第二十六話 カッコよすぎる彼⑧
東京国立博物館。
その建物から少し離れたところの芝生に薫子が持参して来た二人用の遠足シートを広げると、そこに荷物を下ろし、それぞれスケッチブックを取り出してお互い無口に博物館のスケッチし始める。
薫子は美術で習う様な絵描き方で建物全体を描こうしていた。
途中、祐希は立ち上がると建物により近づいて何か描き込み始めたらしい。
その時、観光客なのか英語でアメリカ人っぽい女性二人が祐希に
「Excuse me、Where do you come from?」
どこから来たのと軽く声をかけて来た。
祐希のことを日本人と思ってないようだ。
それに対して祐希は流暢な英語ではっきりと
「Actually, I'm Japanese, and I'm having a date with my girlfriend. I’d appreciate some privacy.」
日本人だし、彼女とデート中なんだ。
プライバシーを尊重してくれると助かるよと薫子の方を見ながら二人組に返した。
すると外国人女性の一人が
「You've got to be kidding. Her? She looks like a child. You're so hot, you could do so much better.」
冗談でしょ。
あの子が?子供にしか見えないわ。
あなたすごくイケてるんだから、もっといい相手がいるはずよと言い返す。
それに対して祐希は冷たい視線を女性達に向けながら
「Her worth is not for you to judge. Back off.」
彼女の価値は君が決めることじゃない。すっこんでろと言い切った。
女性二人組は大袈裟にやれやれと言う風に手を動かしながら、歩きながら何やら口々に
「What a waste!」
「It's a shame.」
もったいない!とか残念ねと言いながら立ち去って行った。
その会話をだいたい理解出来てた薫子は、
『琥原くんって英語ペラペラなんだ、しかも何かものすごい事、私のことで答えてたよね。申し訳ないな……あんなに美人の外人さんに声かけられたのに』と思っていたところに祐希が戻って来た。
スケッチブックを抱えてる薫子の後ろから、その身体を包み込む様に腰を下ろす。
その長い両脚の先の黒コンバースははシートからはみ出してる薫子の両足よりも先に出ている。
そして薫子の右肩に顎を乗せると、薫子が顔を真っ赤にしているのをよそ目に、わざと耳元で
「今の会話、聞こえちゃったよね?」
と聞く。
喋りは得意ではなくても、薫子は成績優秀なので英語の会話の意味は理解していたかもと思い、彼女を傷つけたのではと考えたのだ。
だが、当の薫子は
「聞こえました……けど、嬉しかったです」
と答えながら、祐希の身体に寄りかかり顔に頭を寄せながら
「発音が上手で母語話者かと思うほどで驚きましたが、お口は悪そうですね」
祐希はそんな風な態度を取られた上に揚げ足まで取られて慌てて言い返す様に
「自慢じゃないけど幼稚園から英語の授業があって
中高の時も先生はみんな本物のネイティブアメリカンだったから…」
「え?でも今大学の英語の講師は日本人の先生ですよね?」
薫子が真面目に聞き返すと
「大学生は本来もう基礎が終わった状態のはずだけど、日本にガイドラインがあるものの教育方針とか曖昧だから、また基礎勉強に戻るみたいなところがあるじゃない?そこにネイティブの先生は必要ないって感じかな?むしろ混乱するかもしれないし」
「発音が良すぎてですね!」
面白そうに薫子が笑った。




