラメル箱みたいな単純な四角柱として描く。そこで建物の高さ、幅、奥行きの比率をこの段階で確定して屋根の傾斜やベランダの出っ張りも、まずはこの箱に補助線を引いてアタリをつける」
ここもサッと描き入れる。
「次は補助線で窓やドアをパース線に沿ってガイドラインを入れる。遠くに行くほど窓の幅が狭くなるように、パースに合わせて調整して窓枠やドアの厚みを描き込むと、どう?」
「建物らしくなって来ました!」
「あとは、線画のメリハリ、同じ太さで描かないで強弱をつけるんだ。例えば建物の外郭や、影になる角の部分は太い線、窓のサッシやタイルの目地とかは細い線、それと手前を濃く、奥を薄くするだけで遠近法がとれて奥行きが強調出来る」
自分の手で描いているかのように祐希が手を動かしてくれるのをワクワクしながら見つめる薫子の息遣いを感じながら祐希も気持ちが昂まる。
「仕上げは陰影、陰をつけることで平面から立体へと変化させる。太陽の位置を一つ決めたら軒下や窓の窪みに大胆に影を入れて、コンクリート、木材、ガラスなどの質感を部分的に描き込むんだけど、全部描かずに"端だけ"描くといい感じに見えるようになって、ないものも入れちゃう街路樹とか人物、車をさっと描くと、建物の大きさが分かりやすくなる」
「まるで違うものです……琥原くん、もうここまで出来ちゃうんですね。すごい」
驚きと興奮で頬を赤らめている薫子の横顔を斜め後ろから見つめながら、一年生では流石にここまで描けるのは稀なはずで祐希も
『あー、やっちまった……ここまではまだ誰にも見せたことなかったのに調子に乗って俺ってダメな奴』つい格好つけてしまった自分が恥ずかしかった。
その時薫子が
「あっ!!」
と大きな声をあげた。
「え?何?どうしたの?」
祐希が後ろから薫子の両手に自分の両手をそっと添えて、落ち着かせようとした。
が、
「ごめんなさい……私ったら琥原くんに寄りかかってましたよね?」
慌てて振り向く薫子。
「えーと、なんか嬉しかったけど……」
目が合ってドッキリしながら祐希が言いかけた時
「私……琥原くんのこと……」
「なに?」
「気持ちのいい背もたれって思っちゃってました」
薫子はサッと立ち上がり頭を下げる。
「ごめんなさい」
「え?」
今思えば、手を繋ぐ時にもドキドキが伝わるほどの緊張をして手が冷たく感じる時もある薫子が何故こんなに寄りかかってくれるのだろう?と不思議には思っていた。
祐希も立ち上がると薫子の目線に合わせて屈むと
「ずっと勘違いしてくれてたら良かったのに」
と、笑った。




